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前世の記憶を有する私は悪女と共にやり直す  作者: 完菜


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033 夢に見た景色 sideララ

 王太子の婚約者となった子爵令嬢のララは、自分の為に用意されている王宮の部屋で、鏡に映る自分の姿にうっとりとしていた。悪女で有名だったカロリーナ・ヴィンチェスターから、王太子の婚約者の座を奪った時と同じくらいの興奮を覚えている。

 なぜなら今日は、王太子の婚約者として国民にお披露目をする機会が設けられているからだ。午前中は、王宮のバルコニーから市井の平民に向けて王太子と共に姿を見せる。それが終わった午後からは、貴族たちに向けて王宮の大広間でパーティーが催される。これらは、国を挙げての盛大なお祝いだった。


 準備が整い、後は王太子であるディルクが自分を迎えに来るだけだ。鏡に映るララは、最高級のドレスに身を包み全身を侍女たちによって磨き上げられ、いつもよりもより一層美しさが増している。

 可愛らしいピンクの髪が映えるように、白に銀の刺繍を入れたドレスを身に纏い髪には金色の髪飾りを三つ編みに混ぜて一つにまとめている。豪華で華やかな装いに、嬉しさがこみあげる。


「やっとここまで来たのね。近い将来、私がこの国の王妃になるんだわ」


 鏡に映る自分に向かって、ララは独り言を呟く。入口付近に控える侍女はいたけれど、そんなのは関係なかった。丁度一年前に、ディルクがカロリーナに婚約破棄を告げてララが婚約者になってから、自分が思っていたのとは違う状況に陥った。

 あの夜会でディルクの横に立てた時は、ずっと憎くて仕方が無かったカロリーナに勝ち幸せの絶頂を味わっていた。しかし、実際にその地位に立ってみると、周りからのとげとげしい視線が自分に向くようになり、思い描いていた輝かしい地位とはかけ離れたものだった。


 今まで奪ってきた男性とは違い、周りの誰も祝福してくれない。ララを、チヤホヤしていたはずの同年代の異性たちも蜘蛛の子を散らすように去って行った。ララに残ったのは、膨大な種類の王太子妃教育と王宮内で働く貴族たちからの冷めた視線だけ。

 味方になってくれるのは、婚約者であるディルクだけ。王太子妃教育が大変で毎日逃げ出したい衝動に駆られたけれど、歯を食いしばってなんとか耐え抜いた。


 中でも一番辛かったのは、教師たちにララとカロリーナを比べられいつも実力の差を非難されることだった。それでも耐えられたのは、ララの自己肯定感が誰よりも強かったから。教師が何て言ったって、身に付けさせられた知識や教養のできが悪かったとしても、きちんと授業を受け一通りの王太子妃教育を修了させてしまえばララの勝ちだと思った。


 その答えが今日なのだ。一年間の地獄のような日々は、今日で終わる。王太子の正式な婚約者として公にお披露目さえしてしまえば、誰が何と言おうとこの国の王太子妃は自分だ。そうなってしまえば、今日まで下に見ていた貴族たちよりも自分は上の存在になる。

 あのカロリーナから婚約者を奪おうと画策するララだけあって、可憐な外見とは違いかなりしたたかで我の強さを有していた。


 部屋の扉を叩く音がすると、ガチャリと戸が開いた。室内に入ってきたのは、ディルクだった。


「ララ、迎えに来たよ。準備は大丈夫?」


 ララとお揃いでしつらえたディルクの服装は、どんなディルクよりも輝いて見えた。


「もちろんよ。ディルク、ついにこの日が来たのね。私、この日のために本当に頑張ったのよ」


 ララは、目を潤ませてディルクを見つめる。それを見たディルクも感極まっていた。


「ああ。本当にララは僕のために頑張ってくれた。最初は嫌だって言っていたけれど、よく一年間頑張ってくれたね。愛しているよ。僕だけのララ」


 ディルクとララは見つめ合い、どちらかともなく抱き合う。ずっと室内に控えていた侍女は、冷めた目でこの光景を見ていた。これからお披露目をする二人は、自分たちの世界に酔っているが、実際はディルクたちを取り巻く全ての人々からしらけた目を向けられていた。当初の見立てよりも確かに努力は見せたララだったが、しょせんカロリーナに敵う令嬢ではない。王として資質の足りないディルクの伴侶には、相応しいとは到底思えない。


 そんな二人を諦めた王と高位貴族は、別の後継者を作る準備を始めた。しかし、新しい後継者が王の後を継げるまではまだまだ時間がかかる。その中継ぎ要員として、仕方なく王太子と王太子妃に二人を据えておくことになった。

 そんなことを知らない二人を見ていると、笑いを堪えるのを必死で我慢しなくてはならない。本当は、ララ付きの侍女なんてなりたくなかったが、その分賃金が良かったので仕方なく今の仕事をしている。侍女は、二人からは視線を外して全く関係のないことを考え始めた。


 準備を整えたディルクとララは、祝いごとがある時に使われるバルコニー前の入口にいた。入口の前にはカーテンがかかり外はまだ見えない。バルコニーの下は、とても大きな広場となっていて祝いごとがあると開放され、誰でも入れるようになっている。

 このような催しは平民たちにとっても貴重な機会で、商売をしている者などは街に屋台を出して王都中の街がお祭りムードとなる。


 カーテンの向こう側が、集まった人々でざわついている。ララは、ディルクの手をギュっと握った。


「緊張しているのかい? 大丈夫。きっとみな僕とララを祝福してくれるよ」


 ディルクがララを見てにっこりと微笑む。


「初めてのことだからどうしても緊張しちゃう。でも、ディルクがいるからきっと大丈夫よね!」


 ララは、気持ちの高まりを抑えるのに必死だった。本当だったら、嬉しくて嬉しくて大声で叫びたいくらい心の中では舞い上がっている。それに、この姿を誰よりもカロリーナに見せつけてやりたかった。そうできないのが本当に残念だ。


 二人が外に現れる時を告げるために、王宮お抱えの楽団による演奏が王宮前広場に鳴り響く。


「じゃあ、行こう」


 ディルクがカーテンを開けて、バルコニーに足を踏み出す。ララもそれに続いた。バルコニーに出たララは、広場に詰めかけた平民たちの数に圧倒された。きっと、自分たちを祝う言葉や花吹雪が舞い、生きて来た中で一番幸せな時間になる、そう思った。


 ――――しかし二人が夢見た舞台は、現実とかけ離れていた……。


 がやがやと賑やかな声で溢れていた広場が、楽団の演奏が止んだと同時にピタリと止まる。広場はシーンと静まり返る。本来ならこの日のために着飾った王太子とその婚約者が姿を現した瞬間、拍手喝采で出迎えるところなのだが……。

 市民たちは嫌悪の表情で、ディルクとララの姿を見つめている。ララからみたその光景は、異様な雰囲気を醸していた。


「ディルクおかしいわ……」


 ララは、場の雰囲気のおかしさに恐怖を覚えディルクの腕に縋りつく。平民の表情が誰一人、自分たちを祝う顔をしていない。


 静寂の中、ディルクが一歩前に踏み出し声を上げた。


「私が、この国の王太子ディルク・アレン・テッドベリーである。隣にいるのが、婚約者のララ・ヴォーカーだ。ゆくゆくは、この二人でこの国を担っていく。どうか皆にも祝って貰いたい!」


 怖がるララに寄り添い、ディルクは声高に言葉を発する。自分の言葉を聞きさえすれば、平民たちは祝ってくれるそう信じたのだ。


 しかし無情にも、それに対する衆人たちからの返答がない。相も変わらず、シーンと広場は静まりかえる。


「…………もう一人の王子を虐げているって本当か?」


 どこからともなく、声が上がった。その声を皮切りに、あちらこちらから非難の声が上がる。


「平民の母親だからって、王子に変わりはないはずだ!」

「自分よりもできるから、それが悔しかったのか!」

「そんな顔だけの女に、王妃が務まるのかよ!」

「しかもメイドを虐めて辞めさせるなんて、令嬢のすることか!」

「自分よりも可愛い子に嫉妬するなんて、どれだけ心が狭いの!」

「王太子には、弟であるアルベルト王子にするべきだ!」


 広場に詰めかけた人々から、抗議の声が止まることがない。それどころかどんどんエスカレートしていっている。ディルクは、衆人たちの抗議の声に頭に血が上る。横に立つララは、何が起こっているのか理解ができず血の気が引き今にも倒れそうだった。


「黙れ! 王族にそんな態度で許されると思うな!」


 ディルクが、平民たちに向かって叫び踵を返してカーテンの中に戻って行く。もちろん隣にいたララも、震えながらディルクの後を追った。


 そんな二人を、目の当たりにした衆人たちの怒りは加速する。


「ふざけるなー!」「出てこい!」「ちゃんと説明して納得させろ!」「逃げるんじゃねー!」


 平民たちから罵声が止まらずに、王宮お抱えの騎士達が広場に出動してその場を収めることとなる。王宮内に戻ったディルクとララは、言葉を発することができずに絶句しただその場に立ち尽くしていた。


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「優等生だった子爵令嬢は、恋を知りたい」二巻


発売日 5月10日(金) 

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― 新着の感想 ―
[一言] 良い意味で夢に見た景色ではなく悪夢として夢に見る景色になりそうですね。 そろそろキャロルが返り咲くターンでしょうか? 楽しみにしています。
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