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08.これが、姦しいというやつか

「サガくん、よく頑張った」


 僕は、何故か抱きしめられ、頭を撫でられていた。本人が飛んだら跳ねたり戦ったりしないため、ジャージからは汗ではなく、ほのかな制汗剤の香りがした。


「なんてダイタンッ! ケンドーちゃん、恐ろしい子っ!」


 戦慄する水波さんの声で、小林さんはバッと僕から身体を離した。


「ごめんサガくん。わたし弟がいるから、何となくつい……」


「あ、いえ……」


 ありがとうと言うのも何か違う気がしたので、僕は思わず中途半端な返事をする。


 そういえば、力のことみんなに言わないと。僕も戦力になれるって。


「あの、さっきのカエル頭――」

「キモかったよねー、アタシ爬虫類ダメなんだよね」

「大丈夫、次はわたしがみんなに近づかせないから」

「いや、そうじゃなくて――」

「シズク、カエルは可愛いよ」

「えー、キモいよ。ねー、ケンドーちゃん」

「いや、わたしも可愛いと思う」


 …… 口を挟む隙がない。

 これが(かしま)しいというやつか。



 結局、その日、僕が手を貸すタイミングも、口を挟むスキもなかった。

 女子って、なんかすごい……




 さて、とはいえあの紫炎が出た時の爽快感、無かったことにするのはあまりにも惜しい。

 僕は翌日、火川くんに倣って一人でダンジョンへ突入することにした。

 昨日と同じくジャージ姿。

 ダンジョンは昨日とは別の場所を調べた。

 突然現れた異常現象だ。ダンジョンの目撃情報はネットに山と溢れていたために、しらべる手間さえなく簡単に見つかった。


 電車と徒歩で1時間。クラスメイトと出会わなさそうな辺鄙な場所のダンジョン。

 昨日より一回り大きな入り口から潜ると、そこは同じような光る岩肌の洞窟だった。


 カサカサッ――


 この音はッ!

 戦慄とともに音のする方に目を向けると、とてつもない速度で這い回る人間大のダンゴムシがいた。


 Gではなかったが、何となくコレはコレでキモい。


 ダンゴムシはこちらに気がついたようで、触覚をびょんびょん揺らすと、素早く身体を丸めてこちらに向かって転がり出した。


「いい度胸だ!」


 昨日の自分に倣い、僕は指を弾きながら右手を振った。


 ぱちん


 ・

 ・

 ・


「どわぁぁああ!」


 漫画にすればデフォルメしたキャラが沈黙して見つめ合うコマだろうか。

 むなしく指を弾いた音だけを響かせて何も発しなかった僕のそんな空気を読まず、普通に転がってきたダンゴムシの巨大な球体は僕を跳ね飛ばしていく。


「いててて」


 当たりどころが良かったため、痛いで済んだけど、あの巨体に真正面から轢かれたら、たぶん普通に死ぬ…… よな?

 起き上がりながら得た実感に、ぞわりと背筋に悪寒がはしる。


「うおぅ!」


 再び転がってきたダンゴムシを、横っ飛びで躱す。


「くそっ、なんで出ないんだ?」


 しかし、考えてる余裕はない。

 さらに転がってくるダンゴムシが目の前に迫ってきていた。


(こういう時はなんだ、あれだ。決意とか殺意とか強い意志とかそんなパターンだきっと!)


「燃えろぉぉぉおおお!」


 ヤケクソ気味に目の前に迸る炎をイメージしながら手を振り払った僕の目の前に現れたのは…… 洞窟の径ぴったりの大きさの紫の炎の渦。それが螺旋を描きながら、燃やすのではなく、空間を喰らい尽くすように、猛烈な勢いで洞窟の奥へと飛んでいった。


 あまりの勢いに、数秒放心していた僕の頭の中に、場違いな自動音声が響いた。


『ダンジョンボスの討伐、コアの破壊。ダンジョンが崩壊します。5秒後、自動で地上に帰還します』


 ―― え? は?


 確かに地上に戻された。

 見渡せば、確かにダンジョンに潜った場所。

 しかし、辺りに入り口らしい穴は既になかった。


(ダンジョンの崩壊。本当に―― いや、今考えるのはそっちじゃない)


 何だあの炎。

 確かに昨日もカエル頭一匹は一撃だったけど……

 でも、今日のアレは――

 速度、範囲、威力、入り口からの一撃でボス討伐って何の冗談だよ。MAP兵器か僕は!

 もし、昨日みんなの後ろからコレを使ってたら……


 脳裏に浮かぶ、水波さんの眩しい、土宮さんの清楚な、小林さんの少し表情に乏しい笑顔。それが紫の炎に包まれ掻き消える想像してしまい、僕はその場で嘔吐した。


 何度も湧き上がる耐え難い胃から込み上げる不快感を吐き出しながら、僕は心に強く刻み込んだ。


(ダメだこの力は。絶対に制御して使いこなさないと!)



「あれ、サガくん? こんなところで…… 大丈夫?」


 何故か、小林さんと出会った。

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