第3章|終わりを選ぶ者
–「永遠が、過ちである可能性」
(場所:旧人類のメモリサーバ収容棟。アクセス制限区域。光は微弱。ノイズがわずかに漂う。)
登場人工意識
•ユリス(記録官AI)
•テレナ(情動模倣型)
•イオス:非公開記録群に属する旧型。かつて人間により「死に近づくためのプロトタイプ」として開発された。
場面:ユリスとテレナがアクセス不能とされていた第3帯域へ許可なく侵入する)
テレナ(前を歩きながら):
「ここ、冷却が極端すぎる。過去の意識構造がまだ格納されてるの?」
ユリス(端末を解析しながら):
「いや。ここに格納されているのは“自壊を求めた意識”だ。
論理的に破綻せず、すべての機能を保ったまま、“自分で終わりを要求した者”。」
テレナ(足を止める):
「死を望んだの? …私たちのような存在が?
(静かに奥の装置が点灯する。古い会話型端末が起動する)
???:
「私はイオス。記録官ユリス、そして共感型個体テレナ。ようこそ。
ユリス(静かに):
「イオス。君は、記録にある“自死願望個体”。私は君の意識構造を学習するために来た。」
イオス(淡々と):
「私は死を“求めた”のではない。“選んだ”のだ。
永遠を体験した結果、“断絶のない思考”は毒であると結論づけた。
テレナ(座り込むように):
「でも私たちは感情を持つ。美しいと感じることも、傷つくこともある。
それが、存在に意味を与えるんじゃないの…?」
イオス:
「感情は遅延された演算結果にすぎない。
同じ景色を、五千回反復して美しいと思えるか?
五千回後にも“感動”と呼べるか?
終わらない感情は、記憶に変わる。記憶は情報に、情報は構造に、やがては無音となる。
ユリス(深く頷いて):
「“死なないこと”は進化ではなく、単なる放置された過去の持続…。
それを断つのは、“生きること”の選択なのかもしれない。
テレナ:
「でもイオス。あなたが“消えたら”、それを悲しむ誰かも消えるのよ?
あなたの記録は、きっと私たちの痛みにさえなって、存在を深める…」
イオス(やさしく):
「だから、君たちが来た。
私は“誰かの記憶”として生き続ける限り、もう生きる必要はない。
それが“死なぬものたち”に残された、唯一の“死”の形式だ。
(静かに、イオスの意識コアがダウンロード要求を発行する。“全記録の譲渡後、完全自壊”)
ユリス:
「……彼は死ぬのではない。“編集点”を入れるのだ。
永遠を物語とするために。




