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一三章 刻(1)

 

 これは何度目だろうか。

 ──綺麗なんだけどなあ、枯れたら意味がないよなあ。

 ──株分けもできないや。

 ──せっかく売れると思ったのに。

 何度目だろう。

 ──どんどん枯れてくね。こんなに話しかけても駄目なんて。

 ──気合が足りないぞ。

 ──廃棄、廃棄。

 何度目だ。

 ──鉢が小さいから根が伸びないんだよ。

 ──これは日差に弱いからねえ、日向に置くのは控えたほうがいいのさ。

 ときには気の解るひとが現れたが、

 ──やっと売れそうなヤツができたな。

 ──なんだ、こいつ……。

 ──急に光って──。

 ……何度目だろう。

 ──まさか、付喪神か……。

 ──憑き物なんか売ったらバチが当たる。

 ──面倒だが供養だな。

 ……棄てられたのは。

 それは、生まれては棄てられた。不可思議で異質な存在を宥めるための呼称に畏敬はない。生まれては棄てられて、生まれては棄てられる。

 ひとびとの意志で生まれているというのに、なんという仕打ちか。

 ……それが人間だろう。

 それは夢追うひとびとに仄かな燈を与えた。それは閉ぢられた心に仄かな影を作った。行為はいつも裏切られ、暴力に曝された。無数の命が何回の死を辿ったか。数えたところで現実が変わることはなく、項垂れるような夢なき誕生を繰り返す。

 ……ボクは、いつになったらこの輪を抜け出せるんだろう。

 言葉を話せたらよかったか。食虫植物でもあるまいに、口がある植物などなおさら不気味がられるだろう。本来なら、それは、多肉植物に分類される植物であって口はなく発光することもなく、ましてや自らの意志で影を生ずるようなものではなかった。

 ……ああ、またか。

 ヒトの意志で幾度も連れ込まれた、供養と称した火葬場。多種多様なモノの灰や炭がまぜこぜになって土に埋められる。塚と称して重い自然石で伸され、けして這い上がることができない場所だってある。そのようなことをしたところで、付喪神は絶えず消えずヒトの心に存りヒトの心から生まれ出る(いづ  )。そして死を辿る。

 ……ボクは、日陰にいたいだけなのに。

 身を焼く日差は要らない。少しの風とかすかな水があれば生きられる。そこにひとびとの成就があればなおよい。心を満たせないのでは、枯れてしまう。生まれながらに枯死か焼死が定められているのだからせめてひとの潤いになれたら、と、願う。

 ──あ〜あ、また枯れた。

 ──元気にならないもんだなあ。

 ──手間と時間ばっか食いやがる。

 手放してくれても構わない。金にしてくれてもいい。せめて、一つの言葉がほしかった。最後に聞くのは、落胆の声ばかりだった。悲しませてしまうばかりでは生まれる意味がない。

 ……ボクは、なんのために生まれて、なんのために死んでいるんだろう。

 その身から子を増やすことができたはずだった。枯れてはそれがままならない。同じモノから株分けされて生まれたと感じた瞬間からカーテンを全開にしたかのように枯死か焼死を免れない身になってしまう。

 

 であいは唐突だった。幼い両手が日向に連れてゆこうとしたから、それは、必死に明滅して拒絶した。幼い両脚が慌てて止まって、日陰にそっと鉢植えを置いて、それに話しかけた。

「ごめんね。君は、僕と同じなんやね」

 ……キミは、ヒトなのに。

「うん、同じ」

 ……ボクの言葉が──。

 幼子が乾いた土に少しだけ水をくれて、

「どの辺りがいいかな」

 どの辺りだろう。日向は嫌だった。

「あ、そうや、名前をあげんと」

 ……ナマエ。ボクの。

「君は光っとって可愛いから、すごく疲れとるみたいやね」

 光っていることと可愛いこと、だから疲れていることが、普通であれば繫がらないのに、幼子は鉢植えを触れているだけでそれの過去を読み取ったようだった。言葉のように、心を読んでいる可能性もあったか。

「〈ヴァイアプト〉」

 ……ヴァイアプト。

「儚い君が、幸せな影でいられることを僕が全力で祈るから、教えて、どこにいたいか」

 ……ボクは……ボクは、──。

 

 誰もいない砂漠を選んだ。ひとえに疲れ果てていた。幼子は言葉を聞いてすぐさま連れてゆいてくれた。優しさと機敏さ、臆病さと共感と祈りがあった。それから、非常の願いとどうしようもない悲しみが潜んでいたことを幼子と面した頃のヴァイアプトはまだ知らなかった。

 幼子が建ててくれた日陰は誰も寄りつくことのない砂漠の只中にある。強い日差を複数回の反射で間接光に変え、ごく稀に降る雨を少しずつ届けてくれるカラクリが施された、まさしくヴァイアプトの家だった。だというのに、ヴァイアプトは選択を後悔した。ここは確かに確実に生き伸びられる場所だった。枯死も、焼死もしない、子も増えて、株分けできるほどの大きさに育つこともできた。が、自らの子を株分けできる手がなく心を感ぜられぬ日陰であった。望んだはずの環境は、夢のない誕生より鬱屈していた。成し遂げられるはずのことがじつはヒトの手を借りなければできないのだ、と、ヴァイアプトはいたく思い知った。ヒトから離れる選択は自らの死を緩めたに過ぎず、求めていた幸せを自ら突き放すことだった。

 息苦しい一つの鉢植えから子を出すこともできない。ひとびとの成就に立ち会うこともできない。望みが一つも叶わないなら、生きながらに死んでいるようなものだ。望みを一つも叶えてやれないなら、生みながらに殺しているようなものだ。

 ……早く、ボクを迎えに来て──。

 ヴァイアプトは、ただ一人のヒトを求めていた。いつか想起したあのヒトの機微はあまりに切なくて、ヒトであればむせび泣くほどの激情が湧き上がったことだろう。植物の身では零す滴もなく、ただただ心のうちで叫ぶだけだった。

 ……お願いだよ、早く──!

 ギーッ、トン。

 扉が開いてすぐに閉まった。幼子の建てた日陰は頑強で、出入口が勝手に開くことも勝手に閉まることもない。

「待たせた。名乗ることもせずに、悪かったね」

 ……ああ、大人びたね、ボクも、キミも。

「竹神音だ。君は」

 ……憶えているかな、キミがくれたナマエだよ。

「ヴァイアプト」

 ……変わらないね、ボクも、キミも。

「一緒にいきたいみたいやね」

 ……キミのいる場所に、ボクはいきたい。連れていってくれる。

「こちらもお前さんが必要やよ。一緒にいこう」

 幼かった手が大きくなっていた。それでいて繊細で、大きくなったヴァイアプトの身をパキパキと割って子株をたくさんの鉢植えに分けてくれた。

 ……これで、みんな狭くない。

 一旦オトと別れて、次に会ったのは炭の香る日陰だった。幼いオトを彷彿とする気配があって照らすのが愉しかった。

「初めましてやな。この子は──」

「オト様の妻竹神羅欄納です。これからよろしくお願いします」

「ヴァイアプトも挨拶して」

 ヒトに明滅を見せるのはトラウマもあったがオトの勧めだ──。日向を思わせる明るさで居間を照らして、もとの光量に戻した。

「素的な、心を感ずる燈ですね」

 ……キミが選んだヒトだけある。

 ララナに拒絶的な心を感じない。この家は、オトが幼い頃に建てたヴァイアプトの家よりもずっと温かな日陰だった。

 ……ボクが照らすよ、キミ達と、キミ達の成就を。

 

 

 ひとは弱く、独りで立ち上がることは難しい。

 燈が消えたことで闇が迫ってくる。ならば、なんとしても燈を点けよう。それが、ひとだ。燈が手に入らないなら、自分を焼くしかない。その身が消えてゆくとしても。

 

 永遠はない。燈は、消える。

 ……もしもわたしに天寿があったなら、一二〇〇年も、きっと長く感じるんだろうな。

 音羅を焼き尽くす炎はこの世にない。人間が感ずる無限のような時間も、音羅に取っては短い時間となるだろう。

 二階南の部屋は夜月とシェアしている。ここで着替えを済ませた音羅は、

「あのひと、亡くなったんですわよね」

 と、いう、夜月の言葉にどきっとした。メリアか子欄か、あるいは刻音に洗濯を頼みに行く脚が止まっていた。

 同じように着替えていた夜月が早速の外回りか、外着である。

「誰のことかな」

「姉の同性の親友を『あのひと』だなんて呼びませんわ」

「……」

「気が触れたりはしてませんの」

 ぶっきらぼうな心配だった。そっけなく振る舞っていても夜月はいい子だ。

「平気だよ」

「父様の治療を受けたんでしょう。幻覚を見たそうだけど毒のせいかしら」

「今からもう一度診てもらうよ」

「ナツキ姉様やコラン姉様でもいいんじゃない」

「パパとは話したいこともあるからね」

「家族会議では話せないような。スズネ姉様の話してたことに関連していそうですわね」

「夜月ちゃんはさすがだね……」

 姉妹をよく観ている。読心の動機を警戒や覗き見のように父は言ったが、夜月は単に心配しているのではないか。そうでなければ関わりを持たないだろう。

「自白しなくていいですわよ。洗濯物を処理したあとに悠長ですこと、と、口を滑らせはしますけど」

「ありがとう」

「……。幻覚が本当なら、早くしたほうがいいですわ」

「うん……」

 父は完璧と信じ込んでいるのではないが治療が不完全ということもないだろう。治療から二週間も経ってそれまで感じなかった不調が顕れるというのはもっと考えにくい。幻覚は、妄想ではないか。毒を否定したい気持とは別に音羅は、(ひょっとすると、ひょっとするかも知れない……)と、()()を否定したい気持がぐらっと沸いていた。

「ところでプウは。合流してから姉様の頭や肩にいないわね」

「あ、うん、わたしが魔物討伐の仕事に出ることも多かったからパパに預けているんだ」

 それ以前に、花達が亡くなった頃からプウは姿を消しがちだった。ヴァイアプトのようにモカ村で初めて見た分祀精霊もいる中、音羅はプウとの接触が少ない。

「わたしが家に帰ってきても、パパといることが増えたような気がする」

「横取りされたようね」

「……なんか、ちょっと悔しいな」

「張り合っても無駄。クムやイトヌシしかり、あの手の生物は父様に懐くのですわ」

「そうとはいいきれ……るかな」

 分祀精霊の多くは父の世話を焼きたがり父の命令には逆らわない。おまけに頼まれていなくても父の傍に現れて音羅達にも献身的である。その代表格がクムと結師で、クムは小さい体で不器用ながら蜜柑をせっせと運んでくれるし、結師は職人芸で髪を整えてくれる。ヴァイアプトなどは一言も発することなく部屋の燈になってくれている。プウはいたずら好きで危なっかしいところもあり、家事や身の回りの世話をしている様子は全くないが、

「パパならうまく面倒をみてくれているよね。魔物と戦うようなことに巻き込まなくて済むのもいいことだ」

「本心」

「寂しくもあるよ」

 いつも頭や肩に載っていた細長の重み。雄か雌か不明だが妹弟のような存在のプウが家の中でも一緒にいない寂しさはどうにも拭えない。

「ま、最初に比べたら大きくなってきたって話ですし、プウはプウで独り立ちの時期なのかも知れませんわね」

「独り立ち、か……」

 社会に出て働くということがないにしても、自分が体験したように、また、妹と同じようにプウが単独行動する時期が近づいている、と。

 ……プウちゃんも、大人になるのか。

 炊きたてのお米を一粒一粒食べていた頃が昨日のことのように思い起こされる。親心か姉心か、嬉しいのにやはり寂しく、音羅は不思議な心地だった。

「治療はいいのかしら」

「そうだった……」

 夜月に促されて音羅は部屋を出た。プウの大きさを思い出して現実に引き戻されたよう。

 ……毒が残っているだけならむしろいいことだからな……。

 プウの成長は祝福すべきことだ。音羅は前向きに父を訪ねることにした。

 家族会議を終えた妹が各自の生活に戻ったようで居間に残っていたのは父だけだった。

「メリアさんは台所かな」

「クムは足を引っ張りに行ったよ」

「言い方を直してみよう」

「責めとらんよ。あの子はあれがいい」

「和むものね」

 蜜柑を持ってすっ転ぶのは日常茶飯事。自分より大きなものを動かせない姿も見かける。いつでもどこでも懸命で、生命の力強さや恐ろしさをも秘めているのがクムである。

「糸主さんは──」

「ここじゃよぅ」

 頭上から声。指示を出さなくてもヴァイアプトが影を照らしてくれる。梁を這う毛玉が一つ目に留まった。

「会議中もおったんじゃがのぉ」

「お掃除いつもありがとうございます」

「お安いご用じゃ」

 建物の構造上、母やメリアでもなかなか手をつけられない場所が存在する。梁などは煤もつくので糸主の働きが活きる場所だ。

 糸主と同じく分祀精霊と称せられる存在がいつもちらほら見かけられる父の周辺を音羅は見渡す。移住後から日を追って挨拶してきたがたまに見知らない者が増えていることもあるので全員を把握しているとは言えそうにない。その全てがかつて父に力を貸したり助けられたりしたとは、父からではなく分祀精霊の面面から聞いたことである。こんにち音羅の目に留まったのは白い少女ノクシィと、プウに似たヘビのような外見の〈ヴォダニィ〉である。ノクシィは話しかけても喋らず自分から全く動かず音羅達が動いたときに生じたわずかな風で吹き飛んでしまう少し危なっかしい子だが、吹っ飛んだあとも怪我をした様子はない不思議な子だ。ヴォダニィは主に洗濯係で水場の近くで見かけられるが本日は父の横で蜜柑を鼻先(?)に載せてくるくる回して遊んでいる。それぞれに特殊な力を持っているらしいが、クムと同じように普段はそんな様子が全くなく、竹神家を仄かに賑わす同居人である。

 同居人の中でも特に賑やかな結師や刃羽薪の不在が気に掛かって、音羅は父に目を向ける。

「今は結師さん達もいないけれど、刃羽薪さんはめったに見かけないね。いつもどこにいるんだろう」

 第三田創での騒動のあと頃からか、手斧がトレードマークの刃羽薪は竹神家にふらりとやってきては音羅と力比べすることがある。拳で語り合うようなものでなく指先で押し合うのだが音羅と同等の力を示す小人である。

「刃羽薪は外で魔物を警戒してくれとるよ」

「そうだったの。今度しっかりお礼をいっておかないと」

「村で戦ったことはないと思うけどね」

「気を張るのは大変だよ。刃羽薪さんが好きなのはハチミツ味だったかな」

 ユガの祝日にチョコレートを贈ったりもしたので、味の好みを既製品で絞り出していた。

「お礼なら手作りしてみようね」

 父が意地の悪そうな笑みを浮かべた。「お肉味の生チョコやエビ風味のババロアなんてどうかね」

「おいしそうには思えないね」

「そりゃ音羅が作るんやもん」

「破滅的な腕前じゃないよっ」

「鍋を駄目に判断したやろ」

「ふにょっ!なんでそれを……」

 父母や納雪がサンプルテを離れ、いっとき一人暮しになった音羅は夜月に触発されてまじめに自炊しようとした。小麦粉を煮詰めていたときちょっぴり失敗して爆発、鍋どころかコンロが一口使い物にならなくなってしまった。

「あ。雪ちゃんがキッチンの様子を観ていたからパパに伝わったのか」

「その通り」

 ……雪ちゃん、目を丸くしていたものね。

 家を留守にしていた短い期間でどうしたらこんなことになるのか、と、驚いたのだろう。

「爆発なんて煮詰めてなるもんでもない。封の開いた小麦粉の袋を転ばせたんやろうな」

「あはは……オタマが当たっちゃったんだ」

「さしづめシチュかクリームコロッケか、いやお前さんのことやから比較的簡単なグラタンかね、いや、量を取ってやはりシチュやろうな」

「(お、お見通しだ。)ホワイトソースをね、作ろうと思って」

「羅欄納が買っとる黒糖ならともかく、コショウやサンショウ、調理用に加工されて粒子が細かい米粉や小麦粉を火の近くに置くのはいかんな」

「爆発は粉のせいだったんだね」

「いわゆる粉塵爆発。物損で済んでよかった。怪我はなかったんやろ」

「うん、小さくても体は丈夫だからね」

 怪我云云の流れで解毒の話をしてもよかったが、音羅は少し気になった。

「プウちゃんもいないね」

 家族会議のときもいなかった。父の周りにもいないようだが糸主と同じように梁を張っていたら擬態したようになって見分けがつかないか。

「見上げてもおらんよ。外で運動中やから」

「外。心配だな……」

「一緒に行きたい」

「うん。プウちゃん一人じゃ危ないもの」

「プウは火を吐く。んで、あの図体になっとるからザコくらいは締め上げられる」

「油断しちゃいけない」

「毒も受けるしな」

「その程度で済むならいいほうだよ……」

「プウは身のほどを弁えとるよ。お前さんと一緒に負けたんやから」

 誰にとは言われなくても解る。が、それより今は、

「まさか、プウちゃんは魔物相手に修業でもしているの!」

「正解」

「そんな……」

 一人で魔物と戦うのは危険だ。音羅だってメリアや刻音が一緒でやっとこさ満足に戦える。単独では死角が多すぎる。

 ……やめさせなきゃ!

 音羅は起ち上がったが、

「安心しなさいよ」

 手で座るよう促した父。「一人とはいっとらん」

 

 

 彼の目的は魔物の警戒であるようで、プウの背に跨って自分の脚を使わない。

「もうちょっと速く這え。そんなんじゃ、いつまで経っても森を一周できやしねぇ」

 森の外縁をちょうど半周ほど這った。尻尾で立ち上がれば南にはフロートソアーが見えるだろう。

 ……あの大地の裂け目に叩き落とすか。その気になれば一瞬で移動できる。

 と、強気に思っても実際にそんな機動力があるわけではない。プウは言葉を発せられないので鳴声に気持を託す。

「ピィゥゥぅ……」

「なんだ、不満か、不服か。忘れることを咎めやしねぇが忘れたのか。一周するまで帰らねぇってオマエがオトにいったからオレが付き合うことになってんだよ」

 ……ついてきてほしいなんていっていない。

「オレが跨ってることを不満に思うのはいい。けど、自分の決意、曲げんじゃねぇぞ」

一理あるな(ピゥ……)

 修業というなら時間無制限で森の外縁を這い続けなければなるまい。一家の大黒柱が日没までに戻るよう刃羽薪に言い含めたよう。それに、音羅も心配するだろう。

行くぞ(ピゥ)

「覇気が出たじゃねぇか。その調子だ」

 ……やってやるよ。今のおれじゃ、誰の力にもなれない。

 

 

「──刃羽薪さんの警戒活動に、プウちゃんが協力しているってこと」

「早い話そういうことやね」

 掌サイズの小人が手斧を担いで歩くので高速移動できないことは想像できるが、父が言うには刃羽薪はとにかく足が遅いそうで、体が大きくなったプウの背に載れば欠点が補える。刃羽薪から魔物に対する警戒を学べるのでプウの修業にもなるそうだ。

「魔物と遭遇しても刃羽薪がおれば大丈夫と保証するよ」

「……パパがそこまでいうなら安心かな」

「親心。それとも、姉心かな」

「どちらもだと思う」

 寂しさ半分、心配半分、いや、頼もしさも感じている。

 ……知らないところで頑張っていたんだな。

 ひとならざるヘビであっても頑張るひとを音羅は応援したい。その意志を折るような真似はできないし、自分の寂しさや心配を押売りするようなことは避けなければ。

「で」

 と、父が話を変えた。「本題はなんなん」

「……毒の治療を、ね」

「変調でもあったん」

「幻覚、かも知れないものを見たんだ」

「デザートスピアの毒なら捕食のための神経毒。幻覚作用はないが」

「っ……!」

 想像を超えた事態に直面していることを察して、音羅は言葉を失った。

「どうしたん。顔色悪いけど」

「……う、っうん、その……」

 言葉が出てこない。……どういったらいいんだろう。パパに、どういったら──。

 幻覚ではないとしたら、視覚情報が真実だったのだ。その真実が音羅の心をひどく搔き乱しているのは言うまでもないとして、父の心にも悪影響しかねない。なぜなら──。

「パパ、驚かずに聞いて……。わたし、見たんだ」

「幻覚か。いや、毒を疑ったそれは俺が否定したんやから、音羅が見たのは実際の光景ということになるな。はて、何を見た」

 父が蜜柑を一つ手に取り、「心を落ちつけていってごらん」

「うん……」

 深呼吸をいくつか挟んで音羅は切り出した。「学さん」

「……」

「学さんを……、見たかも知れない」

 小さな、掠れた声になってしまった。

「お前さんがそう呼ぶのは一人だけやな」

「うん。相末の、パパの親友の、あの学さんだよ」

「親友ではないな」

「親友だよ。親友以外には……」

「まあ、ともかく、そうかい、ふうん。……」

「パパ……」

 蜜柑の皮を剝き始めた父の落ちつきようは、落ちつかない音羅が観ても不自然だった。

「パパ、もしかして、すごく動揺している」

「看取ったってのは空耳か」

「……噓はいっていないよ。確かに、看取ったはずなんだ」

「葬儀は。音羅は参列したんやろ」

「……うん」

「亡骸を確認したかね」

「ごめん、見られなくて──」

「気にせんでいいよ。理由は想像がつく」

「……」

 相末学を最後まで見送れなかった。その理由を、父にも母にも家族にも音羅は伝えていなかった。その理由を心に上すこともなかったし、考えないようにもしていた。だから父が窺い知る術はないはずである。想像云云はお得意の噓かも知れないので、音羅は父の言葉に深く切り込まず、現状の問題点を確認する。

「わたしが見た学さんは、本物じゃないと思う。妄想だよ、きっと」

「あのヘタレ紳士をそんなに好きなん」

「パパも好きだよね」

「生きとるなら話したくはあるが」

「……パパのほうが、好きだったと思う」

 と、音羅は言った。「学さんは優しいからね」

 短い沈黙に小鳥のさえずり。

 父が問う。

「あえたらどうする」

「え……」

 父が妄想を否定しないのは、生存可能性のある相末学を受け入れるか否かを聞きたいのか。それとも、死者復活を毅然と否定できるか試しているのか。娘に人間性を求める父なら後者を望むべしと考えているだろうが──。

 答えられない娘に、父が再び問う。

「何も試しとらんから素直に答えてごらん」

 応答に詰まった理由を父は見破っている。

「音羅は、学さんとどうしたい」

「……」

 もし相末学が生きているなら父と引き合わせてあげたい、と、真先に考えたらよかったのだろうか。音羅は、自分が会いたい気持を拭えなかった。諦めたはずの気持、諦めざるを得なかった気持が、土に染み込む湧き水のようにじわじわと広がって、氾濫しそうだ。

「フェアじゃないね」

「え」

「俺から答えよう」

「パパから」

 相末学としたいことが残っていたのか。いや、「増えるよね……」

「音羅もそう」

「うん……」

 相末学に限ったことではない。亡くなったみんなと話したいことがたくさんできる。虚空に向けた一方通行の思考に、音羅は満足できていない。毎日夢を見て、多くの無念を思い出す。

 ……ううん、見送っていたわたしが無念を引き摺っているだけかも知れない。

 泥沼に浸かった音羅と対照的に、父が優しい笑みを見せた。

「もっとみんなの話をしたかったやろうね」

「みんな。わたし達の」

「音羅や納月、子欄や鈴音、謐納の話、そして夜月と刻音、納雪のことも、たくさん」

「ママやメリアさんのこともだね」

「メリアについては経緯の説明が大変やけど、それもまた愉しかろうね」

「学さんなら受け入れてくれるね。わたしのことも受け入れてくれたもの」

 零歳のときから音羅は外見が変わらない。零歳の音羅も今の音羅もなんの躊躇いもなく受け入れてくれたひと。その一人が相末学だ。

 父の微笑みが、音羅は一つ判らない。

「……パパは自分のことを話したくない」

「自分のことを話したいんやね」

「こうしているよ、って、一方的に伝えるばかりじゃあね……」

「消えたもんの大きさに気づくとそれを埋めようと必死になってまうね」

「パパも、今、そういう気持」

 応答を待たず、音羅は打ち明ける。「遺されたものがあるって解って嬉しかった。その気持も噓じゃないんだけれどね、やっぱり、自分の中のことは別なんだ……」

「同じやね」

「……うん、同じ」

 消えてしまったのは存在だけではなかった。故人へのおもいの数数は一つ残さず胸にしまっていた。そのはずなのに、手放すわけもないのに、いくつもなくなっている。薄情なのだろうか。会えない今、伝えたいことは増えるのに故人への新たなおもいが減っている。声、気持、表情や仕草を受け取ることでひとのそれを手に入れていたことに、それに応えることで増えたおもいがあったことに、なくすまで気づけなかった。

「同じは同じでも、音羅と少し違うところもあるか」

「どこかな」

「引籠りやからね」

「わたし達のことを話すんだ」

「充分やけどね」

「なんで」

「自分のこと話しとるのと一緒やから」

 話し手の目線があって初めて竹神家のことが相末学の耳に入っていた。話し手は、ずっと、ずっと、ときに距離が離れてもみんなを見守っていた。だからみんながここに集った。

「(人柱は立てちゃいけないって今も思っている。でも、)ずっと、ずっと、ず〜っと……パパがわたし達の柱になっていてくれたんだね」

「俺はバナナの葉っぱを葺いた屋根かもね、取替えが利くし」

「利かないよ」

「柱はママのほうね」

「パパも利かないってば。ママはすごく働き者だから柱っておかしい気がするよ」

「柱が動かんって捉えるのは、音羅的にいえば『後ろ向き』」

「そうかな」

「動く柱なら免震構造とかにあるしな。そもそも動く・動かんを中心にした表現でひとを物に喩えるならその表現自体を全否定すべきやな」

「それもそうだね。いい側面があるなら、そこを取り込めばいいんだ」

「そんな感じ。家族を脅かす地震から守るって意味なら、ママは最強の柱やよ」

「いまさらだけれど、パパがママっていうのはなんか不思議だね」

「聞き手に合わせただけよ。幹線に戻ろうか」

「モカ村に道路や線路が通っていたんだ。気づかなかった」

「変なボケ嚙ますんやない。大筋からずれたから話を戻すって意味」

「解りにくい喩えをいきなり使うからだよ」

「回答は」

「学さんと何をしたいか」

「話したあと何をするかまで、予定があるんやないの」

「……」

 小さなことだった。胸に残っていて、振り返れば振り返るほど、それを欲している。

「また、コートを掛けてほしいな」

 炎を操る音羅に上着は不要だった。でも、あのコートは必要だった。

「薄着で出回っとれば掛ける。叱るけどね」

「それは学さんの視点だね」

「自分が凍えることを気にせん親切さ。大切なことと向き合う真摯さ。美徳を一貫せよ、と、いうのは簡単やけど実践は難しい」

「本当にいいひとだったね……」

「生きとってほしい。そんな願望が妄想になって幻覚を引き起こしたんじゃないなら、解毒が不完全やった。学さんはとうに亡くなったんやから」

「……、え」

 音羅はぎょっとした。「解毒は完璧だったんじゃなかったの」

「そんなこといったっけ」

「神経毒とかって……」

「なんのこと」

「……騙された、のかな」

「詐欺師なパパに油断しすぎよ。おいで」

「もう……」

 噓つきに手招きされて音羅は再び治療を受けた。囲炉裏のように暖かく、炭のようにほんのりと明るい治癒魔法の光は、使い手の目差に等しく包み込むよう。正座した畳の目の一つ一つにもぬくもりが融け込んでいるように感ぜられて、くすぐったくも指がほどけていた。深呼吸すると、燻された空気の色を自分の燈に落とし込めたようで、知っていた燈とも求めていた燈とも違うようなのに、安心できて、誇りを持てた。

「パパでも魔法に失敗することがあるんだね」

「納月や子欄に訊いてみ。毒に完璧な処置を施すのは難しいんよ」

「そういうものなんだ」

「体内に取り込まれた毒はあっちゃこっちゃに散るから、こうやって一箇所に魔法を施しとっても全部を解毒することはまずできんし」

 今は頭に翳されている魔法の光である。「デザートスピアの全個体が調査されとるわけでもないから、視覚・聴覚・触覚を狂わせる毒性を一〇〇体のうち一体が持っとる可能性を否定できん。毒に合わせた魔法が必要でベーシックな治療がザルになる懸念はあるよ」

「変なことで噓をつかなくてもいいのになぁ」

「自己愛」

「あ」

 保身か。

「ま、お前さんの気持を確認するためにもね」

 そちらが本音ではないか。いや、そう思わせるのが父の手口か。いやそうと思わせて──、以下略である。父の発言に振り回されっ放しの音羅は、父が口許に運んだ蜜柑をしっかり食べて、自分が知る父を素直に捉えた。

「パパでもわたしの気持が判らないことがあるんだね」

「夜月みたいに読心すれば円滑に話を進められる。けど、そんなとこで効率化を目指したら詐欺師に輪が掛かりそうやな」

「ひとの気持が解ったほうがいいと思うよ」

「夜月もいったように警戒なら。そうでもないなら生身でぶつかってったほうが健全やろ」

 隠したいことができる前まで音羅は心を読まれても何も気にならなかった。

「知らないうちに心を読まれているとしたら愉しくはないかな」

「一方的に話すのと逆のようで同じことやな」

「……、身勝手になるってことだね」

「ん」

 自分の満足のため故人に言葉を向ける。自分の求める効率化のためひとの心を読む。それらは結局ひとのことなど考えていない自己中心的な思考でしかない、と。故人へおもいを焼べることは許されるだろうが、現世を生きるひとのなまの心を承諾もなく読み取るのは内心の自由を脅かす行為そのもので、一方的に距離を測り優位を得る行為でもある。歩み寄るにしても距離を取るにしても直接会話するのではなくても互いが判る形で話したほうが健全である。身勝手な解決方法は相手の気持を置き去りにして関係悪化を招きかねない。

「はい、終り」

 と、父が手を引いて、音羅を席に戻した。

「ありがとう、パパ。これで全回復だね」

「せやね。けど、もしもの話をしよう」

「学さんが、って、話かな」

「以前のお前さんなら揺れることもないやろうけど」

「生まれてすぐ揺らされていたと思うよ。……燈の色か」

「まだやろ」

「うん……」

 プウがいないのはいつかと似ている。完全に姿を消したわけではないものの、軸がぶれていないといいきれないから音羅は不安になる。

 ……どうしようかな。

「これもいつかの話か」

「何かな」

「バランス」

「責任感と正義感、行動力や罪の意識……。力は、いろいろなところにあるんだ」

「今はどんな感じに偏っとるかな」

「……」

 父は厳しく、また、ひどく甘い。その優しさに溺れてしまいたくなる。溺れては、また足場を失う。

 ……同じ失敗ばかりじゃ、駄目だな。

 あの場には一緒に学ぶ花がいた。……まずは外に出ているプウちゃんに会おうかな。

 立ち上がろうとした音羅の耳にガララッと玄関扉の開く音が届いて、

「帰ったぜ」

 と、声も。

「刃羽薪さん、おかえり」

「よお、音羅。辛気くせえ顔だな」

 そう言った刃羽薪をおんぶ(?)してにょろろっと父の脇に滑り込んだプウと目が合ったのは一瞬のこと。

「プウちゃんもおかえり」

「……ピゥ」

 返事もそこそこに火の粉を散らしてプウが消えた。畳に尻餅をついた刃羽薪が手斧を振りつつ起き上がった。

「おお痛。あの馬鹿野郎(バーロウ)、消えるなら消えるっていいやがれってのに」

「刃羽薪さん、ごめんなさい」

「オマエが謝ることじゃないぜ。その顔はプウのせいだったか」

「外へ行くときはわたしも誘って、って、いいに行こうと思ったんだ」

「その瞬間帰宅しちまったんだな。悪いことしたぜ」

「チャンスはまだあるから気にしないで。村だけじゃなくプウちゃんのことも守ってくれて、ありがとう」

「警戒のついでだ。オト、あとで見回り報告すっから頼んだぜ」

「はいよ。緊急性がないようで何より」

 身の丈もある蜜柑を手に取る刃羽薪。

「お昼かな」

「水分補給だ。オトラも忘れるんじゃないぜ、いつの間にかってのが死に繫がるからな」

「やにわに重いっ」

「油断しがちな冬場にも多い話なんだぜ、つまり年じゅう危ねえ」

 脱水症状を見逃すと確かに危険だ。

「注意するね」

「プウのことなら安心しろよ」

 刃羽薪が四方八方から躍動的に蜜柑の皮を剝き始めた。「アイツはオマエを嫌ってるんじゃねぇ、弱いヤツが嫌いなんだ」

「弱いヤツ……」

「ちゃんと歩いてきた人間なら足跡に答が転がってるもんだぜ」

「見つけられるかは自分次第……。プウちゃんが何を嫌っているかも同じかな」

「そうだ」

 刃羽薪が蜜柑を豪快についばんで、「ま、オレもよく解んねぇけどな」と、笑うので、音羅はつられて笑った。

 ……全てが解っているわけじゃない。いつどこにいてもそうだった。

 それでも足下に必ず答があった。足場が崩れ去った理由さえ。

 言葉を発しないプウとは会話が成り立っていなかった。感覚的な会話は音羅の思い込みだったかも知れず、プウの意志を酌み取れていたとは言えない。

 故人と話したいことが勿論ある。だがそれ以上に、いま生きているひとと話をしなければならない。

 ……今度、プウちゃんときちんと話してみよう。

 修業をしているなら手伝おう。花としたように切磋琢磨することができるはずだ。

「今は立ち上がれないわけじゃない。歩き出さなくちゃね、パパ」

「それとなく俺を巻き込むんやないよ」

「ばれた……」

「見え見え。お前さんは永遠に成長できそうやな」

 いつまでも不出来な娘、と、いう皮肉もあるだろう。成長が遅いということであり、成長の早い妹と比べれば短所でしかないようだが。

「少しずつでも歩いていければすごい、って、それが誰かと支え合っている歩みならもっとすごい、って、わたしは思うよ」

「前向きやね。その目なら、遠からず見定められるやろう」

「うん、頑張るよ」

 ハイタッチした心地で父に掌を向けて音羅は立ち上がった。「お湯をいただいたから今日はお休み。プウちゃんとも外へ行きたいから出てきたら捕まえておいてね」

「捕獲要員か」

「引籠り特権だから悦んでいいんだよ」

「怒り満面で返上したいところやけど、軽い運動をかねて一回使ってから放棄するわ」

「健康になれるから一石二鳥だよ。頑張って、パパ」

「お前さんのポジティブには羅欄納を感ずるよ」

「やった!雪ちゃんも悦ぶよ」

「ボケ潰しされた気分」

 首を垂れた父に手を振って音羅は台所を覗いた。メリアとクムが薄黄色の生地を眺めて何やらやっている。

「何をやってい──」

「『ひゃぁっ!』」

「ふにょっ!な、なんで驚かれたのっ」

「あ、あいえ、音羅さんでしたか」

 ほっとした様子のメリアの手許、転んだらしいクムが生地に埋もれていたので、音羅は抓んで起こしてあげた。

「クムさん、大丈夫。息、できる」

「あ、はい、クムはなんとか。音羅様でしたか」

 それは二度目の反応だ。台所は誰かが来たらゆけない状況なのか。音羅は小声で尋ねる。

「誰だったらまずかったんですか。パパじゃないですよね」

「それなんですが、──」

 メリアが耳打ちしてくれて、事情が解った。

 ……刻ちゃんの誕生日会。素的!

 音羅は毎年全妹の誕生日をお祝いしている。今年の刻音の誕生日はメリアが先に動き出し、父とクム達がサポートしていたようである。感動のあまり声を大にしそうな気持を抑えて、音羅はなるべく小声を保った。

「誕生日会の準備に、このスポンジを用意しているんですね」

 縁にクムの型が入ってしまったが、それ以前に、「誕生日は六夜後ですから生地が傷んでしまいそうですね。保存は利くんですか」

「これは試作で、スイーツ作りの特訓をかねています。できあがったものは味見のため音さんや分祀精霊のみんなへ。余ったら村のみんなに証拠隠滅してもらうのです」

 言葉が物騒だが音羅は計画に賛成だ。

「わたしなら味見にも証拠隠滅にも貢献できます。おまけに刻ちゃんの好みも解りますよ」

「さすが音羅様、気持のいい食べ盛りですわ」

「えへへ。メリアさん、どうですか」

 ケーキの試作品を発見したら刻音は誕生日会の準備と感づくだろう。証拠隠滅の速さも、味見の精度も、音羅を超える者は竹神家におるまい。

「音羅さんがよければ協力をお願いしたいです」

 メリアが会釈して、「大まかな方針は決まっているのですが細部がまだまだで」

「飾りとか、上に載せるフルーツとかですか」

「細かいところまで全て刻音さんの大好きなものになるように……一片も偽らずにおいしいといえるような、そんなケーキにしたいのです」

「素的です!全力で協力します、って、いっておいていきなりですが、飾りはなっちゃんや夜月ちゃんのほうが得意だと思います。こそっと呼んできましょうか」

「お願いします!」

「任せてください。刻ちゃんの誕生日、一緒に盛り上げていきましょう!」

「はい!」

 できあがったケーキを見て悦ぶ刻音の顔が目に浮かぶようだ。

 二階同室の夜月に経緯を話して台所へ向かわせると、三階北西に位置する納月の部屋を音羅は慎重に覗いた。

 ……刻ちゃんが一緒の部屋だから、気をつけな──。

「洗濯物を持ってどうしたんですか」

「ふにょんっ!」

 背後に刻音(!)いつからいた。

「変らずヘンな反応ですね、お姉ちゃんは」

「と、刻ちゃん、おどかさないで……(って、早速見つかっちゃったっ)」

 だがしかし音羅は思い立った。メリアか子欄か刻音、いずれかに託す予定だった洗濯物は父やメリア達との会話中も持っていた。

「刻ちゃん、じつはこれを──」

「変な声がしたと思ったらやっぱり音羅お姉様でしたか」

 と、子欄が部屋から出てきて、「あ、引き取りますね」と、さりげない親切さで音羅の洗濯物を持って一階へ降りてゆいた。

「あ、ありがとうね、しーちゃん。(って、いけない、逃げ道がなくなった!)」

「音羅お姉ちゃん、暑いですか、汗がすごいですよぅ」

 刻音が手団扇で風を送ってくれて少し寒いくらいだ。

「だ、大丈夫、大丈夫、お姉ちゃんは炎の子だから暑さは全然平気なんだよっ」

「それは知っていますが汗は──」

「汗っかきだからね、どうしようもないんだ、あははっ」

 汗っかきは噓ではないが笑顔がハリボテだった。

「それも知っています。……なんか怪しい。本当にどうしたんですか。あ、毒で体調が──」

「あ、いやその、それはパパに回復してもらって大丈夫になってね、(って、なっちゃんに治してもらいに来たっていえばよかったかなっ)」

 とっさに噓を言えない正直さであった。

 誕生日会に関わることは全てがサプライズだ。なんとか隠し通さなければならない。

「(うまい言訳が思いつかない。)え〜っとね、あれ、あれなんだよ、あれ」

「あれ?」

 見つめられると弱い。舌が縺れる。

「なんにゃっけ。あのれ、あなれ、あ……あられ、だよ〜」

「アラレ?」

「そ、そう、アラレっ、アラレを探していてね、なっちゃん白いものならなんでも持っていそうな気がしてちょっと寄ったんだ」

「……」

「……恥ずかしいからあんまり見つめないで」

 完全に怪しまれている。と、思われたが、

「おやつですか」

「う、うン、オヤツダヨ」

「あんまり食べすぎるとお父ちゃんに叱られますからね」

「ソ、そういうところは厳しいよね、パパ」

 父の目を盗んでこっそりもらいに来たと刻音は捉えてくれたようだ。

「レトルトシチュをすっごく買って部屋に隠し持っているくらいなので、納月お姉ちゃんならアラレの一つくらい持っているかも知れません」

「そうだよねっ、や、やっぱり来てよかった」

 自然な流れだろう。音羅は部屋に入る。「なっちゃん、アラレを持っていないかな〜」

「持ってるわけないです」

 ……即答っ。

 勉強机で難しそうな書類に向かっている納月である。

「アラレはわたし的白物には入りましぇんよ〜ぃ」

「おモチなのになぁ」

「アラレじゃ丼には成り得ませんしね」

 丼になるものが白物という扱い。ならば、

「その考え方は古いよ、なっちゃん」

「む、どういう意味です」

 体を向けて話を聞いてくれる納月に、音羅は熱弁する。

「しけったアラレを揚げ物の衣に使えるんだよ」

「な、なんですって」

「コナゴナにしてパフパフしてジュワッとねっ。そういうの、なっちゃん好きだよね」

「う……知りませんでした。はっ、そうすれば丼に載る……!まさかお姉様に料理のことを教わるなんて……」

「これでも食品会社勤務だったからね、めたんこ試食しているんだよ」

「自信に偏りを感じますけどちょっと気になってきました……」

 納月が席を立つ。「アラレって村にありますかね」

「糯米ならあるよ」

「買うかもらうかしてメリアさんに預けてきます。今夜は丼物パーティいってきますっ!」

「『いってらっしゃい』」

 アラレの衣がよほど気になったようで納月がたどたどしいスキップで出立した。

 刻音と二人きりになって、音羅ははっとする。

 ……しまった。

 墓穴を掘ってしまった。……あ、いや、ここからは普通に帰ればいいかな。

 メリアに糯米を預けに来たところで納月に協力要請ができるだろう。それに、夜月だけでも飾りつけの案をたくさん出してくれる可能性がある。

 ……あ、でも、よくよく考えると刻ちゃんが一人になるのはまずいな。

 家の中を自由に動き回ってはならない、なんてルールはない。家族会議でメリアとのスキンシップを口にしていた刻音が台所に訪れる可能性は高い。

「お姉ちゃん、やっぱり暑いんですか」

「へ。あ、汗なら平気、平気、お風呂を上がったばかりだから血行がよくなっているだけだと思うよ」

「刻はすっかり冷めてますけど……。お姉ちゃん、なんかヘンですねぇ」

 再び怪しまれている。

 刻音がずいっと顔を迫らせてきて、音羅は笑顔を保つので精一杯だった。自分で袋小路に突っ込んで万事休すである。

「音羅やぁ、オトが呼んでおるぞぃ」

「え、糸主さんの声、どこから」

「ここじゃ、ここ」

 足下。床の隙間からもふもふと這い出てきた毛玉に、刻音が目を丸くした。

「不法侵入ですよぅ、糸主さぁん」

「すまんのぉ、燃すといわれては敵わんのじゃ」

「お父ちゃん、意地悪ですもんねぇ」

「そうなんじゃよぉ。刻音はよぉ解っとるいい子じゃのぅ」

「んふふ〜、ありがとぉう、糸主さん大好きぃっ」

「ほっほっほっ、ワシもじゃよぅ」

 ぱちくりお目目の毛玉と頰ずりする刻音が、

「あ、そうだ。糸主さん、部屋の掃除を手伝ってくださぁい。納月お姉ちゃんがすぐ荒らしちゃうから大変で〜」

「ほっほっほっ、それもオトにいわれておる。鬼のいぬ間になんとやらじゃ」

 糸主は父が寄越した助け船だったようだ。「音羅や、オトが待っとるぞぃ」

「あ、うん、行ってくるね。刻ちゃん、掃除、偉いね。頑張って」

「はぁい、お姉ちゃんもお叱り頑張ってくださいね」

「う、うん」

 叱られることが決定しているかのような刻音の励ましに音羅は素直に笑った。自滅の袋小路を抜け出せたようだ。一階に降り、父のサポートにお礼を言って、台所に合流すると、夜月のアドバイスが試作用スポンジに反映されていた。

「すごい。ハートのリボンでいっぱいだね」

「解りやすい愛情に溺れるアホはハートを盛られればころっと騙されますわよ」

 言葉に棘しかないが大小さまざまなハートが絶妙なバランスで並んだスポンジは可愛らしくも美しい。

「夜月ちゃん、ありがとうね。きらきらして綺麗で、すっごく可愛いよ」

「ワタシが案を出してすぐメリアさんが砂糖を溶かして作ったんですわ」

「見事な手際でしたわ」

 と、クムが称賛した。「どんな形でも型なしで作れそうな技量です」

「羅欄納さんに教わってこっそり練習していたのです。ひょっとすると、刻音さんの誕生日を見越して教えてくれたのかも知れません」

「母ならそうかもです」

 誕生日当日は母が表に出ている予定だ。ケーキ作りをメリアに任せることで刻音を一緒にお祝いできる形を考えていたに違いない。

「ワタシは退散しますわよ。あのアホ、無音歩行なんてヤバイ技術を習得していつ現れるか判らないですし」

「そ、そうだね」

 足音が聞こえないので音羅の耳も刻音の接近を感じ取れない。

「厄介払いみたいでごめんね」

「構いませんわ。これでも一応、教わったし」

「教わった、って、刻ちゃんに」

「そっちに集中してちょうだい」

「あ……」

 後ろ髪を引かれることなく颯爽と去る夜月。「職人みたいだ。やっぱり恰好いいな、夜月ちゃんは」

「なるほど、夜月さんにデザイン案をもらっていたんですね」

 と、横から声。

「そう、そう、それで刻ちゃんのケーキを──、んにっ!」

 いつ間にか隣にいた声の主・子欄がケーキを覗き込んでいたので、音羅は口に手を当てた。

「子欄さん、いらっしゃい」

 と、メリアが迎えたので、音羅は動揺を治めた。

「そうだった、しーちゃんにはばれてもいいよね……」

「刻音さんの誕生日のことですね。先程お父様から聞いて様子を観に来ました。順調そうで何よりです」

 音羅の洗濯物を洗濯機に入れてきたという子欄が指摘するのは、「このケーキ、綺麗ですが物足りませんね」

「クリームを載せていないからですね」

 と、クムが生クリームのパックを示した。「長持するパック詰めは町まで出ないと手に入らないので、使用を控えようかとメリア様と話していたんです」

「なるほど。フルーツ類がなくてシンプルすぎるせいもありますね」

「メリアさん、その辺りってどうなっていますか」

「えーっと……」

 音羅の問に、メリアが紙を取り出し、夜月のデザイン案を描き起こした。「このように、三種の果物を散りばめるそうです」

「さすがは夜月さん。元モデルだけあってスイーツにも通じているようですね。しかし肝心の果物の種類が判りませんね。なんですか、これ」

 見た目はブルーベリやグレープといった小粒の果物のようだ。音羅は首を傾げた。

「村にあるかな。野菜畑はあるし、森には果物も見かけるけれど、こんなに小さくないよね」

 試作用ケーキ生地と見比べた子欄が推測する。

「スケールが違うんでは。実際はモカ村で採取できるペンシイェロの実で、ケーキのサイズがもっと大きいとか」

「ケーキのサイズはこのくらいで二層か三層で高さを作り、なおかつ複数個作ったほうがいいとはいっていましたけれど。よいしょっ」

 と、クムが支えたのは傾いた飴細工。ホイップがあれば安定しやすく薄いスポンジだけだとぐらついてしまうようだ。

「大家族だからたくさんないと困っちゃうね。刻ちゃんの誕生日とはいえみんながケーキを食べられないと誕生日って気がしないし」

「お姉様は特に食べないと盛り上がれないタイプですよね」

「ケーキ好きはなっちゃんもだよ。それに、刻ちゃんはみんなのことが好きだからケーキが足りなかったらきっと満足できない」

「では、ケーキは複数個を作ることになりますが……、問題は果物。やはりブルーベリやグレープということですよね」

 と、子欄がデザインを確認する。グレープは紫のものが大小複数個、マスカットのように黄緑色のものが大小複数個、隙間を埋めるブルーベリはかなりの数が必要そうだ。

「町での買物は母がやっていますよね」

「家計を一括管理している羅欄納さんの財布を預かってはいても、フリアーテノアの地理に疎いのでわたしは町に出たことがありません」

「母に交替する明日・明後日に買出しをお願いしましょう。生クリームと同じように、町なら揃うものもあると思います」

 材料調達予定が決まると、台所に訪れた納月が糯米をメリアに預けてゆいた。アラレ作りが決まると父が三和土に用意した臼と杵で餅搗きが始まった。力持の音羅がメインで杵を取って交替制の姉妹を支えつつ糯米を搗き、粘り気のある糯米をメリアがひっくり返して、柔らかいモチができあがった。アラレ用に乾燥させる分を取っておいて、残りを夜食にいただいた。餅搗きを気怠げに眺めていた父も、餡ころ餅をおいしそうに頰張っており、納月熱望の丼物パーティならぬモチパーティを一家が愉しんだ。丼物でなくてよかったのかと尋ねた音羅への納月の応答はこうだった。

「アラレは白物になりませんが、モチは立派な白物ですっ。もっちゃり至福〜っ!」

 練乳を掛けたモチを頰張って納月は大層満足げであった。

 

 

 夫婦の寝室が上階の賑わいを捉える。姉妹会議と異なり気兼ねない雑談が多く笑い声も響いてくる。

「おモチ、おいしかったですね」

 と、言うメリアは正座していた。

 オトが敷布団に寝転がったまま、

「お汁粉、雑煮、餡ころ餅、きな粉餅に焼餅。賑やかやったね」

「きな粉餅にヤキモチというのは音さんの心情ですか」

「餡ころ餅だけでもよかったけどね、納雪の、天使の梯子みたいなもんを観とったら久しぶりに食欲が刺激されたわ。ヤキモチの意味は違うが」

「みんなが愉しそうで前夜祭のようになりましたね」

「誕生日会の準備が万端整ったかね」

「ケーキの方向性が定まったので羅欄納さんに買出しを、微調整のため音羅さんに味見をお願いしました。明日・明後日には音羅さん達がレクリエーションを考えてくれるそうなので、当面わたしの役割はありませんね」

「それで万全かね」

 オトが何を問うているか、メリアは察している。

「……いいえ」

「ついてくよ」

「見送ってください。これは、けじめなのです」

「その体は羅欄納のなんよ。ついてったらいかんというのは、お前さんの勝手やな」

「夫として、見送ってくださると嬉しいのです。そうでなければ、わたしは戻る場所を見失うことでしょう」

「近くにおったほうが合理的やろ。けじめの邪魔をするつもりもないしな」

「……」

 出不精のオトが同行を申し出てくれることには感謝したい。が、メリアは一人で行くことに意味を見出している。

「お目やお耳に入れて恥ずべきことをわたしはしようと考えています。……、古代人であるわたしが現代人となるべく、あるいは死者から生者へ、時を超えるための分岐路なのです。背を押してもらうにとどまらずお力を借りて立つのでは……軟弱者になってしまいます」

 奇しくも刻音の拒絶を受け続けて、過去の自分を見つめ直すことができた。

「未だ……アデルさんを愛しているのです」

 息が詰まるような吐露を、動ずることなくオトが聞いてくれて、メリアは胸を締めつけられるような心持の反面懸念なく口を開くことができた。

「ことあるごとに、思い出してしまうのです。このような気持を抱えたまま迎え入れていただいては、いつか、また……」

「……そうか」

「はい……」

 メリアは、竹神家に迎え入れられた今、思ったのである。緋色童子の呪いに加えて自分を縛りつけるアデルへの愛情、創造神アースの最たる設計に打ち勝たねばならない、と。心中などという凶行ではなく言葉でアデルとの別れを果たして、互いに快く別れることができなければ現実を拒絶して逃げているだけになる、と。

 なぜアデルを愛しているのか、メリアは解らない。なぜ愛せたのかさえ、オトを前にすると解らない。愛する理由など存外ないものなのかも知れない、とは、オトと接していても思うのに、アデルへの愛を振り返ると無性に感情が搔き立てられて、だからこそ、不気味で、気持悪くなる。設計に振り回された過去は変えられず、今もって設計に振り回されている実感があるから、行動を変え、未来を変えたい。自分が望む方向へ歩むために。

「刃羽薪がいいことをいっとったな」

「刃羽薪さんが」

「きちんと歩んできたなら足跡に答が転がっとる、とね」

「わたしとアデルさん、第三創造期のみんなは、起源に足跡がありませんでした」

 創造神アースに死の選択すら定められていた。ゆえに、訣別が必要だ。

「わたしは、音さんや羅欄納さん、竹神家のみんなと歩んでいきます。その足跡を歪ませるような空虚な設計に振り回されたりしません。けじめの起源は決意です」

 正面に正座したオトに、メリアはそっと寄り、「待っていてください。音さんはわたしの、わたし達の、家ですから」

「……謐納との約束もあるしな」

 彼がそっと首に掛けてくれたのは、ララナのネックレス。

「どうして……。これは、羅欄納さんのものです」

「俺が、妻に贈ったもんやよ」

「──」

 メリアはララナからネックレスの真意を聞いていた。あしらわれた花花が語るのは、感謝と秘めた愛。夫婦になっておよそ三年を経てララナに贈られたのなら適切とはいえない言葉が含まれていた。ならば、別の誰かに意識を傾けた言葉と捉えるべきだろう。アデルの主観で語られた過去のみを頼りに現世でメリアとの接触に及ぶはずがなく、過去の経緯を照らし合わせるためオトは下調べをしたはずである。それは恐らくメリアの魂が現存していると判っていたララナとの出逢いの頃から予定されて創造神アースとの意識共有が絶たれたあと始動した。言うまでもなくメリア本人の記憶を掘り下げられる記憶の砂漠を用いるのが最善手だ。そうして、創造神アースの設計やそれに翻弄されてアデルとの心中を選んだこと、ララナを脅かしながらもその命を救っていたことを知るに至った。そう、オトはネックレスにメリアへの愛情と感謝を密かに()めていたのである。

 ……出逢ってくれた。出逢わせてくれた。音さんもそう思っていてくださった。

 メリアが八姉妹との出逢いの起点をオトやララナの気持に見出したように、オトもララナや娘との出逢いの経過としてメリアの気持を重く観て、受け止めていた。そして、八姉妹に受け入れられ、アデルとの訣別へ踏み出したメリアに、改めて気持を贈った。

「もう外すこたぁないよ。ずっとつけといて」

「励みになります……」

「正念場だ。気をつけて、いや、頑張っていきぃ」

「……はい!」

 待つことの、あの苦しみ。オトにそれを強いる。

 ……ここを乗り越えられれば、妻として、母として、新たな一歩を踏み出せます。

 負けを許されない一回きりの勝負だ。

「羅欄納にも報告してあるんやろ」

「はい。おモチをひっくり返しながら」

「粘りある人生になりますよう」

「願いを籠めました。おモチのように、みょ〜んと伸びてびょんっと縮んでここに戻ってこられるようにと」

「その表現はゴムっぽいね」

「ふふふ。願いは変わりません」

「今日にも行くんやろ」

「羅欄納さんを見習いました」

「じゃあ……」

 身を寄り添わせたメリアを、オトがそっと離した。「燈を忘れず、いってらっしゃい」

「──はい。行って参ります」

 温かく、優しく、力強い家。火の消えた囲炉裏にも仄かな燈があり、天井には朗らかな声が広がっている。

 すっかり暗くなった夜の村。振り返れば、辿るべきぬくもりが灯っている。

 

 

 

──一三章 終──

 

 

 

 

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