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「さて、家族会議を始めるわ」


 マチルダの号令とともに、クラーク家の八人兄弟姉妹が集まった応接間では、奇妙な緊迫感が漂っていた。今日の家族会議にはジョージの妻サラも来ており、これでクラーク家の全員が集合したことになる。

 アイリスは大叔母マチルダの隣に座らされ、すぐ近くにはエドモンドが座り、全員がソファに座る。少し離れた場所には椅子に座っているバルフォアドがおり、厳めしい表情でありながらどこかわくわくした顔で全体を見ていた。すました顔をしながら、楽しそうに見ているのはロベルトも同じであろう。ロベルトは壁際に立ち、いつものように控えていた。

 

 ロビアナの王太后が出席した舞踏会は連日、新聞に掲載され、この国だけではなくニューキャッセス中で大きな話題になっていた。新聞の一面にアイリスとエドモンドのダンス写真が載り、その写真にまるで物語のようだと人々は熱狂した。アイリスたちの衣装とダンスの美しさや、王太后とアイリスの会話もしっかり記事にされ、かなり好意的に、いや好意的以上の言葉で称賛されていた。  

 連日、記者たちがクラーク家に押しかけてくるので、うかうかと外に出られない状態になっている。今では、アイリス・フォン・ディーンマーク女侯爵とエディオン海運のCEOのエドモンド・クラークとの大陸を越えた世紀のロマンスとして、報道が過熱していた。アイリスはその新聞記事を恥ずかしくてまともに読めなかった。仲良く見つめ合っていたとか、ダンスの後はホテルの庭園に二人で過ごしたなど、まるで見てきたかのように書かれている。ただ庭園でのことはそれほど間違っていないので、本当に恥ずかしかった。エドモンドに庭園でのことを見られていたのかと聞くと、想像でしょうとあっさりと言われ、アイリスは何とも言えない気持ちになったのは昨日のことである。


 パーティーが終わってまだ四日しか経っていないのに、もうこの状態である。今後、報道が過熱する一方だろうとクラーク家全員の共通した見解であった。そして、マチルダは今後のことを話し合うために子供たちを集めた。


「今後のことで、みんなもいろいろと考えがあると思うのよ。特にエドモンド、エミリー、イーサン、あなたたちは私に話さないといけないことがいろいろとあるわよね?」

 名前を呼ばれた三人はお互いに顔を見合わせ、誰が先に話すのかを目で訴えているように見えた。アイリスももれなくマチルダに色々と話をしないといけない立場であったため、視線をさまよわせた。


「あなたたちの話を聞く前に、最初に私から話があるわ」

 マチルダはそういうと、バルフォアドの方をちらりと見てから子供たちの顔を見た。


「私はなるべく早く、セロースに行きます。アイリスがセロースに帰国するタイミングで一緒に行こうと思っています。両親や兄のお墓にも行きたいし、フォスター家の屋敷やあの屋敷を守ってくれている人たちと会わないといけない。フォスター家をどうするのかを決めるためにも、一度セロースに戻る必要があるわ。まずは私からは、今のところ話というのはこれだけよ」

 それには、アイリスを含め子供たちはうなずいた。マチルダが帰ると言い出すことはわかっていたことであったからだ。


「それなら、次に俺が話す」

 手を上げたのは、イーサンだった。兄弟姉妹たちはイーサンに注目した。

「俺は、あと半年で高等学校を卒業する。その先の進路だけど、セロースのフォスター家の土地に行こうと思う。本格的にフォスター家の宿泊事業をやりたい。爵位の継承は無理だけどフォスター家の屋敷と土地は守りたいし、新しい試みをいろいろやってみたいと思っている」

 ジョージがすぐにイーサンに反論した。

「今のままだとおまえがあちらにいっても役に立たないよ。もっと専門的に学ばないといけないことがたくさんあるでしょう」

 イーサンは真剣な顔でうなずいた。

「これから卒業するまでの半年、こちらで宿泊事業や経営をつめこみで学ぶよ。あちらにいったら古き大陸のことはほとんどわからないから、学校に行くのか、それとも他に学ぶ方法があるのかわからねえけど勉強する。そこはアイリスの手助けをしてもらいたい」

 

 イーサンは期待をこめた眼差しでアイリスを見た。アイリスは少し考え、ロベルトの方を振り返った。


「ロベルト、あなたの意見はいかがでしょうか?」

 ロベルトは柔和な表情を崩すことなく、主の質問に答える。


「よろしければ、執事としての教育を受けられたらいかがでしょうか?もちろん、本物の執事になっていただくわけではございません。しかし屋敷の管理や貴族社会を含め古き大陸を勉強なさるのであれば、とてもよい学びになられると思います。ちょうどフォスター家の執事であるマルクスも、主がいなく暇を持て余しておりますのでお任せいただいてよろしいかと思います」

 

 アイリスはロベルトの意見に納得した。

「イーサン、執事の主な仕事は資産と家政管理のプロフェッショナルです。それ以外にもパーティーや社交のイベントの企画と運営、来客の対応、それに貴族や上流階級に対してのマナーも覚えます。人に仕事を采配するということも実地で学べます。あなたにとって、どのような学校に通うよりも大きな財産となる学びを得られるでしょう。どうでしょうか?」


 イーサンはアイリスの言葉に大きく息を吐き出し、挑戦者のような目で大きくうなずいた。

「やってみたい。どこまでできるか自分を試してみたい」


 これまでと違って甘えのないしっかりとした顔つきに、三人の兄たちはそれぞれ楽しそうに、やれるものならやってみろというように不敵に笑った。そんな兄たちにイーサンは、むっとした顔でにらんだが何も言わなかった。

 アイリスはイーサンの意思を受けて、セロースでイーサンを受け入れることを承諾した。アイリスの内心では、この話をマルクスが聞けば嬉々として引き受け、またあまりの楽しさに若返るのではないかと思っていた。浮かれるのはマルクスだけではなく、フォスター家の屋敷に仕える者たち全員であろう。


「イーサン、あなたの今後の進路はわかったわ」

 マチルダがそう告げると、すっかりおとなしくなったミアが寂しそうな表情をした。アイリスはそんなミアの横顔を見つめながら、今後のことは本人が見つけるしかないことだとわかっていたが、どうにか幸せになれる道を見つけてほしいと祈る気持ちであった。


「それでは、次は私かしら」

 エミリーが手をあげると、最高に幸せですと言わんばかりの笑顔で告げる。

「私、サムエル・ライダーと婚約します。彼からプロポーズを受けたし、私もそれを受けたわ」

 高らかな宣言に、兄弟姉妹たちから歓声が上がった。クロエとマーシュからおめでとうの言葉を言われ、他の兄弟たちもほっとした表情をした。ジョージの妻サラは、笑顔で夫の背中をバシバシ叩いている。サラはとても明るく元気があり、すでにジョージを尻に敷いていた。


「彼なら文句ないな。仕事はどうするの?」

 ジョージが聞くと、エミリーは双子の兄ににんまりとした。

「あら、夫婦で働くわよ。これを機会にフリーはやめて、サムエルの会社に入るわ。インテリアデザイナーとしてね。私は彼の仕事にとても興味を持っているの。サムエルは古き屋敷の良さを損ないたくないけど、でも依頼によっては現代風の内装を望む人もいて困っていたそうよ。私ならサムエルの希望に添えるデザインを提供できるわ。お互いに意見が一致したということよ」

 男兄弟たちは、それはよかったと笑った。クロエとミアは姉の希望がかない、素直に喜んだ。


「私の紹介がこのようなことになるとは思いませんでしたが、まあ、よかったと言えばいいのでしょうね」

 エドモンドはどこか複雑そうな表情であった。アイリスがなだめるように手に触れると、ちらりとこちらを見て嬉しそうににっこりとした。エドモンドは、庭園での告白以降びっくりするほど甘い表情を見せてくる。とても嬉しいのだが、恥ずかしい気持ちの方が勝り、どうしても引いてしまうことがあった。今も手を離そうとしたが、がっちりと握られてしまった。


「婚約はわかったけど、結婚はいつぐらいにするのかしら?」

 マチルダも娘の婚約が決まったことは喜んでいたが、まだ、どこか不安そうな表情であった。

「ええ、早く結婚したいと思っているわ。二人で話をしているのだけど、いろいろと準備をして半年後と決めているの」

「そう。よかったわ。エミリー、おめでとう」

「お母さんありがとう」


 結婚の日取りまで決めていると聞いて、ようやくマチルダの表情からも憂いがなくなった。前のときは婚約までしたのに日取りが決まらず、そのまま解消になってしまったことが引っかかっていたのだろう。エミリーとサムエルが、そこまでお互いに話しているのなら心配する必要はないだろう。


「さて、それではあなたの番よ」


 マチルダは再び真剣な表情になると、じろりと長男を見た。その言葉と同時に兄弟姉妹の視線が長兄エドモンドに向けられた。アイリスはその視線に心臓がどきどきしてきた。エドモンドのプロポーズを受けたが、今の時点では結婚どころか離れ離れになることは決まっていた。アイリスは二人で話をしていかないといけないと思っていたが、まだ話ができていなかった。そのようにマチルダたちに話すしかないだろうとエドモンドを見ると、エドモンドはにこやかな表情で話し出した。


「アイリスに結婚をしてほしいとプロポーズしたのですが、プロポーズを受けてくれました」

「おお!」

 そう声を上げたのはイーサンとマーシュで、エミリーとクロエにサラは嬉しさのため小さな悲鳴を上げた。

「あら、それはよかったこと。それで?」

 マチルダの冷静な問いかけに、ジョージとダニエルの表情も真剣であった。 


「お母さんにお願いがあります。私にフォスター子爵の爵位をください」

 エドモンドは平然と爆弾発言をした。それには、さすがに静かに事の成り行きを見ていたバルフォアドやロベルトも目を見開いた。一瞬、応接間が静まり返り、マチルダはまじまじと長男を凝視した。


「あなたはフォスター家のこと大嫌いじゃないの。もし私の子の中でフォスター家を継ぐとしたら、あなたが一番ふさわしいわ。でも、一番継ぐことを拒否するでしょう」 

「ええ。一番拒否しますね。しかしアイリスと結婚をするのなら、少なくとも子爵ぐらいにはならないとつりあいません。貴族の方々とやりあう、失礼、対応するには爵位が必要でしょう」

 アイリスはあまりの驚きに言葉もなく、エドモンドを見つめた。エドモンドは笑顔でマチルダに言った。

「それはそうでしょうけど‥‥やりあうことなどあるの?」

「それはセロースに住みますし、貴族社会に入るのですからいろいろと対応することも出てくるでしょう」

 今、エドモンドの口から聞き捨てならないことを聞いた。

「え?セロースに住むのですか?!」

 アイリスのいつもと違う甲高い声にエドモンドは大真面目にうなずいた。

「私は結婚したら、一緒に住みたいです。遠距離など論外ですね」

「で、ですが、お仕事は、そう、お仕事はどうなさるの?エディオン海運は?」


 兄弟たちは様子をうかがっているが、姉妹たちは口々に「どうするの」と叫んでいる。そんな騒がしい中、マチルダは奇妙にも笑顔であった。いや、笑顔はマチルダだけではない。バルフォアドとロベルトもにっこりと笑っていた。


「私はエディオン海運のCEOは退陣します。エディオン海運はジョージとダニエルに任せます。もともと父が生きているときからその予定でしたので、驚くことではありませんよ」

「でも、これまでエディオン海運の発展のために尽くされていたのでしょう。もしセロースに行くために辞めるのであれば‥‥」

 アイリスは泣きたい気持ちになり、顔を歪ませた。エドモンドは真剣な表情でアイリスの顔を見た。


「セロースに行くためだけではありません。私はもともとそれほどエディオン海運に興味があったわけではないのです。自分で会社を立ち上げようと思っていたぐらいです」

「アイリス、それはエドモンド兄さんの言うとおりだよ。父が亡くならなければ、兄さんはCEOになんてなっていなかった。今まで、私たちのためにエディオン海運を守ってくれていたのさ。それで、エドモンド兄さんは何をやるつもりなの?」

 ジョージの言葉にエドモンドは悪そうに笑みを浮かべた。


「ええ、こちらにいるとできないことをやろうと思っています。古き大陸の内部から風穴を空けないと、進まないようですからね。外からいくら突っついても動きませんので、中から動かしますよ。まずはセロースからです。お母さん、確かに私はフォスター家の性悪な叔父が嫌いでしたよ。子供のころ、あの手この手といたぶられましたからね。本当に腹が立つ人でした。あちらには、あの叔父のような腹に一物ある悪辣な人たちがわんさかいるようですからね。ふふふ、やりがいがあります」


 とても嫌そうな顔でジョージとダニエル、そしてイーサンが引いていた。しかし、なぜかマーシュは何度もうなずいて、とてもにこにこしていた。


「まあ、エドモンド、驚きました。本当にフォスター子爵になるのですか?貴族議会にも出席されるの?」

 アイリスはまだ現実感がなく聞くと、エドモンドはとても良い笑顔でうなずいた。

「私がフォスター子爵を継承します。貴族議会か、楽しそうですね」

 とても悪い笑顔で言い切った。


「はあ、まあ、セロースに行くのはいいと思うわ。ただ、爵位を継承するのであれば、アイリスにお願いしなさい。アイリスが今のフォスター子爵よ。すでにアイリスが子爵位を継承しているから、それを私の方に戻すとなると王家にアイリスの爵位の継承を不服として申し立てをしないといけないわ。それは継承争いとみなされて良くは思われないわね。ですから、ディーンマーク侯爵から子爵位を譲渡する形で爵位を継承しなさい」

 マチルダはため息交じりで継承の方法を話すと、マーシュが興味津々と食いつかんばかりに尋ねる。

「侯爵が譲渡ってどういう意味?」

「貴族の中で一番の高位が公爵で次が侯爵なのよ。侯爵以上が複数の爵位を同時に持てるの。だから、アイリスはディーンマーク侯爵ですから、同時にフォスター子爵も継承できたのよ。複数の爵位のなかから譲渡も可能です。エドモンドは前のフォスター子爵の甥ですから、十分に譲渡される条件もそろっています。最終的には王家が承認しますが、認められるでしょう」

「へええ」

 クロエにイーサンまで感心した声をあげた。アイリスはマチルダの説明を聞いて、ようやくエドモンドがセロースに住むことを実感し始めた。そうなるとお互いに離れ離れになり、セロースに帰らないといけないと悩んでいたことを思い出し、腹立たしくなってきた。


「まあ‥‥何てこと」

 何も相談もなく決めていたことに怒りが湧き上がり、エドモンドを険しい目で見た。


「私には何も相談してくれませんでした!私はこれから一緒に話し合って決めるものだと思っていましたのに‥‥あんなに悩んでいましたのに、あなたは‥‥」

 それ以上言葉にならずに口を開けたり閉めたりしていると、エドモンドはさすがにまずいと思ったのか、上目遣いで神妙な顔をした。

「すみません、アイリス。確かにあなたに一番に相談することでした。もちろん、話をしようと思っていたのですよ」

「わ、私はセロースに帰ることを悩んでいたのですよ。離れ離れになると、それなのにエディオン海運のCEOを退陣されるなんて‥‥」

 涙目になったアイリスに、エドモンドは慌てて慰めるように手を握った。周りで兄妹姉妹たちの話し声が聞こえてくる。


「ほらな、ミア。エド兄は黙って、自分の好きなようにやるんだよ。誰よりも腹黒だから」

「本当ね。少しアイリスが気の毒に思えたわ」

 そんなミアのあきれたような声が聞こえた。

「おお、エドモンド兄さんも必死だな。まあ、結婚すれば尻に敷かれる気持ちもわかるだろうね」

「ジョージ、それはお前だけだ。俺は結婚してもそんなことにはならない。それよりも、アイリスに話していなかったのか、ひどいな」


 そんな兄弟姉妹たちを無視して、エドモンドはアイリスに懇願するようにアイリスの指にキスをした。

「アイリス、勝手に決めてしまってすみません。でも、私がセロースに行くことは嫌でしたか?」

「いやなどと、嫌なはずがありませんでしょう」

 指にキスされたことで涙が引っ込み、真っ赤な顔でそういった。するとごめんねと言う顔で見つめられ、思わずうめいてしまう。


「うわあ、平気でキスとかしている。そして、うまく丸め込もうとしているぜ」

「まあ、そういうな。イーサン、結果的にまるく収まるからいいだろう。おまえもエドモンド兄がセロースにいるのは心強いだろう」

 ダニエルの言葉にイーサンは小さな声で同意を示す。

「いや、助かるなあ。エドモンド兄さんが古き大陸にいてくれると、仕事もしやすくなる。どんどん、あちらに風穴を開けてほしいね。兄さん、ぜひ今後もよろしく」

 そして、ジョージは笑顔でエドモンドを応援した。


「アイリスばかりに負担がいくから、フォスター家の爵位をエドモンドが引き継いでくれるのはありがたいわ。しかし、本当にあなたは兄にそっくりよね。その腹黒さも。せいぜい、アイリスに嫌われないようにほどほどにしなさいね」

 マチルダは呆れたように言うと、エドモンドは不機嫌な顔で「もちろんです」とつぶやいた。マチルダの言葉にようやく周りが気になり、アイリスはおそるおそるエドモンドから周りへと視線を向けた。全員が生ぬるい笑顔でこちらを見ていた。

 このときばかりはこれまで受けた教育を忘れ、両手で顔を覆い、恥ずかしさのあまりうつむいた。


「エドモンドがセロースに行くのでしたら、根回しのためにも早々にあちらに行く必要はあるわね。そうね、全員でセロースに行きましょう。今の過激な報道も私たちが国にいなければ、少しはおちつくはずよ。一週間後、全員でセロースに行くわ!いいわね」

 マチルダは決めたと言わんばかりに、突然の宣言であった。ジョージとダニエルは潰れた声で呻き、マーシュにイーサン、そしてクロエはバンザイをして歓声をあげた。エミリーとミアは最初こそとまどった表情をしていたが、すぐにふっきれたような顔になった。アイリスは顔を上げて、ぽかんとした。


「いやった!古き大陸に行ける。幻獣に会える!」

「うおお、マーシュやったな!俺もフォスター家の屋敷とか城が見られる!」

「きゃあ、どうしよう。王子さまに会ったらどうしよう」

 バンザイをしながら口々に言った。


「ちょっと待って、俺たちも?」

「ダニエル、全員だからもちろんよ」

「お母さん、それはちょっと無理だよ」

 ジョージは泣き言が入る。しかし、意外な援護射撃は長兄から入った。

「いいですね。お母さんの案に賛成です。ジョージ、ダニエル、CEOの私がいいというのですから、休みを調整しなさい。古き大陸ですから少なくとも一カ月ぐらいバカンスのつもりで休みを取りましょう。それにクロエやマーシュにイーサンの学生たちはもうすぐで長期休みに入りますし、ちょうどいいですね」


 学生の三人はうなずきながら小躍りしている。アイリスは怒涛の勢いで決まっていくことに、あんぐりと口を開いたまま何も言えなかった。なぜか急速に物事が決まっていた。


「私もいいわよ。仕事を調整するわ。あ、サムエルも誘うわね。サムエルならフォスター家の屋敷やアイリスの城が見られるとなったら、何が何でも行くというと思うわ。それこそ、鬼のように仕事を調整するわね。どうしましょう。楽しみだわ」

 楽しそうに頬を赤らめてエミリーが言うと、ミアはそんな兄弟姉妹たちにため息をついて行くことを同意した。そんな中、絶望に震えているのはサラだ。


「そんな、そんな、私も行きたいのに!」

「いや、無理でしょう」

 ジョージにあっさりと言われ、本気で悔しそうな顔で夫をにらんだ。

「ジョージ‥‥」

「げっ、そんな恨めしそうな顔で見られてもね。妊娠しているのだから、長期の旅はやめたほうがいい。私も行くのをやめるよ」

「いいえ、あなたは行ってきてちょうだい。それでたんまりとお土産を買ってきてほしい。すぐにほしいものリストを作成するから、絶対に買ってきてね。あなたがいない間は両親のもとにいるから心配ないわ」

 瞬きせずに真顔で言われ、ジョージは小さな悲鳴をあげながら同意した。


「それなら決まりよ。一週間後には出発だから、みんな準備をしなさい」

 マチルダの号令に子供たちは同意の返事をし、今後の方針が決まった瞬間であった。アイリスは祖国には一人で帰ると思っていたのだが、どうやらにぎやかな帰国になりそうだ。


「アイリス様、それでは私は皆さまをもてなすために、先にセロースに帰国いたします」

 ロベルトの言葉にバルフォアドも手を上げた。

「アイリス様、私もロベルト殿と一緒に先に帰国します。爵位のことも早い方がよろしいでしょうから、さっそく帰国して準備を進めたいと思います」

 ディーンマーク家の忠臣の言葉に、アイリスはあきらめたようにため息をついた。


「わかりました。ロベルト、皆さまを迎え入れる準備をお願いします。バルフォアド先生、ありがとうございました。気をつけてお帰りください。無理はなさらないで、着きましたらお休みになられてください。ロベルトも無理をしないように」

 

「いえいえ、こんな楽しいこと休んでなどいられません。ご心配にはおよびません」

 二人の老人は息があったように答えた。


「それではクラーク家のみなさま、セロースでお待ちしております。エドモンド様、アイリス様をお願いします」

 ロベルトは洗練された動きでお辞儀をした。クラーク家の全員が元気よく一斉に返事をした。






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