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12.尊ッ

『ダンジョンボスの討伐、コアの破壊。ダンジョンが崩壊します。5秒後、自動で地上に帰還します』


「ちょっと、コアまで破壊って何?!」

「嘘ッ、撃破報酬の宝箱ー!」

「だからユウタ、やりすぎだって」

「さすが嵯峨くん」

「ははは、嵯峨くんらしいや」


 いつも思うけど、この5秒ってどこ起点なんだろ?

 ほら…… 5秒経つ前に転送始まった。




「うわっ、眩しッ!」


 見上げるまでもなく突き抜けるような青空。

 突入前はやかましく響いていたセミの声も、あまりの暑さのせいか、聞こえなくなっている。

 僕ら6人は、突入前はなかったジャングルジムの前に仲良く並んで立っていた。


「ほらアキラ、嵯峨くんに言うことは?」

「えっ…… あ、うぅ……」


 風間くんに背中を叩かれて、火川くんが呻いている。

 でも、違うんだ風間くん、言うべきは僕だ。


「火川くん」

「えっ…… ユウタ……」


 彼の目の前まで行き、声をかけると、まさか僕から話しかけてくるとは思っていなかっただろう、火川くんは目を白黒とさせていた。


「確かにキミの言うとおり、僕は自分の力のこと、力の責任についてもっと自覚するべきだったんだ」


「ユウタ……」


「それと風間くん。仲間だって、みんなで戦うんだって言ってくれて本当に嬉しかった。たがらこそ僕は――」


 なんか…… 涙腺の調子がおかしい。

 込み上げた感情に言葉が詰まり、垂れそうになる鼻を啜り上げると、誰かが後ろから抱きついてきた。


「ほら男子三人組、なに真剣な顔してんの。

 メチャつよボスを倒してダンジョンクリアだよ。

 こういう時はまずホラ、ユウタくんバンザーイ!」


 水波さんは、僕の両腕を掴むと、無理やりバンザーイさせる。


「ははは、水波さん、確かにそうだ」

「ははは、ユウタ、泣きながらバンザイさせられるって、小学生かよ」


 シリアスな空気はどこへやら、目の前の二人はほぼ同時に吹き出し笑い出した。


 だが、火川くんの方は少し笑うと、ぴたりとその笑いを止め、再び真剣な顔に。そして――


「ユウタ、すまなかった」


 腰を直角に、深々と頭を下げた。

 顔も上げず、彼は言葉を続ける。


「ハヤトも、シズクも、土宮さんも、昔からの大切な友だちで仲間で、危ないって思ったらつい、お前を責めてた。

 でも……

 お前だって、まだ付き合いは短いかもしれないけど、大切な仲間で友だちだ。

 それを、お前にだけ責任を負わせようとして……

 ホントにゴメンッ!!」


 火川くんの心からの謝罪。

 それを僕は、タイミングを逃した水波さんに、バンザイをさせられたまま聞いていた。


 こ、このシチュエーション……


 どうすればいいの?


 視界の端、風間くんが僕をチラリと見て、フッと笑ったのがわかった。



「アキラ、もう終わったつもりか? これからもこの6人で頑張っていくんだろ」


 そう言って風間くんは、火川くんの頭を上げさせ、水波さんに僕の拘束を解かせ、集まるように促す。三人で肩を抱き合えるように。


「ボクはなんでもできるけど、尖ったところがなく決定力に足らない。

 アキラはガムシャラで牽引力があるけど、周りが見えなくなる時がある。

 嵯峨くんは攻撃力に極振りしすぎて制御に難がある。

 いいじゃないか、人間なんだから。

 お互い補っていこう。

 ボクらはかけがえのない仲間だ」


 ま、また涙腺が……


「尊ッ」

「こらつっちー、水差さない!」


「アキラ…… ボクが知らないだけで、アスカって昔からあんなだった?」

「いや、俺も最近知った…… でも、あれは不治の病だ。受け入れてやれ」


 …… 涙止まった。


「もう、つっちー! せっかくいい雰囲気だったのに!

 アキラ、そこ開けてッ! 私たちも入るから」


 水波さんはぷんぷんと怒りながら、土宮さんと加わり、円陣を形成する。でも――


「ほら、ケンドーちゃん何してるの?

 ケンドーちゃんもこっち来る!」

「えっ、わたし?」

「ろ・く・に・ん、で仲間なの、チームなの!」


 そうだよ。そのとおりだよ水波さん。

 彼女の言葉に、いつもは限りなく無表情な小林さんの顔が綻んだ。

 嬉しそうな雰囲気の小林さんが円陣に加わる。


「さぁ、それじゃリーダー。とりあえずの目標はなに?」

「リーダー?」

「ハヤト」

「風間くん」

「風間くん」

「ハヤトくん」


 全会一致。何故なんて言わずもがなだよね。


「しょうがないか。

 とりあえずチームの目標は学校のダンジョン攻略だね」

「だな」

「うん」

「うん」

「ルートどおり」

「おっけー」



 その日は、僕にとって本当の意味での仲間ができた日になった。

 そして、より強く心に誓う。


(もっと炎を制御できるようにならないと)


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