第7話 押し殺された殺意
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暖かな室内から出た瞬間、冷たい風が白の毛を撫でた。
朝の村は夜とは何もかもが対照的で、雲一つない快晴の元、晴れ晴れとした表情で職務に取り掛かる。
すれ違う人々は活気に溢れ、余所者の彼に対しても村人と変わらぬ態度で挨拶した。
フェアンヴェーへ向かう中継地点であり、往来は激しく、外部の人間への忌避感自体がないのだ。
目的地は二階建ての宿屋で、店主の愛想のよさも手伝って繁盛している。
「白衣の男の人は部屋にいるっチュ? 用事があるっチュ!」
「ああ、たぶん2階の18号室にいると思うよ」
主に訊ねたボーガードは、一目散に階段を駆けていく。
光の差さない廊下は踏み締める度に軋み、宿屋の年季を感じさせた。
目的の部屋の前に立つと、事前に打ち合わせた手順に従いドアを4回叩き、そして
「光神ルクスの使いの獣は何っチュ?」
「それは影を払う白の鼠」
合図の返事と共にゆっくりと扉が開かれ、中年の男が彼を手招きする。
羊皮紙で遮られた窓からは、一筋の光すら零れない。
カンテラで周囲を照らし浮かび上がるのは、気怠げな垂れた半目に白髪交じりの特徴的な男。
「ありがとう、よく持ってきてくれたね。君には危ない橋を渡らせてしまった」
穏やかな声音の労いの言葉に
「……いいっチュ。オイラには七帝に恨みがあるっチュ。アイツらに復讐できるなら安いもの、どんなに危険だろうが構わないっチュ」
獣人の確固たる意思に深々と頭を下げ、会話を続けた。
脳裏に浮かんだ兄姉や弟姉に思いを馳せる獣人は、紅の眼球に闘志を燃やす。
耳垢のようにこびりつく家族の絶叫と、苦しみのたうつ姿を嘲笑う人間。
あれから長い月日が過ぎた現在も、あの研究に携わった人間へ、沸き上がる殺意が色褪せることはない。
「魔物変異症の症例、飲食物との相関、鼠の獣人の被検体による致死率等の統計―――魔物変異恐怖症の個体の軍事的利用。忌まわしい実験の記録の数々。はたしてこれを奪ったところで、贖罪になるのかはわからないが……」
「オイラは奴らの敵であれば、誰でも構わないっチュ。たとえそれの元研究者でも」
怒気を含んだ物言いに、元研究者の男は寂しげに微笑した。
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