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RIVER-SIDE-CAFE   作者: 麗 未生(うるう みお)
19/40

第19話 偶然

繋がっている?――(尚美の場合2)

「こんにちは、マスター」

「いらっしゃいませ」

「しばらくぶりね」

「今日もモカでよろしいですか?」

「ええ、ありがとう」

「どうですか? その後、例の視線の方は」

「ああ……あれ、ね……」


尚美は少し憂鬱そうな顔をする。


「視線……?」


すると、同じカウンターに座っていた男性がこちらを向いた。何度かここで見かけたことがある男性だ。


「え?」

「えっ……あ、すみません。何でもありません」


「ここ一週間は見ていないわ。勤務先でも変わったのかもしれない。何の仕事をしているのか知らないけど……でも、きっと普通のサラリーマンじゃないと思うの。根拠はないけど、不規則な感じ? いつも同じ電車に乗っていたわけでもないし」

「もう現れないといいですね」

「ええ、そう願うわ」


尚美とマスターの会話を聞いていたのか、さっきこちらを見た男性が話しかけてきた。


「あの……」

「はい?」

「ちょっと、お尋ねしてもいいでしょうか?」

「何でしょう?」

「さっき仰っていた“視線”って……何ですか?」

「え、あ、それは……」

「あ、すみません。実はちょっと気になることがあって」

「気になることですか?」

「ええ、僕の知り合いが、前に同じようなことを言っていたもので」

「同じようなことって?」

「電車の中で視線を感じるって……今、その人の顔が頭に浮かんでしまって」

「そうなんですか? 私も電車の中です。そちらも女性の方のことですか?」

「ええ。僕の婚約者でした」

「でした……って?」

「亡くなりました。ホームから落ちて……」


その言葉を聞いた途端、心臓がドクンと波打つ感じがした。そして、マスターの表情が少し曇る。


「彼女、その視線を気味が悪いって言っていました。まとわりつくような、嫌な感じだと。後悔しています。もっと彼女の言葉に耳を貸すべきだった……そうしていたら……」

「それは、私の感じている視線と、とてもよく似ています。あの……婚約者の方がホームから落ちたというのは……事故ですか?」

「足を滑らせたと聞いています。目撃者もいたようで」

「そうだったんですか……」

「でも、僕はおかしいと思ってるんです。彼女はとても慎重なタイプで、落ちるようなホームの端なんて歩くはずがない。しかも、もう電車が入ってくるというのに」

「それは……どういう意味? まさか、誰かに……」

「分かりません。でも、電車が入ってくるときに、そんな危ない場所にいたということは、何か他に気を取られていたのではないかと」


「他に……?」


「彼女が落ちた時、近くにいた男がいるんです。目撃者の話では“助けようとしていた”ということなんですが」

「何か、疑っていらっしゃるんですね」

「もし、その男が視線の正体だったら……」

「あなたの婚約者は、その男から逃れようとして足を滑らせたとか……?」

「そう、思っています。そして、僕には怪しいと思っている男がいます」

「怪しい男……?」


聞き返そうとした時、男性の携帯が鳴った。


「あ、すみません」


男性はしばらく電話で話をしていた。どうやら仕事の呼び出しのようだと尚美は思った。


「すみません、仕事でトラブルがあって戻らなくては。今度またここでお会いできたら、ゆっくりお話しさせてください。あと、ちょっと協力してほしいことも……。もし、あなたの感じている視線と、僕の婚約者が感じていた視線が同じだったとしたら……」

そう言い残して、男性は帰って行った。


本当に同じ人物なのだろうか。そんな偶然があるのか―――それに、「協力」とは何のことなのだろう。尚美は首をひねった。


でも、何か――嫌な感じがする。



                              終

お読みいただきありがとうございます。

こちらのお話しは第7話「視線」と繋がっています。

また第12話「疑惑」と関連があります。


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今後ともよろしくお願いします。

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