敷き込んだ手の痺れの様に
悪い夢に魘されて目が覚めた。
弄っていてそのまま寝落ちしてしまったのか……スマホが首の下あたりに転がっている。
それを拾い上げようとしたら、右手が体の下に敷き込まれていて……痺れて指が動かせない。
そう! 右手はビリビリとして感覚が無く、オレの目にはまるで不格好なグローブの様に見えてしまう。
そんな右手を感覚が生きている左手の指で……窓の外のネオンの明かりを頼りに……闇の中から“型抜き”するかの如く、なぞってみる。
「このまま、指が動かせなくなったらどうしよう?」
「そんな事は無いさ! 少し耐え忍んだら元に戻る」
「でも、そんな保証は無い!」
「保証は無くとも、経験で分かる!」
「でも! こんなにも痺れて感覚が無いんだ!」
「だからどうだと言うんだ?! たかが右手くらいで…… お前、自分の置かれている状況を忘れたのか?!」
ここまで自問自答して……オレは自分を“取り戻して”しまった。
どうしようもなく悲惨な自分を……
オレは親の『借金のカタ』にオレオレ詐欺の“かけ子”にさせられてしまった。
アンダーグランドの債権者から日々突き付けられる恐ろしい額の利息!!
そこから逃れる唯一無二の方法が……この債権者が関わっているオレオレ詐欺の“かけ子”をやる事だった。
オレは……ズラリと“ブース”の並んだ“かけ子”の群れの中で、こう叫んでいた。
「どうしようも無い借金を負ってしまった!! どうかどうか助けて欲しい!!」
これは真実の叫び!!
ただ、叫ぶ相手が“非道な”実の親では無く……自分の息子の心配をする“善良”な親達であると言う事だ!
だからオレは二重三重に泣けてしまって……その“叫び”が相手に届いてしまい、結果的にお金を引き出せた。
ひょっとしたら……その中の一人くらいはオレのウソに気付きながらも……騙されてくれたのかもしれない。
でも、それも……最初だけの事。
物事の要領を掴むと心は失われる。
今のオレの心は……この『感覚が失われた右手』と全く同じで……
このタコ部屋で……いつか死んでいくより先に……
心の方が完全に死んで無くなってしまうのだろう。
<了>




