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 床に倒れると思い、一瞬、目を閉じた。次第にめまいが収まってくると、誰かがアイリスの体を支えていることに気がついた。おそるおそる目を開けると、近くで銀の瞳が心配そうにアイリスの顔を見つめていた。

「あう」

 思わず変な声が出てしまい、今までの震えとは別の意味で震えてしまう。意識が遠のいていたところから、一気に覚醒すると、声が出ない口をぱくぱくと動かした。


「何があったのですか?」

 エドモンドはアイリスの肩を抱き、後ろに倒れないように支えながら、イーサンに険しい声で尋ねた。ふっと今まで耳に入らなかった音楽と人々の声が聞こえ、アイリスはようやく自分が人の目がある中で醜態をさらそうとしていたことに気がついた。


「イーサン?」

「いや、何もなかったような、あったような」

「それは、何かあったということですね」

 アイリスは慌てて否定した。

「いいえ、何も‥‥ありません」

「何もない?」

 エドモンドの目がじろりと先ほどまでアイリスがいた場所に向けられた。

「あれは誰だ?こちらを見ていますね」

 エドモンドの声は聞いたことがないほど低く、その横顔は恐ろしいほど険しかった。あの人がこちらを見ていると聞いただけで、再びアイリスの体は小刻みに震えだした。エドモンドは自らの体を盾にするようにアイリスを隠すと、周りへと視線を向けた。周りの者たちがちらほらと何事かとこちらに視線を向けていたからだ。


「休憩室に行きましょう」

「だ、大丈夫です」

「大丈夫には見えませんよ。顔色は真っ青で体も震えています。休憩室で休んだ方がいい。イーサン、ミアをお願いします。そろそろ母とエミリーもこちらに来るころでしょう。私たちが休憩室にいることを伝えてください。ミア、あなたも大人しく母が来るのを待っていなさい」

「ああ、わかった。その方がいいよ」

 イーサンの気遣うような声が聞こえ、アイリスは顔を上げてイーサンの方を見ると、心配そうにこちらを見ているイーサンと顔を歪めて複雑そうな表情で立っているミアがいた。

 このような場所でこれ以上の醜態を見せるわけにはいかないと、足に力を込めて立った。今でも心臓の鼓動が速く、呼吸も荒い。


「わかりました。自分で歩けます」

 アイリスはエドモンドの腕の中から離れたが、すぐにエドモンドに腕を組まれ、体を支えられた。

「危ないので、このままゆっくりと行きましょう。あの男はまだこちらを見ています」


 最後の方はアイリスの耳元でささやいた。まだこちらを見ているという事実に、ぞっと寒気がした。アイリスはエドモンドにエスコートされるままに、必死に足を動かした。

 どのようなことが起ころうとも冷静に対応するように教育を受けてきた。情けないと思いながらも、冷静になることができなかった。

 二人は会場から出るとひと気のない廊下を歩き、少し歩いた先にある扉を開き、中に入った。


「アイリス、ここに座ってください。本当に顔色が悪いですよ」

 それほど広くない部屋にはソファとテーブルが設置され、テーブルの上には水差しやコップなどが置いてあった。壁際には棚があり、棚の上には電話が置いてある。部屋の中は電気が煌々とついていたが誰もいなかった。

 エドモンドはアイリスをソファに座らせると、水の入ったコップを渡した。

「水を飲んだ方がいい」

「ええ」

 水を飲むと少しずつ落ち着きを取り戻し、手の震えが止まっていた。


「医者を呼んだ方がよいでしょうか?気分が悪いのでしたら、すぐに電話をかけます」

「エドモンド、ありがとうございます。大丈夫です。落ち着きました」

「本当に?」

「はい。お医者様は必要ありません。もう大丈夫です。しばらくここに座っていましたら、戻ることができます」

 アイリスが少しほほ笑むと、エドモンドはようやく安心したのか表情を和らげた。アイリスは次にこの部屋のことが気になった。休憩室に来たはずだが大人数が入れる広さはなく、ソファも四人掛けであった。

「ずいぶん狭い休憩室ですね」

「ああ、このホテルのパーティー会場の休憩室は共有の部屋もありますが、個室もあります。ここは個室ですので誰も入ってきませんから心配はありません」

「個室は特別なお客様用ではありませんか?大丈夫でしょうか?」

「私はアンダーソン家にとって特別な客ですから大丈夫ですよ」

 エドモンドは安心させるように笑みを浮かべながら、アイリスの隣に座った。アイリスはほっと安心しながらも、エドモンドが隣に座ったことでそわそわした気持ちになった。エドモンドはじっとアイリスを見つめながら、「それで」と呟いた。


「なぜ、あんなに怯えていたのですか?今にも気絶しそうでした」

 その質問にアイリスの肩がびくりと震え、自然と両手を握りしめていた。不思議な色合いの瞳がじっとこちらを見ており、その視線から逃れるように少しうつむいた。


「こちらを熱心に見ていた男性がいましたね。あの男性とはお知り合いですか?」

 気絶しそうになるほど震えた原因を答えることができず、だからと言って彼を知らない人だと言うこともできなかった。何と答えてよいのか迷いながらも、なぜ、彼があの場にいたのか頭を抱えたくなった。


「‥‥はい、知っています。まさかこのような場所で会うとは思いもしませんでした。彼は‥‥」


 あの人のことを考えただけでも恐怖が蘇ってくる。あの人は、アイリスが二度目の婚約を結んだ人であった。そして、アイリスを害する計画を立てていた人でもあった。

 その計画は未然に防がれたが、それ以外に彼が他の女性と関係を持っていたことも発覚した。計画は証拠不十分で、彼が警察に捕まることはなかった。祖父はこれ以上騒ぎ立てることで新聞社やメディアに目をつけられることを警戒し、アイリスの評判のために彼を追求することをあきらめ、婚約破棄だけにしたのだ。その後、彼はセロースから姿を消し、消息を絶ったと聞いていたが、ニューキャッセスにいるとは思わなかった。

 アイリスはちらりとエドモンドを見つめ、話す決意をした。


「彼はどのような方なのですか?」

「あの方は私の元婚約者だった方です。十八歳のときに婚約を結びましたが、あることが起こり、婚約は解消されました。それからお会いしていませんでしたし、彼も消息を絶ち、国にはいないだろうと聞いていました」

「元婚約者‥‥」

 エドモンドは目を見開き驚きの表情を浮かべ、何かを考え込むように顎を撫でた。アイリスは、今度は別の意味で緊張しながら、ちらりとエドモンドの様子を伺った。彼が元婚約者と知ってどのように思ったのか不安で胸が苦しかった。

「あなたを見ていた男性が今何をしているのか、調べたほうがよさそうですね」

 ぽつりと呟いた言葉にアイリスは息を飲んだ。エドモンドは険しい表情で考え込みながら、銀の瞳は真剣であった。

「それは、どうしてでしょうか?」

「私はセロースのディーンマーク家がどれほどの権威のある家なのか知らないほど無知ではありませんよ。その婚約がどれほどの重いもので、それが解消に至ったことやあなたの怯え方から見て、先ほどあることが起こったと言われましたが、それは犯罪に近いものが起こったと推測しました」

 エドモンドの鋭い推測に、アイリスは驚きのあまり胸に手を当て呼吸を整えた。

「国を出て、それも消息を絶つなど、相当な危険人物であると思ったのですが、私の推測ははずれていますか?」

「エドモンド、それは‥‥」

 確かにアイリスにとって危険人物に違いなかった。ここまで察しているエドモンドに詳しい話をした方が良いのかもしれないが、アイリスはその当時のことをすぐに話すことができなかった。エドモンドはそんなアイリスの様子を察したのか、安心させるように頷いた。


「無理に話をしなくてもいいのですよ。それに、ここは込み入った話をするには適さない場所です。落ち着いたのでしたら、今日はもう帰りましょう」

「‥‥いいのですか?それでは大叔母様に申し訳ないです」

「母ももう今日は帰ると言うと思います。そのような男がこの会場にいると考えるだけで、楽しい気分にはなれないでしょう」

「ええ」

 アイリスは情けない気持ちであったが、エドモンドの申し出はありがたかった。エドモンドはアイリスの顔を見つめたまま、不機嫌そうに小さく息を吐き出した。


「本当に腹立たしいですね。せっかく楽しむために来たのに、あなたを怯えさせるとはあの男はゆるせない」

「エドモンド?」

 不機嫌そうな表情が変わり、少し笑みを浮かべた。

「この大陸に来て初めてのパーティーですから、楽しんでもらいたかったのです。それに私はもっとあなたと話がしたいと思っていたので、あなたと話ができること楽しみにしていたのです。それなのに、ミアに邪魔をされ、今度は‥‥」

 子供のように文句を言う姿に、アイリスは小さな声で笑ってしまった。アイリスはこれまで自分のほうから男性に話をしたいと言ったことがなかったが、勇気を持って自分ももっと話がしたいと言おうと思った。自分のほうから男性に話がしたいなど、淑女としてはしたないとことであったが、ここはセロースでもなく、今は侯爵ではなくただのアイリスだと思えば勇気が出てきた。


「エドモンド、私もあなたともっとお話がしたいと思っています。あなたのことが知りたいのです」

 少し恥ずかしくなり、顔が赤くなった。エドモンドは優しい笑みを浮かべたあと、楽しそうな笑みに変わった。

「ええ、時間を作りますので話をしましょう。まずは、いろいろとあなたのご要望にお応えしましょう。わが社の船が見たいといっていたでしょう。近いうちに案内をしようと現場の予定を調整していたのです」

「まあ、船を見せていただけるのですか?それは温度調節ができる船ですか?」

 思わず興奮して少し身を乗り出すと、エドモンドはそんな姿におかしそうに笑った。

「ふふ、あなたは事業のことになると、とても楽しそうですね。もちろん、温度調節ができる船をお見せします。あと荷物の梱包方法や梱包に使用している素材など、商品によって分けているのでそれもお見せしようと思っています」

 アイリスはあまりの興奮に、知らず知らずのうちにエドモンドの右手を両手で握っていた。

「どうしましょう。なんて楽しみなのかしら」

 

 そのとき扉をノックする音が聞こえ、エドモンドはいぶかしげな表情を浮かべながらも家族が来たのだと思ったのだろう、短く返事をした。アイリスもミアやイーサンが来たのだと思った。しかし、扉を開けて入ってきた女性にアイリスもエドモンドも驚きのあまり、言葉なく固まってしまった。

 ゴージャスで煽情的なシャンパンゴールドのドレスを着た美しい女性は、エドモンドを見てうれしそうに側にきた。


「レイナ、なぜここに?」

 エドモンドの顔が微かにひきつり、突然現れたレイナ・アンダーソンに対してどこか非難するような視線を向けた。レイナはそのエドモンドの態度に少しとまどった表情を浮かべたが、自分が拒まれるはずがないと自信に満ちた表情で堂々としたものであった。


「会場にいないから探していたの。従業員に聞いたら、この個室に入ったと聞いたから、どうしたの?何か我が家のパーティーに不備があったのかしら?」


 レイナの青い瞳が探るようにアイリスを見て、そしてアイリスの手を見て眉をひそめた。アイリスはレイナの視線に、自分がエドモンドの手を握っていたことに気がつき、手を離すと恥ずかしさのあまりレイナの方を見ることができなかった。


「いいえ、アンダーソン家のパーティーはすばらしいものです。アイリスは少し具合が悪くなりましたので、ここで休憩をしていました」

「お医者様をお呼びした方がよいかしら?」

 レイナはエドモンドと会話ができるのが嬉しそうであったが、アイリスの顔色が悪いことに気がつき顔色を変えた。

「お気づかいをありがとうございます。もう少しここで休んでいれば良くなります」

 アイリスが何とかそれだけを言うと、レイナはさすがにホストとしての役割を理解しているため心配そうな表情になった。

「そう。具合が悪くなるようでしたらいつでもおっしゃってください。すぐに手配します」

「ありがとうございます」

 彼女の気づかいは本物であり、この場では立場をわきまえた態度を見せた。しかし、意識は常にエドモンドに向けられ、レイナはちらちらとエドモンドを気にしているようであった。

 

「この通りアイリスの具合が良くないので、パーティーを抜けてこのまま帰ります」

「え?もう?せっかくのわが家のパーティーなのよ。アイリスさんはわが家の車でお送りするわ」

「せっかくですが」

「あなたにお話したいことがあるの。そう、父があなたに会えるのを楽しみにしていたわ。ぜひ、父と会ってほしい」

「会長には最初にご挨拶しましたよ。彼女を一人で帰すわけにはいきませんので、今日はこのまま帰ります」 

 丁寧で穏やかな口調であるが、エドモンドの答えは決まっていた。この間も感じたことだが、エドモンドは常にレイナに一線を引いているようであった。そのことにどこかほっとする反面、そのように思う自分の心の浅ましさに後ろめたさを感じた。


「でも‥‥」

 レイナは未練があるのか、なかなか引き下がらなかった。また扉がノックされ、次に入って来たのはイーサンとマチルダであった。

「アイリス、大丈夫?」

 真っ先にマチルダはアイリスに駆け寄り、心配そうな顔で両手を握った。

「大丈夫です。ご心配をおかけしました」

 きっとイーサンから話を聞いて、急いで駆けつけてくれたのだろう。マチルダの少し乱れた髪形を見て、心配してくれたことが嬉しかった。マチルダはほっとした表情を浮かべ、レイナの方へと振り返った。


「ごめんなさい。姪の体調がすぐれないようなので、私たちは失礼させていただくわ」

 まるでレイナが引き留めていたことを聞いていたかのように、はっきりと帰ることを告げた。レイナは何事もなかったかのように、アイリスを心配するような表情になった。


「そうですね。これ以上体調が悪くなったら大変なことですものね。アイリスさん、お大事にしてください。それでは私はこれで失礼します」

 レイナがこちらを見たとき、彼女の青い瞳と視線が混じりあった。その瞳はどこか悔しげで、激しく燃え盛る炎のような強い光を宿していた。レイナは入って来たときと同じように背筋を伸ばし、堂々と部屋を出て行った。これまで黙っていたイーサンは彼女が部屋を出て行くと、苦虫を噛みつぶしたような顔になった。


「女って怖いな。エドモンド兄は完全にロックオンされているよな」

「イーサン、何ですかその言葉遣いわ。下品な言葉はやめなさい」

 マチルダの厳しい指摘にイーサンは肩をすくめた。しかし、マチルダも同じように思ったのか、深いため息をつきながら長男に意味ありげな視線を向けた。

「でも、確かに見過ごせないことではあるわね。エドモンド、あなたは知っているかしら。このパーティーは彼女の相手を見つけるために開いたものなのよ。アンダーソン家はそのようには言っていないけど、ご招待されている方々を見れば一目瞭然だわ。その主役たる彼女が、わざわざあなたを探してこの部屋まで来たのよ。彼女のあなたに対する気持ちがわかるというものよ。あなたが決めることだから私は何も言わないけど、もし彼女を望んでいるのなら早めに教えてほしいわ」


「お母さん、その心配は無用ですよ。今後、私が誰かを選ぶことがあったとしても、彼女だけはありえない。私がアンダーソン家の者である彼女を選ぶことはありません。どのようなことがあろうとも」

 

 アイリスはそのようにきっぱりと言い切ったエドモンドにも驚いたが、マチルダの悲しげな表情の方が気になった。それはマチルダだけではなく、悲しげな表情をしたのはイーサンも同じであったからだ。アイリスはもっとエドモンドのことを知りたくなった。


「それよりも、私は車を正面に回してもらうように手配しますので、ここで待っていてください」

「わかったわ。いきなり倒れそうになるなんて、医者を手配した方がよいのかしら」

 そんな必要はないと言う前に、エドモンドがマチルダに真剣な表情で向き合った。

「お母さん、彼女はこの会場で思いもよらない人と会って、驚きのあまり倒れそうになったのです。その者がここまで来ることはないと思いますが、一応用心してください」

「思いもよらない人ですって?」

「わ、私の元婚約者です」

 アイリスは勇気を振り絞って答えると、マチルダの顔が一変した。今までに見たことがないほど、とても険しい表情になった。その表情からは激しい怒りが感じられるほどでもあった。母親の険しい形相にイーサンは困惑を隠せずに兄を見たが、その兄であるエドモンドも冷たい表情をしていた。


「そう、それは驚くべきことだわ。イーサン、ミアとエミリーを呼んできてちょうだい。二人にはこのままパーティーに残ってもらおうと思っていたけど、もう帰りましょう」

「お母さん、いいのかよ」

「ええ、イーサン。今日の目的は果たしましたし、エミリーが残るのならミアもと思ったけど、あの子を残していくのも心配だったのよ。あの子はすでに失敗をしていますからね。みんなで帰りますよ」


 イーサンは帰れることが嬉しいのか、嬉々とした表情を浮かべるとさっそくとばかりにエドモンドと二人で部屋を出ていった。アイリスはせっかくのパーティーであるのに、このようなことになって申し訳ない気持ちになった。あのように具合が悪くなり倒れそうになるなど、ディーンマーク家の当主として失態と言ってもいい。どのような場面でもしっかりとしていなければいけないのにと歯がみする。


「アイリス、気にすることはないのよ」

 マチルダはアイリスの隣に座ると、慰めるように手を握った。

「あなたの婚約のときに起こったことは、ポロニャール夫人から聞いています」

「大叔母様」

「つらく信じられないことがあなたの身に起こったのね。その原因となる男性がこの会場にいるなんて、動揺するのも当然のこと。アイリス、会場にいた男性は一度目、それとも二度目のどちらの方がいらしたの?」

「二度目のときの方です」

「そう、恐ろしいこと。あなたが恐怖を持つのは当然のことよ」


 マチルダの顔色が悪くなった。その様子を見て、ポロニャール夫人から二度目の婚約のときにあったことを詳しく聞いているのだと、マチルダが知っていることに心が楽になった。マチルダには話しておいた方が良いとは思うのだが、当時のことをアイリスの口から語るのは今でも心が苦しかったため、話す必要がないことに安堵した。

 段々といろいろなことに頭が回り出すと、マチルダが恐ろしいことだと言った意味がわかってきた。先ほどマチルダは、このパーティーはアンダーソン家の娘であるレイナの相手を見つけるために開かれたものだと言っていた。そして、マチルダも独身の男性たちをエミリーに合わせるためにパーティーに出席していた。今回のパーティーはそのような結婚適齢期の娘を持つ家が多数参加しているのだろう。そんなパーティーに彼が出席したいたということは、彼の狙いは家柄のいい未婚の女性だということだ。


「大叔母様、何てことでしょう。彼は‥‥また」

 言葉にするのもおぞましいことを想像してしまう。

「その男性を調べてみましょう。いざというときは警察に通報しましょう」 

 

 アイリスを見て笑った彼の顔は、アイリスの脳裏に三年前の悪夢を蘇らせた。それはアイリスの自尊心を粉々に砕き、いやされない深い心の傷を作った出来事であった。




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