第9話 お飾りの聖女
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フランと司祭に託された興味津々に群がる子供たち。
見上げる瞳には世俗の醜さなど知らぬ、爛々と輝く瞳が彼に視線を向ける。
「追いかけっこするっチュ。それでいいっチュ?」
さっそく提案をし訊ねると
「いいじゃん。獣人のお兄ちゃんなら、いつもより張り合いあるよな」
「いつもそればっかり。たまには別の遊びしようよ」
と、賛否がちょうど半々にわかれた。
適当な落とし所を見つけなければ、遊びもできない。
「最初は追いかけっこ、次は他の子の遊びでいいっチュ?」
意見がまとまり彼は鬼として、蜘蛛の子を散らすように走り去る少年少女を追った。
しかし決着は、ボーガードの勝利で幕を閉じた。
身体能力に優れた獣人、大人と子供の体格差、日頃の鍛錬。
勝敗はこの遊びにした瞬間、決していたのだ。
「……おっ、お兄ちゃん、強すぎるよ……ごほっ、げほっ」
「遊びこそ本気でやるもの、手加減なんてしないっチュ! 捕まえたっチュ!」
息を切らして逃げ回る少年に触れると、観念した彼は大の字になり天を仰ぐ。
呼吸が乱れ整うまでの間は、大人しくしてくれそうだ。
「次は女の子がしたい、おままごとっチュ」
「はーい、獣人さんがお父さん役ね〜。家に道具取りにいくから、少し時間ちょうだい」
満面の笑顔に妹の面影を見た獣人は、彼女らの指示通りにその場で待機した。
今か今かと待ちぼうけ道端で立つ彼を、寡黙な少女が飴玉を舐め、じっと観察し続けた。
飴を口内で転がし、時折頬が膨らんでは縮むを繰り返す。
そして適度な大きさになったのか、ガリガリと音を立てて噛り出した。
(あ、いつものが……獣の本能が目覚めそうっチュ)
彼女の仕草にたまらず体が疼いた。
こればかりは仕方がないのだとにじり寄り
「何か齧るものが欲しいっチュ。齧らせないと大変なことになるっチュよ? チュチュチュ」
「な、何する気?」
少女が小柄な身を震わせ、問う。
彼女を怖がらせぬよう屈むと、彼は言葉を続けた。
「何がって……オイラの前歯が大変なことになるっチュ! 地面にまで届いちゃうっチュ!」
「え、そうなんだ。家、近くだからお母さんから何か貰ってくるね」
そういうと駆け出し
「これでいいの?」
少女は真っ二つに割れた、木製の食器の片方を差し出す。
彼は感謝の意を示すと、本来の役割は果たせず使い物にならないそれを、一心不乱に齧り始めた。
「すんばらしいっチュ。硬すぎず柔らかすぎず。これが至高のガジガジっチュ……」
「おかしなネズミのお兄ちゃん」
恍惚とした獣人に呆れたように少女が微笑む、その時であった。
「ふざけるな!」
突如として野太い怒声が響く。
教会の方からだ
「急に何だろう?」
「ごめんっチュ、確かめにいくっチュ。待っててほしいっチュ」
彼と同様に何者かの罵声を耳にした野次馬が、何事かと群がっていた。
人波を掻き分けて教会へ進むと、悲鳴にも似たどよめきは一層激しさを増す。
辿り着くと男が拳を握り締め、歯を噛み締めていた。
男の視線の先には頬をおさえたフラン。
口からは血を噴き出しており痛々しく、咄嗟に獣人は男に牙を剥く。
「……お前、何をしたっチュ! 答えろっチュ!」
「いつまでもいつまでも、俺の病気は治りやしねぇ。何が聖女だ、おだてられていい気になりやがって。お飾りの聖女だ、こんな女は!」
善意に甘えた思い上がりの一言に、ボーガードは大きく口を開き、獣の名残の威嚇をした。
憤怒を滾らせた双眸は、業火の如気激しい光を宿す。
獣人はフランの前に庇うように立ちはだかると、感情のまま吐き捨てる。
「ふざけるなっチュ! お前なんか元気にならなくていいっチュ。女子供を殴る奴は病弱でちょうどいいっチュ」
「なんだと、このクソネズミ!」
一触即発の雰囲気が流れ、周囲が沈黙を貫く中
「もうやめてください!」
澄み透った一喝が、二人の意識を逸らす。
声の主は暴力の被害を受けた、他ならぬフランチェスカであった。
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