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RIVER-SIDE-CAFE   作者: 麗 未生(うるう みお)
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第9話 人影

見たくないのに――(湊斗の場合)

  僕はそっと振り返る。気のせいだろうか、窓の外に人影のようなものが見える。あれは何なのだろう。その影は窓の向こうからこのカフェを見ているように思えるのだ。しかもこれが初めてではない、何度か同じような物を見ている。


 僕は気になって何度も店の外に出て見た事がある。でも外には誰もいない、気のせいかと思って中に戻るとやはり、また影が見える。


「マスター、あのさ…あの、窓のところなんだけど…」


僕はそれをこの店のマスターに言おうかどうか迷っていると、マスターはあっさりと答えた。


「ああ、()えますか」

「視えるって……」

「窓の外の影でしょう」

「マスターも気付いていたの?」

「気にしなくても大丈夫ですよ」

「大丈夫って……」

「人とはちょっと変わって見えるだけです」


そう言ってマスターは微笑んだ。ちょっと変わって見えるという代物ではないとは思うが。


(おいおいおい、大丈夫じゃないだろう……)


「あれ……人……じゃないよね?」

「さあ、どうでしょうね……」

「覗いている……?」

「誰か、気になる人でもいるのでしょうかね……」


僕の背筋に、スーッと冷たい風が吹き抜けるような感覚が走った。僕は昔、女性の飛び降り死体を目撃した事がある。その女性は、僕が勤務する会社が入っているビル内の別のオフィスで働いていた。エレベーターで何度か顔を合わせた事のある美人だ。でもその死体は生前の彼女の姿をとどめてはいなくて、その時は誰なのか分からなかった。出社してからそれがあの女性である事が分かった。後から自殺だったと聞かされたが、普段見ていた感じではそういうタイプには見えなかったから猶更驚いた。


 何か、悩みでもあったのだろうか。まあ、僕には関係ない事ではあるが、やはり、少し気になった。実は僕は彼女が誰かと言い争っているのを見た事があるのだ。でも、その事を僕は誰にも言っていない。あれは警察に話すべきだったのだろうか。でも、彼女は自殺だったのだ、関係ないだろうと思った。


 僕は店の中をそっと見回す。早朝の店の中の客はまばらだ。


窓際にはまだ初老というには少し早いかなと思われる上品な女性が1人、落ち着いた物腰でコーヒーをゆっくりと味わっているように見える。ジョギングか何かの途中だろうか、それとも散歩の途中に寄った、という感じにも見える。


 カウンターには僕とそう歳の変わらなそうな男性が1人。こちらは仕事帰りだろうか、少し疲れた感じに見える。マスターと何やら話しているが、内容までは聞こえない。マスターは時折、意味ありげな目をしてその男性を見ている。何かあるのだろうか。


 あと、店内の中央のテーブルに若い女性が1人。大学生か、OLだろうか。何となく、楽しそうな雰囲気だ。良い事でもあったのだろうか。

 そうして入り口付近のテーブルに会社員らしい少し年配の男性が1人。仕事に行く前のモーニングだろうか、という事は家で食べていないのだ。奥さんと喧嘩して作って貰えなかった、もしくはやもめ暮らし、(いや)、独身主義なのかも知れない。などと、想像を巡らす。


 という僕は大学で心理学を学んでいた。だからつい、人間観察をしてしまうのかも知れない、でも会社は全く心理学とは関係のない会社に就職したのであるが。今日は先日の休日出勤の振り替えで、近所にあるこのカフェのモーニングを頂きに来た。


 そして今日も見える、あの窓の影が気になって仕方がない。何度、目を凝らしても人影にしか見えない。僕はもう一度振り返って窓を見る。


(あれ?)


その影は消えていた。横を見ると、さっきまでカウンターに座っていた男もいなくなっていた。


「マスター、そこに座っていた人は?」

「お帰りになられました」

「そう……」

もしや、ついて行った?まさかね……。

「あの人、確か、警備員とか言っていたよね」

「ええ……そうらしいですね……」


伏し目がちに返事をするマスターの声の響きが妙に心配げに聞こえた――。



                                終


お読みいただきありがとうございます。

こちらのお話しは第5話「彼女」、第7話「視線」と関連があります。


いいね・評価・ブックマーク&感想コメントなど頂けましたら大変嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします。

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