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前世の記憶を有する私は悪女と共にやり直す  作者: 完菜


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016 ヒューとの関係

 店に戻ったキャロルは、帰りが遅かったので女将さんに心配される。


「良かった。遅いから心配していたよ。服は買えたのかい?」


 女将さんが、作業の手を止めて訊ねる。


「はい。実は、道に迷っていたらヒューさんとビルさんが助けてくれて……」


 キャロルは、ちょっと気まずそうに答えた。今日の昼に会って、さっそくお世話になってしまうなんてちょっと恥ずかしい。


「あら、さっそくお世話になったのかい。なら良かったよ」


 女将さんは、安心したようで手を動かし始める。ホールのテーブルを拭いていた。


「私もすぐに仕事に入ります。荷物置いてきます」


 キャロルは、服の入った紙袋を持って階段を上がって行く。この数時間で色々なことを知ったのでちょっと興奮していた。ヒューやビルが良い人だってこと。二人は、街の人気者らしいということ。三人組の女の子たちに絡まれた時は、何だか社交界にいた頃を思い出した。ああいったマウント合戦は日常茶飯事だっし、その頂点に君臨していたのが自分だった……。

 だから懐かしくて、ちょっと少女を揶揄ってしまったのだが……。でも、もうしないと心に誓う。


 あの頃が懐かしく思う反面、あの生活の方が夢だったのではないかと思う時もある。だけどキャロルの目標は、あの場所に返り咲くことだ。

 ここで力を蓄えて絶対に希望を叶える。そのためには、目の前の仕事を頑張るのみ!キャロルは、自分の部屋に荷物を置くと昨日貸してもらったエプロンと三角巾を手早く身に着けすぐに店に戻った。


 その後も、キャロルは特にミスをすることなく仕事に没頭する。段々と、洗い物をしながらホールを見る癖がついて、空いたお皿は自分の判断で下げに行けるようになった。

 たまに、男性客に声をかけられることもあったが、すぐに女将さんが仲裁に入ってくれるので助かる。

 本当なら自分で対処できるのだが、昼間のヒューに言い返したみたいに強く言っていいのか匙加減がわからずに女将さんに頼っていた。


 そんな迷いのあるキャロルの態度に困っているように見えたのか、仕事が終わって三人で夕食を食べている時に女将さんが言ってくれた。


「キャロル、男性客に声をかけられても丁寧に対応する必要はないからね。あいつらはすぐに調子に乗ってくるんだから。あんたは美人だから、外でも気をつけるんだよ」


 キャロルは、夕食を食べていた手を止めて返事をする。


「はい。わかりました。明日からは、気を付けます」


 女将さんも旦那さんも、その返事を聞いて頷いている。その日の夕食もとても美味しくてキャロルは、幸せな気持ちだった。


******


 食堂サティオにやってきて、早いもので三ヵ月が経った。今日は仕事はお休みなので、屋根裏部屋にある机に座って考えごとをしていた。仕事をしていると毎日が忙しくあっという間に過ぎていく。

 キャロルは、ランベスという地区に馴染み食堂サティオの看板娘になった。女将さんにも、「キャロル目当てのお客さんが増えたから、売り上げが伸びて嬉しい」と言われる。


 そんな風に言われた経験が、前世ではなかったのでとても新鮮だった。嬉しいような恥ずかしいような……。きっと、カロリーナだったら「こんなに美しい私が給仕しているのだから当たり前よ」と言い切っていただろう。

 そんな気の強い一面に今までは戸惑いがあったけれど、だいぶ違和感がなくなってきている。前世を思い出した当初は、押さえつけるのに必死だったけれど最近では強い言葉や態度も普通になってきている。

 もちろんカロリーナのように誰に対してもという訳ではなく、言う相手は見極めているのだが……。たまにやり過ぎてしまうことがあり反省することがある。


 この前も、街で男性に絡まれていた時にやってしまった。


「なあキャロル、今度一緒にどこか行こうぜ」


 いつも店に来る、キャロル目当ての客に街で偶然会ってしまったのだ。


「申し訳ないけれど、お断りします」


 キャロルは、わざと冷たい態度を取った。少しでも押しに弱い所を見せると、ろくなことにならないと学んだからだ。


「おい。ちょっと綺麗だからって調子に乗りやがって。傷もんの女なんて、遊びでしか相手にしてもらえない癖に」


 男は、キャロルの態度が気に障ったのか突然言葉が暴力的になる。店では他の人の目があるからか、こんな暴力的なことを言う人ではなかったのに。ついついキャロルも、イラっとしてしまい睨みつけてしまった。


「おい、その目つきはなんだよ」


 男が、キャロルに手を挙げようとした。殴られると思い、目をギュッとつぶった時だった。――――そこに助けが入る。


「いい加減にしろ。街の往来で何やってんだ」


 聞いたことのある声だと思って目を開けたら、ヒューが男の腕を掴んで睨みつけていた。腕を取られた男は、自警団に目を付けられたことに怯む。


「俺は別に何も……」


 さっきの威勢はどこへやら、男がヒューから腕を振り払って目を逸らしている。


「だったら、もういいだろ。とっとといけ」


 ヒューは、首を振ってあっちに行けと言わんばかり。男は、ヒューの威圧感に恐れをなしたのか素直にその場を立ち去った。


「おい、お前はもっとお淑やかにできないのか? 睨みつけてどうするんだよ」


 ヒューが、キャロルに対して呆れている。こんな失礼な物言いも、いつものことなので慣れてしまった。ヒューには、道を教えてもらってから何かとお世話になっている。

 その度に、呆れられて溜息をつかれる。慣れてしまったが、頭にはくる。


「悪かったわね。あの男がしつこいのがいけないのよ」


 キャロルは、腕を組んで顔をヒューから逸らす。ヒューの態度が悪いように、素直にお礼が言えない自分も大概なのだが……。いつも溜息ばかり吐くヒューが悪いと自分では思っている。


「本当にお前は、可愛げがないな」


 ヒューが、ぶっきらぼうに言う。そんなヒューをキッと睨みつける。本当は、キャロルだってこんな態度はまずいと自分でわかっている。だけど、カロリーナの天邪鬼な性格が強くて抗えないのだ。

 それになぜだか、ヒューの前だとその傾向が強い。助けてもらったのだからお礼は言わなければと、言いたくない気持ちを押し殺してやっと言葉にする。


「……助けてくれてありがとう」


 小さな声になってしまったが、やっとのことで言えた。


「店に戻るのか?」


 ヒューが、キャロルを心配してなのか聞いてくる。キャロルは、口を開くと余計なことを言いそうだったからコクンと頷くだけにする。


「気を付けて帰れよ」


 ヒューは、右手を腰に当ててお店の方向を見る。会って話をすると、いつも喧嘩腰になってしまうのだがヒューの態度は出会った当初よりは柔らかくなっている。それにキャロルの物言いが強くても、態度が悪くてもいつも助けてくれる。

 そのことに、ほんの少しだけ喜びを感じている自分がいるのだけれどあえて深くは追及しない。キャロルは、お辞儀だけしてその場を去った。


 ランベスで生活するようになってから、ヒューに助けてもらうのは日常になっている。この容姿が目立つのか、街を歩いていると男性に絡まれることがよくある。大抵は、断るとすぐに諦めてくれるのだが偶に質の悪いやつがいるのだ。そんな時は、なぜだかいつもヒューに出くわす。

 会った時の態度は素っ気ない癖に、必ず助けてくれるから彼に悪い印象はもうない。むしろ流石にそろそろ、何かお礼とかした方がいいのか悩んでいるくらい。

 前世の記憶を持つ自分は、何かしてもらったらお礼をするのが当たり前だった。これだけ助けてもらっているのに何もしないのはキャロルの良心が疼く。言い考えが浮かばずに、机に突っ伏す。


 「どうしたらいいのだろう……」


 空しい独り言が、屋根裏部屋に小さく響いた。


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「優等生だった子爵令嬢は、恋を知りたい」二巻


発売日 5月10日(金) 

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