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RIVER-SIDE-CAFE   作者: 麗 未生(うるう みお)


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第31話 妹

納得できない……――(真央の場合)

 どうやらあの少年は逝ったみたいです。この十二年間、ずっと私を背負っていた少年。この間、電気が走るみたいに、私はやっと彼から離れられました。


(なんだかズルいな)


 そんなふうに思ったのです。だって、少年は自分が死んでいることに、ずっと気づいていなかったんです。それなのにその事実に気づいた途端、とっとと天国へ逝ってしまうなんて。私はあの地面に叩きつけられた日から、自分が死んだことをちゃんと分かっていたのに、ずっと彷徨い続けたままです。


 でも、私がなぜこんなに長く彷徨ったままだったのか、その理由が少しだけ分かった気がします。きっと、あの少年は自分の死に納得したのでしょう。でも、どうして納得できたのでしょうか。あの少年は、私が殺したようなものです。だって私はビルの上から、あの子の上に落ちたのだから。自分の不慮の死に納得できたなんて…「仕方ない」と諦めることができたのでしょうか。


 私は全然、納得できません。それに、あの少年から離れられてやっと自由に動けるようになったのですが、家族の事も家の事もおぼろげにしか覚えていません。ただ、自分が死んだ場所だけははっきり覚えていました。そして初めて分かったのだけれど、どうやら私は自殺したことになっているようです。


 日常に大した不満など持っていなかった私が、どうして自殺なんてするのでしょう。それを聞いたときは、ますます納得できないと思いました。でも、先日、私は自分が死んだ理由をしっかり思い出したのです。あれは事故?――違う。私は殺されたのだ、あの男に。


 だから私は自分が死んだ場所に行けたのでしょう。死んだあの日の事をはっきりと思い出したのですから。


 「恨み骨髄」と言いたいが、気づくのが遅すぎました。だって、あの男ももうこの世の者ではないようなんです。生きていたなら、夜な夜な「恨んでいます」と言って枕元に立ちたいところだけど、それも出来やしない。


 そう、私は死んだあの男に会ってしまったのです。向こうも私に気づいたようでした。あの男もこの世を彷徨っているみたいです。どうやら、それなりに苦しんではいたようです。でも、自首をしたわけでもない。私の自殺説に便乗して、罪から逃れたのです。そう思うと、やっぱり許せません。


 だって、私が自殺したなんて聞かされた家族は、それをどう受け止めたのでしょう。顔は思い出せませんが、とても優しくて温かい人たちだった、という記憶はあります。きっと深く傷ついたに違いありません――。



「マスター、あのね…」


 ふと気づくと、目の前のカウンターに若い女性が座っていました。


 なんだかどこかで見たことがあるような気がします。私と同じくらいか、少し上かなと思ったのですが、私は死んでから12年経っているから、生きていたらこの女性よりずっと歳上です。


「お姉ちゃんと一緒にケーキ食べたかったな…昨日ね、お姉ちゃんの十三回忌だったんだよ。早いなあ…終わったらね、お父さんとお母さんが誕生日ケーキ買ってくれていたの」


 そう言って、若い女性はうっすらと涙を浮かべました。


「ずっとお祝いしてあげなくてごめんね、なんて言われちゃった」


 胸がトクンと波打つ。マスターの視線が一瞬、こちらを見たような気がしました。

 私は少し前から、このマスターは私のような存在が“視えて”いるのではないかと思っています。


「良かったですね、美穂さん」


 マスターは視線を私に向けたまま、目の前の女性に言いました


(美穂……?)


 その名前をとてもよく覚えている気がします。私の名前……? 違う。ああ、そうだ、妹の名前です。私はスーッとその女性の前に回りました。私の知っている美穂は、まだ中学生でした。でも間違いない、この子は私の妹です。私には分かります。


「お姉ちゃんが死んでから、私の誕生日はなくなったって思ってたけど、もういいのかな…」


誕生日がなくなったってどういうこと? そう思ったとき、中学生の美穂の言葉が頭に蘇りました。


――お姉ちゃん、約束だよ――


ああ、そうだ。あの日私は美穂の、妹の誕生日プレゼントを一緒に買いに行く約束をしていました。でも行けなかったのです。あの日、私は死んでしまったから。


(え、何? あれからずっと美穂は、自分の誕生日祝いをしていなかったの?)


 この子は、あの美穂なんだ――改めてそう思うと、余計に悲しくなりました。家族にお別れも言えず、私が死んだばかりに誕生日が祝えなくなった妹。


(ごめん…美穂。ごめんね…寂しい思いをさせたね)


 私はそっと美穂の頭を撫でてみました。こんなことをしても、何の慰めにもならないでしょうけれど、美穂がふっと頭を上げました。


「え……? マスター、今、なんか頭がフワッとした」

「きっとお姉さんですよ。お姉さんが美穂さんのお誕生日をお祝いしているんですよ」

「そっか!」


 マスターの言葉に、美穂はパアッと明るい顔をしました。その顔は中学の時のままの、可愛い妹でした。


 私はマスターの方に視線を向けました。マスターは私を見なかったけれど、やっぱり絶対に私の存在に気づいていると思いました。そして、私の思いを伝えてくれたのだと。


――ありがとう、マスター――



                        終


お読みいただきありがとうございます。

こちらは短編連作となります。

こちらのお話しは第6話「離れられない」、第20話「記憶」、第24話「不慮の再会」、第26話「記憶の断片」と繋がっています。

また第2話「曖昧な記憶」、第10話「誕生日」、第16話「消えない光景」、第21話「不可思議な事」、第25話「災難」、第31話「理不尽な死」と関連があります。


合わせてお読みいただければ幸いです。

いいね・評価・ブックマーク&感想コメントなど頂けましたら大変励みになります。

今後ともよろしくお願いします。

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