第4話 束の間の平穏
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朝告鳥が夜明けを村に報せる。
鼠頭の獣人は瞼を擦りつつ目を覚ますと、食事後に床につき毛布にくるまった、昨日の夜を思い出す。
鍋の食物を分け合い談笑しながら過ごし、彼の心を久しく忘れていた人の暖かみが灯る。
ボーガードが義賊として活動して早数年。
過去の悲劇を頭の片隅に追いやる為に身を粉にしてきたが、色褪せた日々に荒んだ心が凪ぐ。
(いや、フランチェスカ様を巻き込むわけにはいかないっチュ)
だが冷静に自らの立場を省みて、彼はそれを拒む。
七帝ドライの管理下の研究施設での窃盗。
これが発覚したら自分だけでなく、周囲の人間にまで危害が及ぶ。
個人の復讐が、他人の運命を左右していいはずがない。
彼が思索に耽ると、毛布がもぞもぞと動き出す。
どうやらフランチェスカも起きたようだ。
「おはよう、ボーガード。玄関に薪があるから、焚べてくれない?」
「オイラに任せろっチュ」
世界に魔法やそれに関連する品々はあれど、値が張る上に管理も面倒だ。
庶民は暖炉の炎を絶やさぬため、薪で寒さを乗り切っていた。
そのお陰で鍋の料理と共に、家々の空気まで熱せられ、室内は温かい。
「……いい匂いっチュ」
「体格の割に食いしん坊な獣人さんね、朝ご飯にする?」
「面目ないっチュ」
椀にフランが具をよそうと、ボーガードは口をつけて啜った。
人参やブロッコリーを掬う木製のスプーンは、まるで小さな庭のようだ。
時折向かい合ったフランチェスカに微笑むと、彼女は笑み返す。
「ボーガード、貴方は今夜はどうするの?」
「数日の間、村の宿屋に泊まる用意っチュ。心配しないでほしいっチュ。本当に感謝してもしきれないっチュ」
「ならよかったわ」
ここまで世話になり、何もせずに村から出るのは忍びない。
せめて自分にも彼女にできることはないか。
「一宿一飯の恩っチュ。フランチェスカ様は、何か困ってることないっチュ?」
「様呼びだなんてやめて。以後はフラン、若しくはフランチェスカと呼びなさい。これは命令です」
「フラン様……フランは何も」
言い直すと
「う〜ん、特にはないのだけれど。折角の好意に甘えやようかな。滞在中に私のことを手伝ってくれない?」
「そんなのでいいっチュ?」
「こう見えても忙しいのよ、それに……一人だと寂しいから」
侘しげに微笑したフランに頷き―――その時である。
「不審な獣人が現れたと、我々は聞いた。隠し立てすると、貴様らの為にならんぞ」
七帝の追手だ、まさかこうも早く勘づかれてしまうとは。
このまま居留守を決め込むべきか。
彼が息を潜めると
「やり過ごせば、怪しまれるわ。開けましょう、ボーガード」
「……!」
彼女の思わぬ反応に、獣人は肝を冷やすのであった。