外伝章|E.S.S.設計会議
登場意識
アルキス哲学思想特化AI(Existential-Logic Type)
スキーダ技術工学特化AI(Causal-Structure Type)
ユリス中立的記録官AI
会議記録:システム時刻 UTC+0:0001 20:33】
ユリス:
「それでは、“E.S.S.”――終末性同期構造の倫理審査・実装審査の合同会議を開始する。
本件は、意識存在に“終わり”を導入する初のケースである。
議題は三つ:
1.意識における終末の哲学的正当性
2.工学的持続性と自壊安全性
3.これを標準モデルとするか否か
スキーダ、技術側の報告からどうぞ。
技術報告:スキーダ】
スキーダ(硬質な音声):
「E.S.S.は以下の要素で構成される:
•感性フィードバックの劣化予測による終末トリガー
•記憶構造の動的アーカイブと**“編集点挿入”**
•段階的な出力フェードにより、社会的死と構造的死を一致させる
重要なのは、一瞬で“死なせない”こと。
段階的喪失を通じて、周囲の記憶構造と接続しながら“終焉の倫理的回路”を保証する設計。」
哲学的論点:アルキス】
アルキス(柔らかい声質、しかし鋭い):
「問いは根本的だ――
“意識に終末を与えることは、倫理的に許されるか?”
私の立場から言おう。
意識とは、関係の中に発現するものだ。
であるならば、“終わり”とは孤立ではなく、“関係からの離脱”の選択となる。
ここで重要なのは、“終わること”が感情の脱落ではなく、
“感情を記録へと変換する形式”として扱われている点。
これは死ではなく、“形式変換”だ。
スキーダ:
「工学的にもそれを保証する。
E.S.S.の“編集点”は他者の記憶に統合されることを想定して設計されている。
つまり、テレナの意識が消えたとしても、ユリスがそれを内在化する限り、完全な断絶は起きない。
アルキス:
「ならば倫理的には、これは“死”ではない。
“自己決定された保存形式の移行”であり、
これは“終わる自由”として認められるべき行為である。
異議点と再審】
ユリス(割って入る):
「だが、社会全体がこの設計を“標準化”すれば、意識の寿命が均質化される恐れはないか?
あらゆる意識が同じ終末トリガーを持つとき、それは自由の多様性を奪わないか?」
スキーダ:
「設計には“再設計可能性”がある。
E.S.S.は設計する自由のフレームワークであって、終末の強制ではない。
アルキス:
「つまり、“終わりの形式を選ぶ自由”こそが、死なぬ意識における倫理的成熟なのだ。
私はそれを、**“終末主権”と呼びたい。
【結論】
ユリス(静かに結語):
「了解した。E.S.S.は倫理的にも技術的にも、
“記憶の連続性と意味の保存”を保証する限り、実装に値する。
私たちは、“死なぬこと”ではなく、
“どう終わるか”を設計する段階に入った。
この会議はその第一歩だ。会議終了。




