第2話 聖なる歌
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「……ハァハァ……っチュ」
フェアンヴェーから資料を盗んでから追手の追跡を振り切るまで、ほぼ飲み食いなしで休息を取らずにきた弊害か。
疲弊した鼠頭の獣人は引き摺るように脚を動かすと、門の出入り口は灯台が船を導くが如く、魔法の光を煌めかす。
見えた人影に近づくと門前で対になった2人の門番は、険しい面様で鼠頭の獣人に目配せした。
「止まれ、こんな時間に何用だ」
「怪しい賊ではなかろうな」
訝しむ門番は威圧的な声色で問い訊ねた。
怪しまれるのも無理はないが
「この村の滞在中の人物に、届け物があるっチュ! オイラの話、聞いてないっチュ?」
正直に用件を伝えると、2人は視線を交わらせ
「宿屋にいなかったか? 仕事に疲れて旅にでたという男が」
「ああ、確かにあの人は近々獣人が来てくれるといってたな。なるほど、お前さんのことか」
「しかし非常識だぞ、こんな時間に来るなんてな。ま、外は寒かろう。村に入れ」
呆れつつも、二つ返事で納得した。
依頼者が日頃から獣人の話をしてくれたのが、幸いしたようだ。
案内されて村に入ると都市からほど近いだけあり、木製の安っぽいものではなく、石煉瓦で作られた耐火性に秀でた住宅が建ち並ぶ。
「彼の宿泊する宿屋はあそこだが、もう閉まっているからな。誰かに泊めてもらうしかないだろう」
「ありがとうっチュ。後はオイラ一人で大丈夫っチュ」
礼を述べると彼は一宿一飯の施しを受けるべく、家々を回って声をかけた。
しかし夜中だからか夢の世界に引きずり込まれ、起きてこない人が大半だ。
運良く扉を開けて応対した家人からは
「なんだよ、汚い鼠の獣人かよ。さっさと帰れ」
冷たく追い返され、彼は路頭に迷ってしまった。
腹が減って力がでない、今すぐにでも何かを口にしなければ。
鞄を漁ると乾パンを齧って空腹を紛らわし、再び暫く村を散策する。
10分ほど彷徨うと剥き出しのコンクリートの建物の中から、薄明りが漏れているのに気がついた。
「誰か起きてるっチュ? うぅ、もう体力がもたないっチュ……」
腹を抱えて老爺が歩むように、ゆっくりとそちらへ向かう。
建造物が目と鼻の先になると、誰かが抑えた唄っており、立った耳がピクピクと反応した。
誰かいる、この人に泊めてもらえるよう頼もう。
もうちょっとだ、彼がなけなしの気力を振り絞った刹那―――脚は泥濘に沈んだかのように止まり、次には体が前に倒れた。
「泊めて、ほしいっチュ……」
うわごとのように何度か呟くと誰かが駆け寄ってきたのを最後に、彼の意識が闇に飲まれていく。