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RIVER-SIDE-CAFE   作者: 麗 未生(うるう みお)
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第21話 不可思議な事

見てくれない母――(悠馬の場合2)

 僕には、不思議なことがある。僕の母は、僕を見ずに話しかけてくる。僕はいつも、ちゃんと返事をしているのに、母はまるで僕の返事が聞こえないかのように、僕を見ようとしない。でも、確かに僕の名を呼んで話しかけている。不思議でたまらない。どうして僕を無視するのに、僕の名前を呼ぶのだろう。


 やはり、僕の背中に覆いかぶさるように乗っている“女”のせいなのだろうか。この女は、なぜいつまでも僕の背に乗っているのだろう。もう、毎日ずっとこの女を見ているせいで、最初は気味が悪いと思っていた不気味な姿にも、すっかり慣れてしまった。でも、母には直視できないのかもしれない。


 あれからもう何年も経っているはずなのに……あれ? そうでもないのかな?よく分からない。


 相変わらず、僕の記憶は何かが抜けているような気がする。あの日以来、全てが変わってしまった。でも、どうしてなんだ。僕はただ、この女が落ちてくるところを見ただけだ。僕のせいで落ちたわけでもないのに、なぜずっとこの女は僕から離れないんだろう。


 そういえば、よく考えてみると、母だけじゃない。父はもちろん、学校の友達もみんな、僕を見なくなった。僕が声をかけても、知らん顔している。もしかして、ハブられているのかも……そう思ったこともある。みんな僕を無視する。話しかけても、まるで聞こえていないかのように。でも、みんな普通なんだ。あまりにも普通すぎて、逆に不気味だ。虐められたり、何か嫌なことを言われるわけでもない。


(いや、無視って、最大の虐めだよね)


でもね、僕はそこに()()を感じないんだ。どうして、あんなに()()なんだろう。まるで僕が、最初から存在していなかったかのように――そうなんだ。あれからずっと、みんなそうなんだ。すれ違う人も、みんなみんな、僕を()()に見ない()()をする。


 やっぱり、こいつのせいなんだ。僕はそう思いながら、鏡を見る。そこには、僕の背中にぴったりとくっつき、覆いかぶさっている女の姿が映っている。その女は、頭が割れて血まみれで、思わず目を背けたくなるような姿をしている。こんな女が、ずっと、僕にくっついているから、みんな僕を見たくなくて、知らん顔をしているに違いない。僕だって、慣れたふりをしているけれど、本当は気持ち悪くてたまらない。鏡を見る度に、この女の割れた頭が目に入ってくるのだから。


 僕は一生、この女にとり憑かれたまま、生きていくのだろうか――。


「……君は、もう死んでいるんだよ」


ああ、まただ。最近は、こんな声まで聞こえるようになった。誰かが、僕の頭の中に直接、囁いてくるようにこんな言葉が聞こえる。誰に言っているんだろう。……ただの幻聴かな。あの女が落ちてきてから、僕の世界はすっかり変わってしまった気がする。


そう、落ちてきたんだ――上を見上げたら、女が落ちてきた。


(あれ……その後、どうなったんだっけ?)


そうだ。そのあと、女が誰かと重なるように、地面に転がっていた。その地面が割れた女の頭の血で赤く染まっていたのは鮮明に覚えている。女の下に、誰かがいた。僕と同じ制服を着た誰か――。女の下敷きになって潰れているその誰かを、僕はとてもよく知っている気がするのに、どうしても思い出せない。同級生だったのだろうか。


 もう、ずっとずっと昔のことのように思える。でも、きっとそうじゃないんだ。だって、僕はいまだに中学生のままだし。


(え……僕、まだ中学生だった……かな?)


そういえば、中学校も、いつの間にか知らない奴らばかりになっている。僕の同級生たちは、どこへ行ったのだろう。どうして僕は、彼らに会えなくなったのだろう。なんだか、僕だけが置き去りにされてしまったような気がする。


 時の流れが、とても不可思議に感じられるのは、なぜなんだろう。


(そうだ、あそこに行ってみよう)


今の僕には、お気に入りの場所がある。でも、どうしてそこに入ったのかは思い出せない。そこに入ると、なんとなく気持ちが落ち着く。そこは、川沿いにある小さなカフェ。でも僕はコーヒーが飲めないから、ただそこに座っているだけなんだ。


 何も頼まないけれど、マスターは何も言わない。でも、彼とは時々目が合う。彼は、僕にくっついている女が怖くないのかもしれない。だって、僕を見て笑ってくれる。


 それに最近、そのカフェには母がやってくるようになった。僕が最近、家に行かなくなったから、会いに来てくれたのだろうか。だって誰も見てくれない家に帰るのはとても寂しいんだ……。


 でも、どうして僕がここにいるって知っていたのだろう……僕を探してくれたのかな。でも、相変わらず、僕を見てくれないんだけど――。


(いた…!)


ほら、今日もいた。カフェに入ると、カウンターに座っている母がいた。母はマスターと、何か話している。声をかけたら、今日は振り返ってくれるだろうか。


「お母さん――」


「え……?」


お読みいただきありがとうございます。

こちらの話は第2話「曖昧な記憶」、第17話「止まったままの時間」と繋がっています。

また、第6話「離れられない」、第8話「睨む女」、第10話「誕生日」、第15話「悪寒」と関連があります。


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今後ともよろしくお願いします。

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