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カワノナリタチ  作者: LLX
7/23

7、ミズ (ア)

僕は、何も出来なかった。


生まれたときから側にいたハジマリノキミが、死んでしまった。

僕は、何も出来なかった。


人間は友達の死骸を踏みつけ、僕の形を変えて行く。

掘り起こされ、水路が広げられ、そして僕の命がそれに奪われる。


森は、悲鳴と共に、どんどん死んで行く。

僕の命は人だけが利用し、どこに行くのかわからない。

僕や水路にはフタがされて、ケモノが飲むこともできず嘆いて去って行く。

真っ暗な泉の中で、僕はハジマリノキミを残して動くことが出来なくなり、ヌシは僕の中に入ったまま眠りについた。

僕は時々フタに置かれた板の隙間から空だけを見つめていた。


時々、イタミビトたちの楽しそうな笑い声が聞こえた。

イタミビトが僕の上に座り、イタミビトの子供が僕を踏みつけ、僕の上で跳びはねて、その音が泉を反響して気が狂いそうになった。

気が狂いそうになると、僕はハジマリノキミが眠るイシに寄り添うことで、ようやく落ち着きを取り戻す。


全ての命を育んでいた僕は、ハジマリノキミを奪われて、光を奪われて、友達を奪われて、たった1人、何も出来ない、ただの水になった。



僕は、僕は、


耐えられなかった。


僕は、僕は、


自分がワケのわからない、ただの水という物質に変貌し、命をイタミビトに利用されるだけの物になって、存在がだんだんあやふやになっていった。

ハジマリノキミの記憶だけが、僕をカミにつなぎ止めていた。



雨が、降り始めた。


ザアザアと、バタバタと、板が激しく鳴り響く。

キミと聞く雨音はあれほど心地よかったのに、今は頭の上の板に打ち付ける音は全てが騒音で、頭を滅茶苦茶に叩かれているようで、僕の頭は水に溶けて無くなった。


 “ 水が増えるぞ ”


 “ 大変だ ”


友達が慌てて水草に捕まり、流されそうになる子供たちをキミがすくって泉に避難させる。

僕はキミを壊さないように、我慢して水の量を調整していた。


“ がんばれ、がんばれ、カミ、がんばれ ”


我慢する僕を、キミが真剣な顔で応援する。

笑わせないでよ、噴き出して鉄砲水になっちゃうよ。


“ たいへん、水草に捕まってるみんなを避難させなきゃ ”


そうしてくれるかい?僕も手伝うよ。


そうして、友達がたいへんたいへんと避難してくる。

ハジマリノキミを手伝って、笑って曇り空をあおぎ手を繋いだ。


 “ もうすぐ止むかな? ”


 “ そうだね ”


キミの美しい横顔を見る。

美しい星空のようにキラキラ輝くその顔を見つめていると、キミが気がついて明るく笑った。


 “ うふふ、なあに? ”


「 大好きだよ 」


返事を思わず声に出して、ふと我に返った。

ああ、夢と現実が混乱している。心地よく混乱して、僕を癒やしてくれる。

でも、もうみんな死んでしまった。


みんな、 みんな、 死んでしまった。


僕の大切なハジマリノキミは死んでしまった。

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