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13. ちょっと給湯室でお話ししよっか

「ユウタくん、おはよー」

「嵯峨くん、おはようございます」


 早いもので、夏休みも終わり、学校が再開した。

 水波さん、土宮さんとは、夏休み期間中に三日に一回はダンジョン攻略や遊びで会っていたのだが、久々に見る制服姿は何かとても新鮮に見えた。


 僕らの学校はダンジョンに飲み込まれ、未だ攻略がなされていないため、僕らの授業は当面、地区の集会所を利用して行われることとなった。

 もちろん全学年、全クラスが同じ集会所に入るわけもなく、クラス単位で各地に振り分けられている。さすがに教師の移動が大変になるため、一日の時間割が一色で染められてしまうのは、大きな懸念点だけれども。


 久しぶりに顔を合わせたクラスメイトの話題は、やはりと言うべきか、ダンジョンの話がメインだった。


 曰く、どこぞやのダンジョンを攻略した。

 曰く、ダンジョンで珍しい宝石を見つけた。


 一日中同じ科目の授業を受け続けるストレスのせいか、特に休み時間はクラスメイトは夏休み前あったカーストの垣根を超えて、大いに盛り上がっていた。


 授業開始二日目の昼休み。

 クラスの男子生徒一人が、とある動画配信チャンネルのアーカイブを、集会所に設置してあるテレビに無線で飛ばした。

 やりたい放題だ。


「みんな見てみろよ、昨日見つけたんだけど、なんかダンジョン攻略の動画配信してるヤツがいたんだ」


 その言葉に、クラス全員の視線がテレビに集中する。

 あの日、自分たちは選ばれた。

 しかし、日本中…… いや、世界中で発生しているこのダンジョン発生の異常事態に、力を授かったのは自分たちだけではないということは、日々流れてくる色々な媒体の情報から理解していた。


「ちょっと、早く流してよ」

「スタート、スタート!」

「前、座れよ。見えないって」


 しかし、各国とも名目上はダンジョンは立ち入り禁止になっているらしい。

 立ち入り禁止区域に侵入してまで動画を撮影、アップするという、ある意味奇特な人間が今まで現れず、具体的な他人の情報を得る手段はなかった。

 だからこそのこの食い付き様。


「よーし、始めるぞ!」


 男子生徒の声に、一同固唾を飲んだ。


乙丸(おとまる)チャンネルへようこそ!

 オレちゃんの名前は乙丸晃平。

 今日は世界初、ダンジョン内から配信を行うぜぃ!』


 画面に現れたのは、マッシュルームカットの髪を真ん中から右側を金色、左側を灰色に染め上げた珍妙な見た目の細目の男性。

 だいぶチャラい。

 でも、どこかで見た記憶が……


『今日は、にっぽんの国がダンジョンダイブにライセンスを出すってことで、そのライセンスの現地試験の配信許可を貰って配信してるぜぃ』


「あはは、ウケる。コイツめっちゃバカそう!」


 水波さんが指差して笑い、火川くんがそれにツッコミを入れている。


『さてぇ、今日来てるのわぁ…… え、言っちゃダメ? あ、サーセン』


 いきなりNGを喰らってる動画配信者をよそに、ウチのクラスメイトはざわついていた。


「あそこって、ウチの学校じゃね?」

「画面に映ってる壊れた像って……」

「見覚えありまくるんだけど」


 そこは、僕ら全員にとって最近では最も印象深い場所。力を授かった、学校ダンジョン地下5階の神殿のように見えた。

 そして、この動画はつまり、あの時の……


 動画はクラスメイトにとって驚きの連続だった。

 動画配信者以外の試験参加者も、撮影を許可しているのだろう、積極に戦う姿を映され、発揮する力はクラスメイトたちとは少し違う、多種多様な精霊や天使など。

 力の大小は様々だったが、さすがに試験に呼ばれているだけあり、皆、ダンジョン内での戦いに順応している感じだった。そして……


『ついに来たぜぃ、中ボス部屋。

 今回の試験目的地だ。

 ハデな戦い乞うご期待だ!』


 動画配信者のそんな言葉に、僕は天井を仰いだ。


「「えっ!?」」


 クラスメイトの困惑する声。

 僕に集まる視線を、ひしひしと感じる。


 天井から視線をテレビモニターに移すと、そこには中ボスだった肉の塊の上に腰掛け休憩している僕の姿(・・・)


『おっと、ここの中ボスは人型かぁ? 珍しいな。ジャージを着てるし、まるで学生みたいだぜ』


 皆の視線が痛い。


『おっと、極道チームが先制攻撃。

 炎の精霊の炎熱攻撃だぁ!』


 ぽん、と左肩を叩かれる。

 恐る恐る顔を向けると、笑顔の水波さん。

 いつぞやのように、笑顔なのに笑っているように見えない。


『なにぃー、中ボスが炎熱攻撃を同じ炎で防いだ! しかも紫の炎だとぉ!?』


 右肩を叩かれる。

 こちらも笑顔の火川くん。

 叩かれ、そのまま掴まれた肩が痛い。


『ば、バカな。こんなの聞いてないんですけど。周りの床全てが紫の炎の海―― こんなのムリ、逃げろー!』


 最後に、目の前に土宮さんが来た。

 いつもの魅了されるような輝きの笑顔と違う、底冷えするような笑顔で――


「嵯峨くん。ちょっと給湯室でお話し(・・・)しよっか」


「―― はい」


 なんか僕、しょっちゅうお話しタイムになってない?

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