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アイリス・フォン・ディーンマーク女侯爵の評判は、素晴らしい教養と見事な立ち振る舞いから完璧な淑女と呼ばれ、事業家としての手腕から女傑と揶揄するように言われることが多かった。
この日、セロース国の王家主催のパーティーでも貴族たちの噂話の中にディーンマーク女侯爵の話題が上がっていた。もっぱら話題にして話しているのは、爵位も財産もない次男以降の子息たちであり、ディーンマーク女侯爵に対するあからさまな嫉妬を含んだ悪意のある言葉に満ちていた。女性でありながら爵位と財産を持っていることへの嫉妬、事業家としての手腕に対する嘲りと苛立ちによって話題は広まっていった。
ある子息は大きな声で、
「あんな美しくない女性と結婚したいと思う男性はいないだろう」
と言い、ある子息は、
「プライドがある男なら、傅かなければならない相手など選ばないよ」
と他の令嬢の前で話した。そして、女侯爵が過去、二回も婚約に失敗したことを揶揄した。このとき、当のディーンマーク女侯爵は身内の不幸のためにパーティーを欠席していた。子息たちは本人がいないことでよけいに歯止めが利かず、悪意をこめて女侯爵のうわさ話をした。
そんな中で結婚が決まっていない子息を持つ親たちは違っていた。自分の息子がディーンマーク女侯爵の婿になることができないかと、爵位と資産に目が眩んだ考えを抱いた。若い女侯爵には煩わしい身内は誰一人としていなくなり、結婚した相手がすべてを手に入れることができるからだ。
この日、王家主催のパーティーの至る所でディーンマーク女侯爵のことが話題に上がった。
まるで一族の終わりを象徴するかのように城のキープには旗がなく、鉄の棒はさびれたままであった。アイリスは生まれてから一度もこの城で旗が掲げられている姿を見たことがなかった。
この城の城主であるアイリス・フォン・ディーンマークは顔色が悪く、小柄な体を縮めてうつむいた。
祖父はよくアイリスに一族の旗が掲げられ、風でたなびく姿が忘れられないと零していた。昔のように軍事的な目的で旗を掲げることはなくなったが、曾祖父の代くらいからは慶事のときに旗を掲げていたと祖父が語ってくれたことを思い出す。この城で最後に旗を掲げたのは、アイリスが生まれたときであった。
アイリスは小さくため息をつくと窓から離れた。人のいない広大な城の中を歩きながら、遥か昔にはこの城の中を大勢の人が行き交っていただろうと思いをはせた。
百年前には城を守る騎士団や兵がおり、文官や使用人も多く、一番多いときでこの城に五百人が常駐していたと言われている。時代とともに騎士も兵もいなくなり、使用人も数を減らした。
現在はほとんどの部屋を閉め、使っていない場所のほうが多い。広大な城の中で使用している場所はごく一部となり、城としての役目は失っていた。閑散とした巨大な城は終わりを迎えようとしていた。千年近くもの間、この辺り一帯を支配してきた一族は最後の直系を一人だけ残し、消えようとしていた。
一族の最後の一人であるアイリスは生気のない顔で立ち止まると扉を開けた。祖母の部屋はきれいに片づけられていたが、まだ少し祖母が生きていたときの気配が残っていた。しかし、もうこの部屋には暖かい笑顔と言葉で迎えてくれていた人はいなかった。
アイリスは力なくソファに座ると、ぼんやりとテーブルを見つめた。彼女がこの莫大な資産の相続者であり、ディーンマーク家の当主として女侯爵を継承した者であった。ソファに座る姿は世間から言われるような完璧なる淑女で事業家としての手腕を発揮する女傑には見えず、容貌も平凡で小柄な体つきをした地味な女性がいた。
アイリスは十一歳のときに両親を事故で亡くし、祖父母に育てられた。その祖父母も高齢により二年前に祖父が亡くなり、二週間まえに祖母が亡くなった。アイリスには兄弟がおらず、そして両親ともに兄弟がいなかったため、近しい血縁者もいなかった。両親が亡くなってからは近しい血縁者は父方の祖父母と母方の祖父母だけであった。その母方の祖母はアイリスが十四歳のときに亡くなり、そして母方の祖父も二カ月まえに亡くなった。
数々の城や土地、多くの事業や従業員を抱え、手に余るほどの富を持っていても、アイリスは孤独だった。
「わかっていたことなのに」
そう、一人になることはわかっていたことだ。祖父母たちがアイリスを置いて旅立たれることはわかっていたことであったし、覚悟もしていた。そのためアイリスは両親が亡くなってからディーンマーク家の後継者として必死に勉強をし、十五歳には祖父から経営学を学び、実際に事業に携わるようになった。十八歳のときに祖父が倒れてからは、アイリスがディーンマーク家のすべての采配を振るうようになった。
「私は何をしたらいいのだろう」
なぜか体に力が入らなかった。たくさんのやらなければいけないことはあり、自分がやらなければならないことはわかっている。それなのに、まるで迷子の幼子のように、何もかもがわからなくなってしまった。
この城には使用人もいるし、長く勤めている執事もいる。生まれたときからこれまでアイリスを支えてくれた多くの人たちがいる。彼らはきっちりと仕事を行い、アイリスを主として十分すぎるほどの敬意を払ってくれていた。ディーンマーク家の所有地での産業は成功しており、この地に住む者たちは豊かな暮らしを得ていたし、ディーンマーク家は巨万の富を築いていた。
アイリスの一日はとても忙しい。土地を管理している小作頭と話をしなければならないし、祖母の遺産の確認のためにディーンマーク家の顧問弁護士を呼ぶ必要もあるだろう。
頭の中をぐるぐると考えながらも、急に一人でいることが怖くなってきた。そして、これからのことを考えると途方に暮れてしまった。
首を垂れ、アイリスは深くうつむいた。
「どうしよう‥‥‥」
脳裏には友人の令嬢から来た手紙の文面が過る。そこに書かれてあったのは、最近開催された王家主催のパーティーでのディーンマーク女侯爵に対する悪い評判であった。友人の手紙は、子息たちの悪意と欲深い貴族たちの思惑に気をつけるようにとの忠告であった。
一族の最後の一人として、そしてこの受け継いだものを守る者として、自分が真っ先にしなくてはならないことは婚姻であることはわかっている。でも、アイリスは二度の婚約の失敗から婚姻することが怖かった。
「どうしたらいいでしょうか、お祖母様‥‥‥」
その質問に答える人はいない。
アイリスは祖母の部屋で肩を落とし、孤独に苛まれていた。
老女はそっとアイリスの様子をしばらく見つめていたが、静かに扉を閉めると長い廊下を歩き、本館から使用人たちの棟に向かった。主の居住区から一番近くに位置する部屋の一つに入ると、その部屋にはすでに数人の老人たちが待っていた。
「ポロニャール夫人、アイリス様の様子はどうかね?」
この地域にある神殿を預かる神官が老女に尋ねると、老女は軽く首を左右に振った。
「気力を失っておられます。もう見ていられませんよ」
古めかしいグレーのスカーフを頭に被り、黒のゆったりとした長めのワンピースに白いエプロンをした老女ががっくりと肩を落とした。
彼女はこの城の侍女長でこの城に勤めて六十年になる。彼女の一族は遥か昔からこの城に常駐しており、彼女自身もこの城の使用人の棟で生まれた。アイリスの父のアンドリューを生まれた時からお世話をし、アイリスにも侍女として仕えてきた。彼女自身は結婚して夫を持ったが、夫は早くに病で亡くなり、子供たちはこの城の使用人の棟で育てながら侍女の仕事をしてきた。今では子供たちも立派にそれぞれ家庭を持ち、たくさんの孫もいる。子供たちが学校に行けて立派に育ったのも領主一族の援助のお陰であった。
子供たちからも侍女の仕事をやめてゆっくりとした老後を過ごしてはどうかといわれていたが、ポロニャール夫人にとってアイリスは子供たちよりも大切な存在であったため、側を離れる気持ちはなかった。最後まで領主一族に仕える決意をしており、今の状況を誰よりも心配している者の一人であった。
「私は思うのですが、アイリス様にはもっと外の世界を知る必要があります」
「私もそう思うが‥‥」
そう答えたのは執事のロベルトだ。彼も長くこの屋敷に勤め、これまで心をこめて領主一族に尽くしてきたし、その心は報いられてきた。他には神官のカタード、庭師のセス、小作頭のフォロット、弁護士のバルフォアドなどの、この場に集まった老人たちの領主一族に対する思いは同じで、何より家族が誰もいなくなってしまった若い未婚の女性のことを心から心配していた。
「本来ならしっかりとした殿方とご結婚していただきたいのに、本当にとんでもない男性ばかりです。なさけないことですよ」
ポロニャール夫人は憤慨しながら言った。彼女に似合う階級の者たちは、そろって金の亡者と嫉妬の塊のような男性しかいなかった。アイリスに夫どころか婚約者もいないのは、彼女の財産を狙ってトラブルがあったからだ。
アイリスは、ひどい嫉妬による悪意を向ける男性やあからさまな財産目当ての男性たちによって、これまで散々な目にあっていた。
「確かにひどい者たちばかりだった。アイリス様に似合う方がいらっしゃらない」
執事のロベルトはがっくりと肩を落とす。老人たちは悩むようにお互いを見合った。
「この辺りは田舎ですからね。王都の方なら若い人も多いですが、王都の者たちは田舎者を軽く見ている。残念ですが、この国にはアイリス様に似合う人はいません。それなら隣国に似合う男性がいないか探したらどうですか?」
神官カタードの提案に、弁護士バルフォアッドが反論する。
「周辺国は危険です。それこそ、ちゃんとした保護者がいなくてはなりませんな。しっかりとした身内の男性が側にいないと危険ですよ」
「ですが、アイリス様をこの城に縛りつけていても幸せではありません。あのように部屋にこもられていては、いずれお体を壊すかもしれませんよ」
庭師は日に焼けた顔を曇らせ、ごつごつとした硬い手を握りしめた。大柄な小作頭のフォロットは大きくため息をついた。
「思い切ったことが必要だということだな」
セロース国は古き大陸と呼ばれる地に建国され、周辺諸国の中でも一番古い国であった。古き大陸では時代とともに王国が少なくなり、共和制の国が増えていったが、セロースは今も王家が残る国の一つであった。周辺諸国は情勢が不安定というわけではないが、治安が良いとも言えない。それに隣国ではこの国の王都に行くのとあまり変わりがなかった。隣国は共和制になったと言っても、かつては君主制であった国である。いまだに君主制の名残が色濃く残っており、貴族階級であった者たちが国を支配し、古い慣習も残っていた。結婚や女性に対する思想はセロースと変わらなかった。
突然、ポロニャール夫人は何かを思いついたかのように顔を上げた。
「そう、思い切ったことが必要ですよ。それこそ、この悲しみを吹き飛ばすほどの変化が必要ですとも。そうですわ、ニューキャッセスに行くのはどうでしょうか?」
「ニューキャッセスですと!?」
男たちは一斉に驚きの声を上げた。ポロニャール夫人の瞳がきらきらと輝き、名案があると言わんばかりに男たちを見回した。
「新しくて刺激的な国です。古き大陸と違って身分もなく、自由な国ですよ。お金がない者でも、どんな人でも一攫千金のチャンスがあります。金持ちになればいい生活ができて、若い者には良い新天地でしょう」
古き大陸から海を越えた場所にある大陸で数百年前に移住した者たちが建国した。移民者たちは未開の地を開拓し、その大陸に二国の民主的共和制と大統領制の国が建国され、三国が存在している。その大陸をニューキャッセスと呼び、かつての未開の地は化学や産業が発展した目が覚めるような大都市が多く存在する場所になり、今ではこちらよりも繁栄していると聞く。
「科学が発展したごちゃごちゃした町で、人々は大声で話をするし、車の騒音で騒がしいというではありませんか。古き良き時代のない新しい土地など、俺なら行きたくありませんがね」
庭師の言葉に執事も小作頭も頷いた。ポロニャール夫人は呆れたように男性たちを見回した。
「別にあなた方に行ってほしいとは言っていませんよ。アイリス様のような若い人には良いのではないかと言っているのです。この古き大陸と違い、新しい価値観があります。そのような世界なら、もしかしたら良い男性が現れるかもしれません。それにですね、私には作戦があります」
「作戦とは?」
「カタード神官は覚えていらっしゃいますか?アイリス様の母君であるセシリア様の叔母様です。あの方はニューキャッセスにおられます。その方にご連絡をして、ニューキャッセスに滞在中は後見人になってもらえば良いのです」
「ああ、マチルダ様ですね」
神官は懐かしそうにその名前を口にした。
「マチルダ様‥‥」
男性たちは顔を見合わせ、遠い昔の記憶をたどった。
アイリスの母であるセシリアの実家も古い伝統のある貴族の家であった。セシリアには兄がいたが不幸なことに若くして亡くなり、セシリアの家は後継者がいないままとなってしまった。アイリスにとって祖父にあたるジェームズ・フォスターが二カ月前に亡くなったことで、アイリスは母方の実家であるフォスター家の財産と爵位を含めて相続することになった。
侯爵の爵位は下の爵位であれば引き継ぐことが可能であったため、フォスター家の子爵の爵位も継ぐことができた。
マチルダはジェームズ・フォスターの妹で、アイリスにとって唯一の近親者といってもよい存在だ。しかし、アイリスは大叔母マチルダのことを知らない。その理由は、マチルダが昔、両親の反対を押し切って平民と駆け落ちし、ニューキャッセスに渡り、それ以降帰ってこなかったからだ。
マチルダは家からは勘当され、特に兄であるジェームズ・フォスターが激しい怒りとともに彼女を生涯許さなかったことも、アイリスが大叔母を知らない理由の一つであった。本来であれば、フォスター家の爵位と財産はマチルダにも相続権があるはずであったが、ジェームズ・フォスターは病に倒れた後もマチルダに連絡をとらなかった。
マチルダが駆け落ちして四十年がたった。その間、その名前を出すことさえもジェームズは許さなかった。
「なるほど。そのようなお方がいるのですね。でも、その方がどこにいるのかわからないのでしょう?」
弁護士バルフォアドは難しげな顔で意見を言うと、男性たちは複雑そうな表情で黙り込んだ。しかし、その中で一人だけポロニャール夫人の表情は明るかった。
「マチルダ様はとてもお優しい方でした。あの方はニューキャッセスに行かれた後も、常にご両親を気にされていました。残念なことにご両親と和解はできませんでした。マチルダ様はご両親が亡くなられたときに、こちらに帰ってこられたことがあるのですよ」
「ほう、それはどういうことですかな?」
弁護士が身を乗り出して尋ねた。
「マチルダ様はご両親が亡くなられた時にひそかにこちらに戻られました。そのときにセシリア様に初めてお会いになり、とても親しく話されたそうです。しかし、屋敷に来られたマチルダ様をジェームズ様がお怒りになり、二度と来るなと屋敷に入れませんでした。セシリア様もお父様の言うことに従うしかありません。ですが、その後、マチルダ様とセシリア様との間でひそかにご連絡をとっておられたのです。それはセシリア様がお亡くなりになる前まで続いていました。セシリア様がお亡くなりになられたときに、私がマチルダ様にご連絡いたしました。私はセシリア様から自分に何かあったときには、マチルダ様に連絡してほしいと言われていたからですよ。そのときはまだジェームズ様もご健在であったため、マチルダ様もセシリア様の葬儀に参列することはせず、こちらにお戻りになることも控えました。私に手紙を送ってこられ、その手紙には何かあった場合には連絡してほしいと書かれてありました」
「私は覚えていますよ。マチルダ様はとても素晴らしい方でした。それにアイリス様にとって、唯一の血縁者です。これも神のお導きかもしれません」
神官は何度も頷いた。しかし、難色を示したのは執事のロベルトであった。
「お一人で行かせるわけにはいきません。あのような未開の地など、隣国に行くことよりも危険です。もし行かれるのなら私も一緒に‥‥」
「ロベルト殿」
少しきつい口調でポロニャール夫人は名前を呼んだ。そして、首を左右に振った。
「あなたのお気持ちはわかります。私も同じ気持ちですよ。でも、アイリス様は二十歳を過ぎた成人した女性です。私たちは老いました。いつまでも私たちが側にいてあげることはできません。あのお方は私たちがいなくなった後も、長い時間をここで過ごされるのです。もうあの方に必要なのは、私たちではなく、これから長い時間を一緒に過ごされる方たちなのです」
夫人は悲しげに言った。彼らはお互いに刻まれた深い皺のある顔を見て、肩を落とした。ここにいる全員が、いずれアイリスよりも早くこの世から離れることをわかっていた。彼女はこれからもたくさんの者たちを見取らなければならない。
だからこそ、この孤独な城に若い力と新しい風が必要であった。
執事は大きく息を吐き出した後、背筋を伸ばした。
「やりましょう。私はアイリス様が無事にニューキャッセスに行けるように手配いたします。ええ、それはすべて準備万端で整えましょう」
「それなら、私はアイリス様がお戻りになるまで農作地の事業の方を引き受けましょう」
小作頭が次に声を上げる。すると庭師も続いた。
「俺はこの城を含めた建物の管理を引き受ける。まあ、他の城はそれぞれ俺の兄弟たちが面倒を見ているから、それほど苦じゃない。フォスター家の方も引き受けよう」
「わかりました。私はマチルダ様の現在のご様子を調べてみます。それにアイリス様にとってフォスター家の爵位と財産までも管理させるのは負担だと思っていました。マチルダ様が本当に相続の権利があるのかを調べてみます。勘当されたとしても、除籍されていなければ権利はありますからね。そうなればマチルダ様のご家族も相続権が発生する可能性がありますな。ご家族も調査しましょう」
弁護士がどこかすっきりとした顔で言った。
「アイリス様はニューキャッセスに行くと言われるでしょうか?」
心配そうに呟いたのは神官であった。
「そこはカタード神官のお力をお借りするところでしょう」
「ポロニャール夫人、私の力ですか?」
「カタード神官はフォスター家とつながりがありましたでしょう。マチルダ様のことも私たちよりも知っていらっしゃると思います。アイリス様にマチルダ様のことをお話しいただけないでしょうか? アイリス様は唯一の血縁者がいらっしゃるとわかれば、ニューキャッセスに行きたいと思われるはずです。マチルダ様とお会いになる大義名分としては、フォスター家の相続の件が良いでしょう。もしマチルダ様が除籍されており爵位の権利はないとしても、フォスター家の資産は別です。アイリス様は唯一残った血縁者に遺産を渡したいと思われるでしょうね。フォスター家の財産の相続に関してマチルダ様とお話しする必要があると言われれば、アイリス様は必ず行かれるはずです」
「なるほど。わかりました。フォスター家のこととマチルダ様のお話は私からしましょう。ですが、財産のことはバルフォアッド氏の同席が必要かと思います」
老人たちは熱心に計画を話し合った。話を終え、お互いに納得すると生き生きとした目で立ち上がった。
「それでは皆様、よろしいですね。この計画で進めましょう。マチルダ様はきっとアイリス様を心配されることでしょう。ニューキャッセスで後見人となっていただき、力を貸していただけると信じております。あとはアイリス様次第なのですが、私はとてもわくわくした気持ちです。何かが起こるような気がいたします。そう、奇跡が起こるかもしれません」
ポロニャール夫人の言葉に男性たちはお互いに握手し、楽しそうにほほ笑んだ。




