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RIVER-SIDE-CAFE   作者: 麗 未生(うるう みお)
13/40

第13話 視える

怖いわけじゃ……――(陽葵の場合)

「マスター、久しぶり~」

「あ、いらっしゃいませ。陽葵ちゃん。お仕事、忙しかったのですか?」

「そうなの~、今日やっと休み取れたんで。ここのコーヒー飲みたかったよ」

「この前、豆を買って帰られたじゃないですか?」

「でも、フィルターとサイフォンじゃ全然味が違うよ。それに、やっぱりマスターが淹れたコーヒーは格別。多分、私がサイフォン使っても違う味になると思う。ま、当たり前だけどね」

「ありがとうございます」


「ところでさ、マスターに私、前々から聞きたいって思っていた事があるのだけど…」

「なんですか?改まって?」

「ここって、その、何か集まってくる?」

「何かって?」

「その、生きていない人って言うか、そういう類の…」

「ああ…陽葵ちゃんも感じる方で」

「やっぱり…時々、なんか透けてる人いるなあって思っていたの」

「怖くはないのですか?」

「うーん、怖い時もあるけど…最近はだいたい分かるって言うか…見た目、怖いって思う人?もいるけど、そうでもない事の方が多いかな。生きている人間の方が怖いかも」

「今も、分かります?」

「あ…えっとね」


そう言って陽葵は店内を見まわす。店の隅のテーブルに男性が座っている。そしてその前に女性がいた。


「あ~、あそこ。あの隅にいる男の人の前に座っている女の人、多分、そうよね」

「よくお分かりで」

「あの2人って、何か関係あるの?あの女の人、前の席の男性を何だか、睨んでいるみたいに見えるけど」

「あのお2人は御夫婦だったのですよ。奥様は交通事故でお亡くなりになったようで…」

「え、じゃ、あの女の人、あの男の人の奥さんだったの?どうして睨んでいるの?」

「さあ、どうしてでしょうね。あの奥様は亡くなる前、うちによく来られていて、今ご主人がお座りになっている席の前にいつも座っていらっしゃったのですよ」

「へえ~、もしかして一人で過ごしたかったのかな。でも、あの男の人は睨まれているとは思っていないみたいね」

「そうですね」

「分からない方が幸せな事ってあるのかもね」


「そうですね。そう言えば、さっき生きている人間の方が怖いかもって仰いましたけど、何かありました?」

「あ~、うちの会社にね、すっごい怖いお局様がいるのよ」

「お局様?」

「勤続25年だとかなんだとからしいのだけど、もう、細かい事に一々煩くって。前にいた子がね、随分と虐められて自殺したとかしないとか、変な噂もあって…」

「そうなんですか?」

「昔、うちの会社のビルで飛び降り自殺があったらしくて。多分、それでそんな噂が出ちゃったんだと思うけど…」


「陽葵ちゃんは大丈夫なのですか?虐められたりとかは?」

「私?私は全然、平気。そう言うの聞き流せるから。だから余計怒るのかもだけどね。でも、忙し過ぎる~」

「まあ、今日はのんびり過ごして下さい」

「ありがとう」


陽葵は再度、店の隅の方の席を見た。コーヒーを飲んでいる男性は前の席を見て満足げな顔をしている。でも彼には、きっと前にいる奥さんの姿は見えていないのだろうなと思った。どんな夫婦だったのだろう、穏やかで優しい時を過ごしていたのだろうか。


 (いや)、あの女性を見る限り、何となく違う気がする。でも夫婦の思いなんてすれ違うことも多いだろう。人の想いとはいつも重ならないものだ。でもその思いに気付かない事が不幸とも限らないのだ。少なくともあの男性は、とても穏やかな表情をしている。


 そうして、また誰かが音もなく入ってきた。


(ヒエ~~ッ!)


見慣れていた陽葵でさえ、思わず悲鳴をあげそうになったがマスターは平然とした顔をしている。入ってきたのは中学生くらいの男の子とその背に乗っている女性。2人とも血塗れだ―――。


(やっぱり怖い~~~)



                          終

お読みいただきありがとうございます。

このお話しは第1話「君の面影」、第4話「淡い想い」、第11話「私の席」と繋がっています。

また、第2話「曖昧な記憶」、第6話「離れられない」と関連があります。


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