道を司るモノ
下町といっても、山側に建つ平屋に独り暮らしの女性がいる。
いつからかは近くに住む住人にはサッパリ不明だが、もうかなり前から住んでいるのだ。
人々は口を揃えて女性をこう呼んでいる。
『デエタラボッチ』と。
ある日デエタラボッチさんが買い物の為街に向かうと、何人かの住人たちが道路の脇に集まっていた。
傍らには救急車が停止しており、救急隊員たちはその場で患者を応急処置をしていた。
「どうかされました?」
デエタラボッチさんが声をかけると、皆心配そうな表情で彼女を見つめた。
「あ……デエタラボッチさん、困った事が起きたんだよ」
「心臓の病を抱えてるこの患者さんのもとへ救急車が到達したは良いがね、舗装されてない道路のせいでタイヤがパンクしてしまったんだよ」
かなりの田舎でガタガタ道の砂利が行く手を阻み、救急車は使えない。
そこでデエタラボッチさんが思案する。
良い考えが即座に浮かんだ。
「お任せ下さいな」
デエタラボッチさんは身を屈め地面に手を置くと、滑らせるようにその手を手前に引いた。
まるで紐を手繰り寄せるような動きで、道を引っ張ったのだ。
「はい、病院をこちらがわへ引き寄せましたよ」
見るとデエタラボッチさんの言葉通りに、目の前に病院が建っていた。
「デエタラボッチさん、助かりました」
「これで患者さんを搬送出来ます!」
一同拍手と歓声をわかせ、デエタラボッチさんを称えた。
「人間として当然の事をしただけです」
種族はデエタラボッチ、心は人間として生きるデエタラボッチさんは、今日も皆の人気者。