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最後だから言わせてもらいますが

作者: 海ほたる
掲載日:2026/03/11


今日は、栄えある王立魔法学園の卒業式。

9割以上が貴族で構成されている学園であり、将来国政を担う者たちを育成する場にもなっている。今年はこの国の王太子が卒業する年であるため、例年以上に来賓の数は多く、警備も厳重に行われていた。


そんな中。

注目を一身に集める美男美女がいる。

眩いほどの金髪に、金の瞳、きりりと前を見据える男。この国の王太子。

相対するは、美しく靡く青い髪。強い意志が見える鮮やかな空色の瞳。キュッと引き締められた口元。

誰がどう見ても美しいと評するであろう、公爵家のご令嬢。

そんな美男美女がホールの中央で向かい合う。


「……アイリス。」

「?なんでしょう、イクリプス様。」

「お前が、光の聖女であるラピスのことを階段から突き飛ばしたという情報が入ってきた。」

「………」


ざわめく聴衆。


(え、あのアイリス様が?)

(まるで天使のようなお人だぞ?)

(階段から突き飛ばすって、そもそも、ねぇ?)

(あぁ、そんなことが起こる前にあのお方が止めるだろうし…)

(((絶対に有り得ない…)))


「彼女はこの国にとってなくてはならない存在だ。それを害そうとした其方を、罰しない訳にはいかぬ。」


俯いた彼女の表情は見えない。


「…反論さえしないのか。」

王太子の拳がぎゅぅっと握られる。


「其方への罰として、この国からの追放を命ずる。」


人々のざわめきが響く。


国王と公爵らが口出しして来ないことから、これは王命であり、決定事項なのだと。事実かそうでないかは関係ないのだと。そう言わんばかり。


あぁ、そう。


「……それで、最後でございますか?」

「は、?」

「他に、私に言うことはないのか、と聞いたのです。」

「…あぁ、ないが。」

「ならば、私が発言しても問題ありませんね?」

「……許可しよう。」


スッと顔を上げる彼女。

たくさんの視線が彼女に集まる。


「最後だから。これでさいごだから、言わせてもらいますが。」

「……….」


すぅ、と息を吸い、吐き出す。


「私だって、お父様にお前は愛しい我が子だ、と言われたかった。かわいいぬいぐるみをプレゼントして欲しかった。できなかったら叩く厳しい教師ではなく、よくできたね、って褒めてくれるお母様が欲しかった。できて当然なんだから、できなかったらそれはお前が無能なのよ、なんて言われたくなかった。」

「は、」


ざわめきと共に、公爵へ非難の視線が飛ぶ。

くるりと振り返り、遠くの方を見つめる。


「私だって、ラピスのようなふわふわした可愛らしいドレスが着てみたかった。礼儀作法がなっていないから、なんて理由で叩かれない場所に生まれたかった。」

「アイリス、」

「別に貴族なんかじゃなくてよかった!!私は、金銀財宝、王妃の座なんてものに興味はないの!!!」


目の前にいる、王太子とバッチリ目が合う。


「私だって、あなたに愛を囁かれてみたかった。抱きしめて欲しかったッ!!そんな、普通の恋をしたかった。」

「ッ、」

あぁ、視界が歪んで仕方がない。

「わたし、あなたのことを愛してるわ。」

「アイリス、」


イクリプスは彼女の頬へ手を伸ばすが、触れる直前に叩かれる。


「きっと、私がラピスを突き飛ばしていないと言っても、意味はないのでしょう。邪魔な私をこのような形で傷物にし、他国へ嫁がせる。そして、光の聖女であるラピスを逃さぬため、あなたと婚約、結婚する。それが国の方針であり、目的なのでしょう?」

ざわっと大きなどよめきが広がる。

「……」


ぎゅっと強く目を瞑った反動で、涙がこぼれ落ちる。


「最後だもの。ねぇ、イクリプス様、私の頭を撫でてくださらない?今までよく頑張ったって。私のことを愛してた、ううん、愛までいかなくていい。せめて、幼馴染として大切に思っていた、くらい言ってくださらない?」


思い返せば、こうなったのが不思議なほど。

『嫌われてはなかったと思う。それなりに大切にされていたよ、私。』

毎日のように執務室に私を呼び寄せては、『何もしなくていい。ただここに、そばにいてくれ。』とソファに座らされ。

美味しい紅茶にお菓子が必ず準備されて。

私にとっては、お仕事してるイケメン鑑賞しながらのティータイム、という最高の時間だったにも関わらず。

『拘束してしまうことになるし、暇だろうから、』とイクリプス様は刺繍の道具に本、カードゲーム、宝石にドレスの仕立て屋まで、全て一流のそんじょそこらの人間では手が出せないものをプレゼントだと言って用意してくれた。


だが、結果はこれだ。前世で見た通り。

私は国外追放され、その道中で刺客(野党)に襲われて死ぬんだ。


「………」

「私には王妃、向いてないなぁって、ずっと思っていたの。だからきっと、いい機会だったのよね。」

『彼から離れよう、好きにならないようにしよう、とも思ったけど、できなかった。あの国王の遺伝子を受け継いでいるのが嘘のように、貴方は公平で、努力家で、本当に優しい人だった。』


『気持ちは森のお姫様よ!!』とか思って手に持っていたティーカップを持ったまま立ち上がってぐるぐる回りながら中身の紅茶を撒き散らしてそれがビシャってかかってしまったって、『っ、ふふ、あははっ!!何をやってるんだ、ふふ、』と笑ってその場を収めてくれるような人だった。侍女にはすごい勢いで叱られた。

今思い返しても、あの挙動不審な女を笑って許してくれたあなたは本当に優しい。普通なら避けるでしょう。うん、私なら避けるよそんな人。


「っ、アイリス、もうよい、もう良いのだ、アイリス。」

「ふふ、イクリプスさま、最後だもの、許してくれるよね。」


だってあなたは優しいから。


「さようなら、私の初恋の人。」

「!!」


そう言った彼女は王太子の襟元を引っ掴み、グイ、と引き寄せ、唇を奪った。

「っは、やってくれる、アイリス。」

ギラリと光る金の瞳。

離れようとした彼女に対し、イクリプスは、彼女の腰と頭に手を添えた。

それはもうがっしりと。

「こんなもので済むとでも?私を見くびるなよ?なぁ、かわいいかわいいアイリス?」

「いくり、んぅっ!!」

『な、ななななん、なんっでキスされ、』

「んぅ、ん、」

バシバシと王太子の胸を叩くアイリス。

ようやっと離してもらえた頃には、ぐったりとしていた。


聴衆は、一連の流れに目を白黒とさせつつも、しっかりとその光景を眼に焼き付けていた。


「…私が、其方を愛していないと思ったか。其方を手放すとでも?」

「いくりぷす、さま?」


「冗談も甚だしい。このように可愛らしい其方を、嫌いになんてなれるはずもない。」


『え、さっき追放っておっしゃっていたのでは…?』


「何があろうと迎えに行くに決まってるだろう。」

「へ?」


『いやいやいや、待って、断罪イベントだよねこれ?』


「婚約は破棄され、国外に追放、野党と見せかけた刺客に襲われて死ぬ運命なんじゃ、」

「私は追放する、と言っただけで、婚約破棄、なんて一言も言ってない。」

「え、」


『そう言えば言ってない。って、へ?え、あれ??』


「お前が死ぬなんて、冗談でもそんなこと言ってくれるな!最後だから、とか言っていたが、最後にはさせん。」

「でも、ラピスが好きなんじゃ、」

「何度も言うが、私が愛しているのはアイリス、其方だけだ。」

「で、でも、ラピスが好きなのは、」

「ラピス嬢が好きなのは、私なんかじゃない。アイリス、其方と私の弟だ。」

「へぁ?」


『待って、ヒロイン、王太子のこと好かないんですか???私悪役なんだけどな???私とあなたの弟って、私には弟なんていないから、まさか第二王子のリアン様のことか??あなたの弟って、結婚するから??』



「今回は国王の命令であったが故に従ったが……私から逃げられると?」

「ひゃ、」

「私は、あなたのことを心の底から大切に思っている。愛しているよ、何よりも。」

「へぁっ!??」

「あぁ、かわいらしいあなたを堪能したいところだが、そうもいかないみたいだ。予定より早くなったが、これだけあれば何とかなるだろう。」


『待って、思い出としてこの初恋兼幼馴染の唇を奪って国から出て行こうと思ってたのに、なんか予想外の反応なんですけど???突き飛ばすぐらいされると思ったのに???キスにあ、あ、あ、愛してる、って、ひぃゃあぁぁぁ〜!!!?!』


「さぁ、見せ物はしまいだ。陛下も公爵も、ここのところ、隣国と頻繁に連絡を取り合っていた。しかも、兵力に関する情報から、この王宮の内部構造について。ねぇ、国王陛下、ご教授されていましたよね?」

「何を言う!!そんなことしていな、」

「こちらに、証拠のお手紙がありますけど?」

「なっ、」

「それにそもそも、アイリスがラピス嬢をいじめたとかなんとか言っているが。やはり頭がゆるゆるというか、溶け切ってしまってなくなっているのではないか?」

「貴様、父であり国王である私に対して、そのような」

「あー、もうそう言うのはいいですから。とにかく、アイリスは私と四六時中一緒にいたんです、ラピス嬢にかまう暇なんてないほど私の職務に付き合っていただいていたのですから。虚偽の申告をこうも堂々とされるとは。」

「なっ!?あの娘、嘘を言いおったのか!?」


「ちゃんと調査もせずに私の言うことを鵜呑みにしちゃうなんて、ふふ、可愛いところもあるじゃないですか、国王様?」


「はぁ………国家転覆の恐れありとして、陛下と公爵を貴族牢に閉じ込めておくように。」

「んなっ!!!私は、陛下に唆されて、」

「公爵、後ほどたっぷりお聞かせ願いますから。牢屋の中で、ね?」

「ヒィっ、」

「早く連れて行け。」

「「はっ!」」

王太子の言うことを聞いて国王を拘束する騎士。

王宮は完全に王太子が掌握していた。

不敵に笑う王太子。


ぐるぐる目を回している公爵令嬢。


「あーぁ、もー逃げらんないだろうね。」

「それはどっちのことを言ってるの、リアン?」

「ん?もちろんわる〜い大人たちと、僕の未来の義姉上どっちもに決まってるだろ、ラピス。」

「ふふ、そっかぁ。あの人たち、何というか、浅はかでおバカよね。もはや可愛いまである。」

「それは僕も思うよ。考える脳みそ、どこに置いてきたんだか。我が父ながら、あんなになっちゃったら、消えたい……って思っちゃうレベルだね。」

「お兄さん似でよかったじゃない。」

「そうだね〜。ところでラピス。」

「ん?なぁに?」

「君さぁ、呑気にしてるけど、気づいてる?君も逃げられないって。」

「ん?別に逃げないから良いの。執着系弟攻め様、最高ですし!」

「おっと、ちょっとよくわかんない単語が聞こえたんだけど…まぁいっか。僕のそばにずっといてよ。」

「馬鹿ね、あなたが酷いことしない限りそばに居るわよ。」



後に、この瞬間を目撃していた人らは語る。

「国王様と王弟様は、奥方様が安全な場所で笑っていてくれる限り、素晴らしい政治を執り行って下さることだろう。」

「あぁ。何せ、愛する人のために一夜にして国の重鎮たちを追いやる手腕をお持ちの方々なのだから。」

「いくら脳みそなくなってそうとまで言われていたとしても、立場としては国王に公爵。それを退位に追い込むのには証拠が必要。途中で悟られたら秘密裏に殺される可能性だって否定できない。」

「何よりもすごいことは、それを私たちの誰にも悟らせず、内々に行ったということだ。」

「はは、悪いことはするもんじゃない。彼らの手にかかれば一瞬で悪事は晒され、その喉には死神の鎌がかけられていることだろう。」

「何なら、首が絞められていることにすら気付かぬうちに、命を落としているのだろうね。」


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