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カワノナリタチ  作者: LLX
8/23

8、ミズ (イ)

今日は風の音が怖い。

板の隙間から甲高い音を立てて、ぴいぴいと吹き込んでくる。

耳を塞ぎたくても、僕はその頃身体の形が決まっていなかった。

誰にも会う事はないし、ずっと1人だ。

もう言葉も忘れそうになる。


僕はまだ、カミなんだろうか?


僕は、いつになったら消えるんだろう。


早く、早く、消えてしまいたい……


消えて……



「 あれ?あれ?おーい、おーい 」



声?声がする。でも、誰を呼んでいるのかわからない。


「おーい!ねえねえ、もういないの?どっか行っちゃった?

どこ行ったのかなあ、ハレニギノのカミたち。

誰かー、知りませんかー!」


僕は、久しぶりに聞くその名前に、形の無いはずの顔の目を開いた。


「この辺、カミがいっぱいいて楽しかったのに、だあれもいなくなってる。

しばらく来なかったら置いてきぼりだあ。」


「 う、う、お、お、 」


「あれ?!誰かいるんだ!良かった!覚えてるかな、僕はユラギカゼだよ!」


「 ま、ま、て、 」


「うん、待ってる。」


声を出すと、口が出来た。

顔を押さえたい気持ちが、手を作る。

顔という概念が、顔を作った。

両手を水面に向けて大きく掲げる。

僕はその日、彼の声でようやく形を取り戻した。


ユラギカゼは、板の隙間から中に入り込むと、水面まで降りてきてくれた。

彼の風が心地良く波紋を作り、僕はようやく彼の前に顔を出した。

ユラギカゼは薄暗闇の中でもわかるほど、ハジマリノキミが可愛いと言っていた姿で、僕にニッコリと笑いかけた。


「や、あ、ひ、さし、ぶり、だ、ね。」


「ずいぶん変わっちゃったね。

ハジマリノキミの川は何か無くなっちゃってるよ?ここにいるの?」


「……い、ない、んだ。どこ、か、に、げて、いる、と、いい、けど。」


ユラギカゼは、子供らしく明るく話しかけてくる。

温かな感情が、僕の胸によみがえってくる。

なぜか僕は、それでもその明るさで、まぶしいほどに救われていた。


「移動しないの?こんな暗いとこにいたら、消えちゃわないの?」


「そうだ、ね。ここ、に、は、大事な、物が、あるんだ、よ。」


「ふうん……ねえ、僕には何にも出来ないけど、何か出来ることはあるかい?」


僕は、彼に出来る何かを探して、しばらく彼を見つめた。

ユラギカゼはフワフワ舞って、優しい顔で僕に首を傾げる。


僕は水に少し沈んで、ハジマリノキミが眠るイシを見つめる。


ああ、ハジマリノキミ、

ねえ、ハジマリノキミ、


僕は、何をお願いすればいいと思う?


“ そうだな、僕は喋れないから、僕の代わりをお願いしようよ。

ね?また来て貰えばいいと思うよ? ”


僕はゆっくりと石に手を当て、ぎこちなく微笑んで、そうだね、と返した。


「ユラギ、カゼ、僕の、お願いを、聞いて、くれる、かい?」


「いいよ!僕に出来ることならなんでも!」


「どうか、また、来て、話しを、して、くれる、かい?」


ユラギカゼは、キョトンとして、ニッコリ微笑む。


「 僕で良ければ喜んで! 」


なんてきれいで、暖かな風だろう。

ああ、僕は、ようやく一つ、自分のかたちを取り戻せそうな、そんな気がした。

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