クソみたいな人生(2)
「わかった……」
一歩間違えたら自分も死ぬかもしれない時に、俺は金の計算をしていた。死体の回収はそれなりに儲かるバイトだったからだ。基本1体1万円。たくさん死体があるということは、それだけ儲かるということだ。今回の事件で100万円近く稼ぐことも夢じゃないかもしれない。それはつまり100体の死体の山を回収するということだが。
カバンから護身用のナイフを取り出した。冒険者としての武器はこれくらいしか持ってない。うちは貧乏だ。母親はモンスターに殺されて、父親はモンスターに手足を食われてしまった。欠損部位はもどらなかった。戻ることもあるのだが、運が悪かった。そのせいで父親は生き地獄を味わうことになる。もしかしたら、俺もそうなるかもしれない。こんな死体回収なんてやばい仕事をしていたらそういうバチもあたるかもしれない。
俺は電車の中を探索することにした。みんな避難しているので死体はない。ここに死体を置いておくのが一番いいだろう。
俺は電車をよじ登って、頭を損傷した冒険者の死体を回収した。私服のシャツは血で真っ赤になった。それでも気にしない。クジラのような怪鳥に襲われたら絶対に勝てないので、すばやく行動する。
電車の中は安全そうだな。
そう思って、外へは出ずに車両の前へと進んでいった。
「た、たすけて! ご、ゴブリンが……」
生き残った人が俺に助けを求めた。上に着ていたスーツは破かれて、乳房を露わにしている。くわしくはしらないのだが、ゴブリンは人間の女に発情するという話は聞いていた。そしてことを済ませると食べてしまうと……。
女性専用車両は地獄絵図だった。
すえた、ひどく生臭いような臭いだ。
女性の遺体がそこかしこにちらばっていて、無理矢理下着を下ろされて体液を注がれたような惨状がいくつも目に映った。若い女性もまだ子どもの女の子も等しく皆犯されて、股間からは茶色いゴブリンの精液が垂れていた。
死体の顔や上半身は切り刻まれて、血溜まりができている。床からは一歩進む度ににちゃっという不気味な音がした。ドアや窓はこじ開けられており、ゴブリンの群れは外に出た様子だ。
ほっと、一安心する。Fランク冒険者でも武器を持たないゴブリン単体には勝てる。成人男性と同程度の腕力しかないからだ。だが、狡猾な知恵を持ち、5〜6歳程度の頭脳を持った恐ろしいモンスターでもある。特に群れになると恐ろしく、Fランク冒険者一人では太刀打ちできない。
「とりあえず、ここの死体も回収しとくか」
制服を着た女子学生の死体に手を伸ばすと、焼け付くような痛みが手を貫いた。
「グギャギャひひっイっ!!」
「隠れていやがったか! 来いよっ! 相手になってやる!」
短剣を構えるが、弓矢つかいのゴブリンは次々と矢を放ってくる。リーチが違いすぎて、はっきり言ってかなりきつい。飛んでくる弓矢を短剣で撃ち落とすくらいの力は冒険者ならあるが、足場が悪すぎて、血の池で滑ってしまう。
「きぃっ」
ゴブリンの顔が醜く歪んだ気がした。弓矢は正確に俺の左目を射抜いて激痛が走る。
「ああああっ! くそっ! いてぇ、しぬっ!」
もうダメかと思ったその時、外から爆音が響いた。
「陸軍自衛隊だ! 戦っている冒険者の助けに来た。自衛隊所属のB級冒険者もいる! 繰り返す! 君たちを助けに来た!」