第6話 獣人と聖女の共犯
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「この感触、瓶か。中に資料が……」
鞄を漁って配下の男が、手を天に掲げる。
彼の掌に握られていたのは研究資料……ではなく瓶詰めの大量の肉、野菜のクズであった。
密閉され匂いはしないものの、肉は赤みが黒ずみ、淡色野菜の芯は変色し血液を彷彿とさせる。
「……な、なんだこれは! きったなっ! 錬金術の素材か?!」
震えた声色が男の動揺を露わにすると、続けて獣人が答えた。
「それは食べかけの肉と野菜っチュ! まだ食えるから、捨てないでほしいっチュ!」
「……さ、流石に腹を壊すんじゃないか? 大丈夫か、お前? 食い意地が張ってるな」
「ボーガード、もうちょっとまともなものを食べなさいよ」
「人間とは分かり合えないっチュ」
呆れた二人は半分に開いた瞳で、獣人を凝視した。
一つ一つ取り出すのが面倒になったのか。
男が獣人の鞄をひっくり返すも、羊皮紙の書類は出てこない。
「うーむ、獣人の考えることはよくわからんな。だが目当ての物は見つからん」
肝心の資料がいつの間に紛失したのに、一番驚きを隠せないのは、他ならぬボーガード自身だ。
まさかどこかに落としたのか?!
獣人の困惑をよそに
「証拠がなければ仕方あるまい。手間を取らせたな、怪しい者がいたら報告を頼む。では失礼した」
用件を済ませた配下の男は、すぐさま別の家へと赴く。
やっと帰ったか。
そんな心の声が漏れてきそうな安堵の溜息に、張り詰めた緊張が次第に解けていく。
こうしている場合ではない、早々に資料を探し出さねば。
ボーガードが立ち上がり、礼を伝えて森へと引き返そうとした所
「ごめんなさい、夜中に目が覚めてね。こっそり見て貴方が盗んだ物、私が管理してたの。こっちよ、あれを持ち上げるのを手伝って」
フランの口からまさかの一言が放たれ、部屋の片隅の樽が積み重なる場所を指指す。
よくよく観察すると樽の前には、不自然に雑然と物が散乱し、それはまるで何かを隠すかのようだった。
一つ一つ運ぶと小さな机が置かれただけの、秘密の地下室へと続いている。
梯子を降りた彼女は、ものの数分で彼に資料を手渡した。
「むしろ助かったっチュ! でもなんで、そんなことを?」
彼女は獣人に向けた視線を逸らし、理由を静かに語り出す。
「ざっと目を通したけれど、〝魔物変異症〟についての資料。もしこれが見つかれば、私も貴方もあの人たちに、確実に殺される。本当なら燃やそうかと考えたのだけれど……」
確かにフランまで巻き込まれるなら、いっそ失くなった方がいい。
人に許可も取らず、物を拝借したのが後ろめたいのか。
心の声を反芻するように、ゆっくりと。
「……でも貴方にとっても重要なものなんでしょう。この資料があれば、七帝に一泡吹かせられるかもしれない。私にも彼らに恨みがないか、そう聞かれれば嘘になるもの。見なかったことにするから、ね?」
「……恩が増えちゃったっチュ。オイラの用が済んだら、ぜひ聖女の仕事に協力させてほしいっチュ」
ボーガードは感謝をし、急いで宿屋へと向かった。
ようやく依頼者の元へいけるが、まだ七帝の監視の目があるだろう。
高揚する胸の危険信号に注意を払いつつ、彼は目的を果たすべく行動するのだった。
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