19.私のどこが魔王なんでしょうか
「YO! オマエら幸運だな。随伴者は俺っち乙丸——」
聞き覚えのある口調の人物に、ボクらは顔を見合わせる。
場所はダンジョンライセンスの試験会場。
辺りには他の一般人も結構な数来ているが、クラスメイトの参加者は、ボクらいつもの6人組のみだった。
風間君の話だと、クラスメイトは動画で流れていた試験の様子にレベル差を感じている様子だったとのことだけど、火川くんはそれを、最後に映ったボクの攻撃力にビビってるだけだと茶化していた。
事実はどうあれ、今回の試験を受けるクラスメイトは他にいないことに変わりない。
ボクのせいなのか?
実地試験開始にあたって説明させたレクリエーションの内容によると、試験自体は単純なもののようだ。
少人数に組み分けされたグループでダンジョンを進み、地下五階にいる試験官のところまで規定時間内に辿り着く、というもの。
それでも、個々の能力はもちろん、急造チームなための応用力や適応力なども必要な試験なんだろう。などと思っていたのに、何故かボクら6人が同グループという、明らかになにか思惑がありそうな組み分け。
少なく見積もっても100人はゆうに超える人数の受験者、組み分けの人数も5人だったり8人だったりする中、ピッタリ6人でボクらだけで構成するグループ。
しかも今日は皆私服で、ボクらは学生という性質が消えているが、明らかに受験者最年少ということは分かりそうなもの。なのに、それを散らさずに一塊にしている。
「意図がありそうだな」
火川くんの呟きに、皆、同意するように頷いていた。
もっとも、その方が余計な隠し立てや気を遣ったりする事がなくて助かると、ボクは胸を撫で下ろしたりしたのだけれど。
そして、試験の安全対策兼採点係として随行者と紹介されたのが、例の動画配信者の乙丸某で、冒頭のセリフというわけだ。
相変わらず奇抜な見た目と奇特な喋りの個性の塊の乙丸氏は、グループの中にボクの姿を認めると、まるで壊れた機械のように妙な声を上げながら固まってしまった。
「ま、ま、ま、ま——」
「はい、ストーーップ。落ち着いて」
反応を気にするでもなく優しく投げかけられた土宮さんの声に、動画配信者のプライドだろうか、乙丸氏はなんとかその動揺を抑え咳払い一つ、平静と体面を装った。
しかし、「ま」って何だよ「ま」って。
まさか「魔物」とか「魔人」とか「魔族」とか言うつもりだったんじゃないの?
確かにボクは乙丸氏を攻撃したけど、それは彼のパーティーメンバーがボクを攻撃してきたからの反撃だし、別に殺す気があったわけじゃない、追い払うための牽制だった。
なんか、腹立たしい。
すごく腹立たしいので、ボクは乙丸氏に自分の存在をアピールするかのように、スッと半歩前に出る。
そして一言。
「乙丸さん。その節はどうも」
前に出たボクを見て顔を引き攣らせる乙丸氏に、ニヤリと笑い、テレビとかでよく見る、みなまで言わない大人の嫌味で口撃。
その効果は想定以上の「こうかはばつぐん」で、氏は動揺に目を白黒させた。
「ちょっ、ちょっとキミ、彼は—— ?」
狼狽え、周りを見回し、まるで助けを求めるかのように、土宮さんへボクについて尋ねる。
「嵯峨君? 私たちの、クラスメイトで友達で大切な仲間よ」
応える土宮さんは、つとめて優しく、穏やかな微笑みでボクらの友誼を明確にする。
しかし、乙丸氏にはそれこそ意外だったようで——
「ク、クラスメイト? 魔王とかじゃなくて?」
「!?」
誰が魔王か——
そんなボクの反論の声より早く、周囲からざわめきが起こった。
動画配信者が珍しいため伺っていたのか、それとも乙丸氏の声がよく通るのか、とにかく、周囲の受験者たちは乙丸氏の発言の意味を確認しようとコチラを向く——
ことを、ボクは視認できなかった。
突然何かが視界を覆う。
続いてフワッと何かいい香り。
「ほら、ユウタくん有名人なんだから、ちゃんと身バレ対策してしないと」
耳に届いた水波さんの声は、彼女が被っていたキャップを、突然ボクに目深に被せたことを示していた。
「水波さん、ありがとう」
「どういたしまして」
キャップの鍔を触り、帽子の深さを調整しながらお礼を言うと、水波さんは目を合わせ、満面の笑みを浮かべた。
そんな僕らの横では——
「私のどこが魔王なんでしょうか、動画配信者の乙丸さん?」
優しい笑みなのに、何故か圧倒的な威圧感を放つ土宮さんが、ボクの代わりに注目を浴びつつ乙丸氏を追い詰めていた。




