第5話 万事休す
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玄関を開けるや否や、黒の詰襟を着た髭の男が二人を睨めつけ
「協力感謝する。門番の証言と一致する、白の体毛の鼠の獣人。昨日夜中にやってきたのは貴様で間違いないな?」
と、まくしたてるように問うた。
腕組みした男は、片足で地面を何度も踏み、小気味よいリズムを刻む。
ボーガードは男の姿に内心ほくそ笑む。
一目で苛立ちの透けて見える振る舞い、それを望んでいたのだと。
「ああ、彼は昨日の夜に村にやってきたんですよ。泊まるところがなかったようなので、私の家に」
抑揚のない平坦な調子で、正直に答えたフランチェスカ。
隠すのは逆効果だが、必要以上に話せば疑念を生む。
まさか自分を売るつもりか?
言葉に詰まるも、彼女なりに考えあっての可能性も捨てきれない。
ボーガードが事の次第を静観すると、黒の詰襟は案の定
「貴様が盗人か?」
彼に詰め寄った。
どう誤魔化すべきかと、頭を悩ませる中
「道に迷ったのよね、ボーガード。森は方向感覚が狂いますから。夜なら特に」
自然な流れで、夜分遅くに村を訪れた理由をでっちあげる。
なかなかどうして、フランチェスカは機転の利く少女のようだ。
「そうっチュ。門番の2人が証言してくれるはずっチュ」
獣人がうんうん頷くも、眉間に皺を寄せたまま、七帝の部下を険しい表情を崩さない。
疑いはまだ完全に晴れず、次を乗り切らねば。
視線を向けて出方を伺い
「聖女と獣人、念の為に家を調べさせてもらうぞ。ドライ様の管理区域で無法を犯す者を取り逃がそうものなら、我々に怒りの矛先が向くのでな」
自分が何かを誰かに手渡すのは門番経由で、敵にも知られただろう。
「ええ、ご自由に。ですが教会で困った方々に治癒を施す日課がありますので。どうか手短にお願いします」
家人の了承を得た男は
「鼠の獣人、お前の鞄を見せてもらおう」
それを耳にし驚いたボーガードは、ハッと目を見開く。
駄目だ、これには例の研究資料が入っている。
逃げてしまうか?
いや、そうすればフランに迷惑が……どうすべきだ。
「どうした、さっさと見せろ」
ごちゃごちゃとした脳の思考を、七帝の配下の怒声が吹き飛ばす。
そして言うが早いか獣人の鞄に手を伸ばし、中身をまさぐった。
……まずい、もう終わりだ。
絶望的な状況に獣人は体を硬直させ、嵐が過ぎ去るのを待つ。
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