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02.きっと何かすごいことが始まるよ

 窓の外はセミの大合唱。

 殺人的な夏の日差しをあざ笑うかのように、教室内は空調により快適な温度に調整されている。

 しかし、僕の体感温度はそんな室温を遥かに下回っていた。

 その理由の一つ。

 例のキラキラ女子とその友人が向けてくる、凍りつくような鋭い視線。


「なんだ、ユウタ。まだ睨まれてんのな」


 ガハハと笑う火川くんだけれども、原因はお前だからな。


 あの日、火川くんから声を掛けられてからはや四日。僕はすっかり一軍グループに取り込まれている。

 例のキラキラ女子は、僕がこのグループにいることが気に食わないらしく、自分と僕のどちらを取るのか火川くんに問い詰めた結果が今この状況。

 昨日、彼女は風間くんと火川くんを中心とする一軍グループから哀れ転落し、それ以降ずっと僕を睨んでいるのだ。

 まさに憎悪の視線。

 睨む気持ちも分かるけど、睨むなら僕じゃなく火川くんを睨みなよ。選んだのは火川くんだし。


 そして、体温が下がる理由のもう一つ。


「それで、ユウタは何点だったんだ?」


 火川くんの突き付ける現実。高校生にもなって、未だ逃れ得ない期末考査というテストの悪夢。


 いや、点数自体はそこまで悪いわけではないんだけれど……


 問題は、火川くんが指で摘まんでいる数Ⅱのテストの答案。

 右上に「火川アキラ」の名前と、燦然と輝く「92」の数字。


(お前はこっち側じゃなかったのかよ、この筋肉ダルマ)


 口に出すのは憚られる言葉だけど、思うのは自由。

 見た目から、絶対に勉強できないタイプだと思い込んでいたのに、見事に裏切られた感が満載だ。


 そして、この一軍グループ――


 学年一のイケメン風間くんは、当然の如く100点。

 同じく学校一の美少女と噂される土宮さんも100点。

 …… このテスト、平均点58点なんだけど。

 こいつら、完璧超人の主人公どもか?!

 とはいえ、ここで一人発表しないわけにはいかない。僕は渋々答案用紙を取り出すと、皆の方に向ける。


「62点です……」


 なんだよこの恥辱。

 平均点は越えてるというのに。

 思わず俯きそうになった僕の微妙な雰囲気を打ち破ったのは、一軍グループ最後の一人。

 最近見た目が急にギャル化し始めた、火川くんの幼馴染の水波(みなみ)さん。


「うわぁあ、ユウタくんアタシとピッタリ同じ点数!」


 嬉しそうに僕の手を取り「いっしょ、いっしょ」とぴょんぴょん飛び跳ねている。制服を着崩して大きくはだけた胸元が、飛び跳ねるたびに非常に蠱惑的で危険だ。


「お前は胸元開けすぎだ。ユウタが照れてんじゃねぇか」


 顔を背ける僕を庇うかのように、水波さんの手を僕の手から無理やり引きはがし、器用に割って入ってくる。


「痛ったいわね! アキラ、アンタには関係ないでしょ。それに、別にアタシはユウタくんなら見られてもいいわよ!」

「バカかこのエロ女!」

「ウルサイこの筋肉マッチョ!」


 ムキーっと急に喧嘩を始めた二人に、風間くんはヤレヤレと肩を竦める。


「夫婦喧嘩は犬も食わぬと言うけどね。

 それに、水波さん、筋肉マッチョじゃ悪口になってないよ」


 既に口汚い単語の応酬になっていた二人は、やおら僕の方へ顔を向けると仲の良いことに、声をハモらせて詰め寄ってきた。


「「それで、どっちと遊ぶの!?」」


 いつの間にそんな話になったの。

 二人の圧に後ずさる僕の前に、今度は土宮さんが割って入ってくれた。


「ほら二人とも、嵯峨くん困ってるよ」


 さすが学校のアイドル。

 たった一言で、二人の攻勢を押し留めた。


「それに水波ちゃん。男同士の友情は得難いもの。男女の関係と天秤に乗せるものじゃないよ」


 そう言って、土宮さんは火川くんの手を取り、僕の手の上に重ねた。しかし、二人の勢いを制し慈愛の表情を見せる彼女の視線の中に、何か粘っこいものを感じたのは、気のせいだろうか?


「つっちー。アンタそれ、私欲で言ってなでしょうね?」

「何のことかしら?」



 しばらく、テスト関係も含めたイロイロな雑談をしていたが、ふと、思い出したように水波さんが声を上げた。


「そういえば、ユウタくん知ってる?

 校舎裏の謎の光の話」

「謎の光?」


 噂にも現象にも心当たりなく、思わずオウム返しにした僕に、水波さんは得意げに噂について教えてくれた。


 曰く――

 昼夜問わず、ランダムなタイミングで校舎裏のゴミ集積所に謎の光の玉が漂っているのを、多くの人が目撃している。

 学校だけでなく、街中の様々な場所で同様の事例が目撃された。


「最近また地震とかも増えてるし、世界を変える、きっと何かすごいことが始まるんだよ」


 まるで見知ってたかのように語る彼女の笑顔は、眩しいほどの確信に満ちていた。

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