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RIVER-SIDE-CAFE   作者: 麗 未生(うるう みお)
28/40

第28話 足音

闇落ち――(啓介の場合)

 最近、俺は誰かに()けられているような気がする。一定の間隔で、俺の後ろをついてくる足音が聞こえることがあるのだ。でも、振り返ると誰もいない。やはり気のせいだろうか。そう思いながら、俺は馴染みのカフェの扉を開ける。……とはいえ、ここに来るのは、けっこう久しぶりだ。


「いらっしゃいませ」

「やあ、マスター。久しぶり」

「そうですね」

「この一ヵ月、いろいろ忙しくて」

「いろいろ、ですか……」


そう言って、マスターは少し上目遣いに俺の後ろを見る。


「何?」

「あ、いえ、なんでも……」

「それよりさ、俺、最近いつも誰かに付けられてるような気がするんだよね」

「付けられている……ですか?」

「気配というか。でも、たまに足音が聞こえたりするんだ。なのに振り返ると誰もいない。気味悪いだろ?俺、もしかしたらストーカーされてるんじゃないかって思って」

「どんな足音ですか?」

「うーん、カツンカツン……いや違うな、コーン、コーン? そんな足音ないか。どこかから響いてくるような、なんか、うまく表現できない。やっぱ気のせいかもね」

「そうですか」


でも、本当は足音だけじゃない。このところ、いつも誰かに見られているような気がする。今もそうだ。後ろに誰かいるような視線を感じる。何だかゾクッとする。


「ねえ、マスター。俺の後ろに、何かいる?」

「何か、と言いますと?」

「さっき、俺の後ろ見たよね?」

「いえ、特には」

「本当に?」

「ええ。……誰かにストーカーされるような覚えはあるんですか?」

「ないよ」

「じゃあ、ストーカーしたことはあります?」


唐突な質問に、噴き出しそうになった。普通、そんなこと聞くか?それに、もしやってたとして、「俺、やってました!」なんて答えるか?まあ、俺にはまったく覚えがないけどな。そんなことする奴の気が知れない。きっと、好きな女に相手にされない寂しいやつなんだろう。俺にはちゃんと彼女がいるから関係ないし。


 それにしても、このマスターがそんな変な冗談を言うタイプには見えないんだけどな。しかも、まったく表情も変えず、いつもの抑揚のない話し方のままだ。


「やだなぁ、そんな真顔で変なこと聞かないでよ」

「すみません。……そういえば、彼女さんとは順調ですか?」


ちょっと痛いところを突かれた。実は、彼女と少し問題がある。ここに来れなかった理由のひとつでもある。――彼女が、他の男と一緒にいるところを見てしまったのだ。そのことがずっと気になって、ここのところずっと、彼女に会う機会をうかがっていた。俺は裏切られたのか?俺に何の断りもなく男と会っているということは、そういうことだろう。最近、あまり会えていないから、直接聞くこともできない。俺がこんなに思っているのに、裏切るなんて、さすがに酷いじゃないか。俺だけを思ってくれていると信じていたのに……結構、ショックだった。


「クソッ!」


思わず、テーブルをドンッと叩いてしまった。その瞬間、俺の耳元に奇妙な声が届いた。


――私に触らないで!――


(え?)


ゾワッとした空気が、俺を包み込む。


(なんだ?)


頭の中に何かが浮かび上がる。光る大きな目、浮かび上がるシルエット。

あれは……死んだ、俺の彼女だ。電車のライトに照らされた姿は、今でもはっきりと覚えている。でも、なぜ? 俺にはもう別の彼女がいるのに。その彼女に裏切られたショックで、俺が動揺しているからか?


 それで死んでしまった彼女のことが思い出されるのだろうか。

なんだろう、ゾワゾワする。生ぬるい空気が、俺を取り囲んでいる気がする。


(ん……?)


それに、周りの景色が……違って見える。どういうことだ?


(あれ?ここはどこだ?俺はあのカフェにいたんじゃないのか?)


遠くから、また――あの足音が聞こえてくる。


カツーン……カツーン


地の底から響いてくるあの足音が――。



                      終

お読みいただきありがとうございます。

こちらのお話しは第5話「彼女」と繋がっています。


また第7話「視線」、第14話「罪の意識」、第9話「偶然」と関連があります。

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