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17.ダメですよ

 「アキラ、嵯峨くん、今日の放課後にちょっと行かないか?」


 翌日、授業の後に遊びに行くかのような口調で風間君が誘ってきたのは、もちろんダンジョン。

 昨日の竹中さんたちとの話でも、ダンジョンブレイクに対しての気負いを感じる発言を繰り返していたし、何か焦りがあるんだろうか。


「風間君、ワタシたちを置いてくつもり?」


 土宮さん、小林さんを伴った水波さんが合流し、ボクたちはいつもの6人でダンジョンを探しに出た。


 いつものようにSNS上の情報を頼りに探すと、ダンジョンは簡単に見つかった。


 既に見慣れた、不自然な場所に開いた穴と、奥の見えない暗闇。異質な雰囲気。

 だが、このダンジョンの入り口には別のものもあった。

 工事現場で見かけるようなオレンジ色のフェンスと、立看板。

 看板には「立入禁止」の文字と、ライセンス不所持の者の立入は厳罰に処す旨の注意書きが、区役所の名義で書かれていた。


「ライセンス…… 他のダンジョンも同じなのかな?」

「役所の名前が書いてあるし、たぶん……」


 区役所の名前があるのなら、ここだけってことはないと思うのが普通だ。

 今までも立入禁止表示はあったものの、ライセンス制定により法律による対処が明確になったため、こういった看板が立つようになったのだろう。とはいえ……


「ちょっとアキラ、何してんの!?」

「え? 入るんだろ、ダンジョン。立入禁止は今までもあったじゃねえか」


 監視があるわけでもないし、火川くんと同じように考える人は当たり前にいるはずだ。


「違うでしょ。勝手に入ったら罰則あるって書いてあるじゃん! 捕まりたいの?!」

「大丈夫、バレないって。それに、ダンジョン終わらせて褒められることあっても怒られるかよ」


 火川くんと水波さんがよく見るじゃれ合いをしている後ろで、風間君はじっと立看板の文言を見つめ、考え込んでいる。そして……


「アキラ、今日は引き返そう」


 驚きの声を上げる火川くんに、風間君は続ける。


「やっぱり公的機関の看板は無視できないよ。逮捕とか罰金とかされると困るし、まだ無理を通す段階でもない」

「それに火川君。ここに区役所の連作先が書いてあるから、区役所に行けばライセンスの事とか情報の収集はできそうよ」

「なるほど土宮、確かにそうだ。

 よし、今から区役所に行くぞ!」


 土宮さんの言葉に納得し、目を輝かせた火川くんは、号令とともに皆の先頭に立ち、区役所へと向かう。だが——






「ダメですよ」


 区役所の女性職員は、柔らかな笑顔できっぱりと拒絶の言葉を発した。


「オレたち、力もあってモンスターとも戦え――」

「ダメですよ、未成年は」

「だから――」

「ダメですよ」


 にべもない。

 区役所でダンジョンライセンスの話になった途端、応対していた職員の女性は態度を硬化させ、まるで取り付く島もない状態になってしまっていた。


「つ、強い……」

「アキラ、ここは引こう。この女性は突破できない」


 ボクらが学生、未成年で、ダンジョンに入る行為が一般的には命がけと思われているのだろうから、当然と言えば当然。


「罰則があるので、勝手に入ったらダメですからね」


 終始営業スマイルを崩さない女性職員の前に、あっさりと、ボクらは意気揚々と訪れた区役所からの撤退を余儀なくされた。


「ねー、あちこち歩き回ってもう疲れたんだけどー」


 外に出れば日も傾き、時計の針は4時を少し過ぎていた。

 夏から秋、冬へと向かうこの時期の夕方特有の、どこか物悲しい雰囲気が辺りには漂っている。

 火川くんは、水波さんの不満に発破をかけたそうな気配をだしていたが、風間君がそれを制し、今日はここで解散となった。

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