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RIVER-SIDE-CAFE   作者: 麗 未生(うるう みお)
39/40

第39話 錯覚

消えたカフェ――(湊斗の場合)

(おかしいな……)


確かこの辺にあったはずのカフェが見当たらない。こんなことってあるか?ついこの間まであった店が、いきなりなくなるなんて。いや、いきなりの閉店ならよくある話だ。


 でも、そうじゃない。この街の風景は何も変わっていない。なのに、どこをどう歩いても、あのカフェが見つからない。店そのものがないんだ。まるで初めからそこに存在していなかったかのように。


(そんなバカなことあるはずが……いや……そもそも本当にあったのか…?)


どんな店だったかな……落ち着いた雰囲気の……いや、オシャレな店だったか?


(あれ……?)


どうしたんだ、よく思い出せない。あれは夢だったのか?


 だが記憶に残っている――香ばしいコーヒーの香りと、旨いモーニング……そして不思議なマスター。

僕はあの店で、何度も不気味な気配を感じていた。そうだ、確かあの店で見かけた男が、先日ストーカー行為で逮捕されたというニュースを見た。間違いない。僕は絶対にあのカフェに行っていた……はずだ。今日はその男の話をマスターに聞こうと思って来たんだ。なのに、なんでないんだ。影も形もないって、どういうことだ。


(そうだ!川だ、確か横に川が流れていた……って、そんな川、どこにあるんだ…?)


ここら辺には川など、どこにもない……俺は夢でも見ていたのか……そういえば、あのカフェに通うようになったのは、同じビルにあった会社の女性が飛び降り自殺した後からだった。あの時も、不思議な気がした。それまで何度もこの道を通っていたのに、そこにカフェがあることに気づいていなかった。


(あの彼女――本当に自殺だったのかな……)


今でも疑問に思っている。彼女が飛び降りる数日前、残業帰りに年配の男性とやり取りしているのを見かけた。話の様子では、彼女の上司のように見えた。


「駅まで送って行くだけだよ」

「頼んでません」

「もう遅いし、女性の一人歩きは危険だから」

「大丈夫です」

「部下を心配するのは当たり前だろう」


男がそう言って笑うと、女性は怯えたような顔をした。明らかに嫌がっている、そう感じた。


「1人で大丈夫ですから!」


彼女はそう言って逃げるように走り去った。男は追いかけたりはしなかったが、物憂げな目で彼女の背中を見つめていた。


(いい歳をして……)


などと思った記憶がある。男は五十代後半くらい。彼女は二十代半ばの美人だった。どう見ても男のほうが一方的に好意を寄せている、そんな雰囲気だった。彼女が亡くなったのは、それから間もなくのこと。


 だから、なんだか引っかかった。でも、僕には直接の関わりはない。彼女とも、その男とも話したことすら一度もない。あれが彼女の死と関係しているという確証もない――というか、別の日の出来事だった。何か関係があるなんて、思えない。なのに、あの光景が何度も頭をよぎる。


 それからしばらくして、あの不思議なマスターのいるカフェを見つけたんだ。何だろう……どうにも記憶がはっきりしない。


(あれ……ここじゃなかったか……)


ん?なんだ?頭にモヤがかかったような……何か、錯覚してるのか。


(僕はここで何をしてるんだ……)


さて、どこへ行こうか……。そうだ、コーヒーが飲みたくなったんだ。でも、なんでここに来たんだ?こんな住宅街の中にカフェなんてあるはずがないのに。どうやら疲れているようだ。最近仕事が忙しかったからな。今日は早く帰って寝た方が良さそうだ。


えっと、なんだろう……何か忘れているような気がするけど‥‥。


(ま、いいか!)


忘れるくらいだから、どうせ大したことじゃない。



                          終

お読みいただきありがとうございます。

こちらは短編連作となります。

この話は第9話「人影」と繋がっています。


合わせてお読みいただければ幸いです。

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今後ともよろしくお願いします。

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