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RIVER-SIDE-CAFE   作者: 麗 未生(うるう みお)
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第12話 疑惑

そんなはずがないのに――(直樹の場合)

 僕はシステムエンジニアだ。昨日、取引先でメインコンピューターのトラブルがあって、徹夜で修復した帰り、このカフェを見つけた。疲れ切っていて、香ばしいコーヒーの香りに誘われ、一休みしたいと中に入った。


 このカフェで僕は僕と同じような過去を背負っている男と出会った。偶々座ったカウンター席の一つ隣の席にその男は座っていた。


 この日は奇しくも三年前に死んだ僕の婚約者の命日だった。


僕は彼女の事を考えながらコーヒーを口に運んだ。その時、同じカウンター席に座っていた男とマスターの会話が耳に入ってきた。


「今日……彼女の命日なんだ」


その言葉に僕はつい、耳を傾けた。こんな偶然があるなんてと、思わず話している男の顔を見た。


「そうなんですか。彼女さんは、ご病気か何かで?」

「否……事故なんだ。電車にはねられて……」


僕は少し気味が悪くなった。僕の婚約者の死因も同じだったから。


 僕と彼女は結婚の約束をしたばかりだった。これから双方の親に挨拶に行って、結婚式を決めてと、毎日そんな打ち合わせをしていた。その日も彼女は仕事の帰りに僕のマンションに来る予定だった。僕は軽い夕食を用意しながら彼女を待っていた。


でもその時、警察から事故の知らせを受けた。


彼女は電車のホームから誤って落ちて、ちょうど入ってきた電車と接触して亡くなったと――。


 彼女の携帯からの電話だったからてっきり彼女だと思って出たのに……。

最終の発信履歴が僕だったからだ。

 

 彼女はとても慎重な人だった。だからこそ、ホームから誤って落ちるなんてあり得ないと思った。そんなギリギリの場所を、しかも電車が入ってこようとする時に歩いたり、立ったりするはずがないと。でも、その現場を見ていた男がいた。男は彼女が足を滑らせ、仰け反る様にして落ちたと言ったらしい。その男が手を伸ばして彼女を掴まえようとしていたという証言があった。助けようとしてくれた人がいた、その時は、そう思った。僕も、彼女の死の知らせにパニックになっていて多くを考える事が出来なかった。


 しかし、日が経ち、冷静になってくると、どう考えてもおかしいと思うようになった。後ろ向きに、仰け反る様に?足を滑らせた人間が普通、そんな落ち方をするだろうかと。何故、彼女は線路側に背を向けていたのだ。誰か連れがいたのか?でもそんな話は聞いてはいない。


「最近、見られている気がするの……」


彼女が生前、そんな事を言っていたのを思い出した。


「見られているって?」

「電車の中。何だか、視線を感じる事があるのよ。なんかね、纏わりつくような嫌な感じなの」

「何、それ」

「ただの気のせいかも知れないのだけれど…」


確か、そんな会話をした。


「彼女は俺の目の前でホームから落ちたんだ…俺は手を伸ばしたけど間に合わなくて」


カウンターの横からそんな言葉が聞こえて、僕は男の顔を凝視した。

 こんな偶然が本当にあるのだろうか。この男の話している彼女とは、もしや僕の婚約者なのではないか、と一瞬思った。それくらい、状況が同じなのだ。もしかすると、この男が彼女に手を伸ばしたという目撃者なのではないか。しかし、そんなことがあるはずはない。この男は「俺の彼女」と言っている。ならば、それが僕の婚約者であるはずがない。


 僕の頭の中に、またあの彼女の言葉が蘇る。もし、彼女が感じていた視線を送っていた男がこの男だったとしたら……彼女はこの男から逃げようとしてホームから落ちたのではないか……いやいや、さすがに飛躍し過ぎだ。

 いくらなんでもそれは考え過ぎだろう。そんな男とここで偶然一緒になるなんて現実的にあるわけもない。


でも、それならばこんなにも話が符合するのは何故なのか。


 もしや僕がこのカフェに入ったのも、この男に出会ったのも、彼女の導きだったのではないか、そんな風に思えてくる。彼女が自分の死の原因を僕に教えるために。


(この男は何者だ?)

 

1度浮かんだ疑惑は、僕の中でじわじわと膨らみ始める――。



                           終

お読みいただきありがとうございます。

こちらのお話しは第5話「彼女」と関連があります。


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今後ともよろしくお願いします。

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