読み切り小説 「きみは優しい人」
読み切り小説 「きみは優しい人」
――始めの出会いは、ぼくが小さい時
白い地面を踏んで。
手足に冷たい感覚を感じながら、
目の前を見ていた。
こちらに走ってくる巨影は。
幼いながら、強く印象に残っている。
次に出会ったのは割とすぐで。
白い空が青くなっていた時だった。
笑顔で笑いながらぼくと走る巨影は、ぼくと同じ孤独だった。
時々止まったりしながら。草原を元気いっぱいに走った。
次にあったのはある雨の日。
寒い寒いと叫んだけど。
ぼくの言葉は人間にはわからない。
だけど不思議とその子だけ、ぼくにタオルを被せてくれた。
次に会えたのは公園。
怖かったけどブランコと言う乗り物に乗って。
一緒に笑いあった。
その子の楽しそうな笑顔が大好きで、僕は君を大事に感じていた。
いつの間にか、僕のほうが君より大きくなっていた。
僕がどんどん大きくなっていくので、君も大きくなっているのかな?
と公園に走り出してみたけど。君はいつもの公園にいなかった。
久しぶりに君の家に車が帰ってきた。
当然僕は走って出迎えた。
だけど出てきたのは怖い顔をした巨像達で、結局君に会えなかった。
僕はその人間に抱きかかえられた。
勿論抵抗はしたけど、すぐに辞めた。
何故なら、その人達から君の匂いがしたんだ。
そのまま僕は車に乗せられた。
白い壁と白い床は。
君との出会いを思い出すね。
だけどあの時より寒くなくって、それに君の笑顔が無かった。
どこまでも続く白い道を進むと。
そこから君の匂いがした。
だけどそこにあるのは壁で、その奥に進むには僕では力不足だった。
大人達がその壁をスライドさせると。
君の匂いが濃くなった。
だから無我夢中で走って、「一緒に走ろう!」と驚かせに行ったけど。
君は寝ていた。
君はなかなか反応してくれなくって。
どうすれば良いのかなって考えたけど、わかんなかった。
睨んだり叫んだり噛んだりしてみたけどダメで。
君はずっと起きてくれなかった。
久しぶりに聞いた君の声。
思わず叫んだけど。君はすぐに寝ちゃった。
僕が居ても嬉しくないのかな?って思っちゃうけど。
僕は君を信じた。
僕の名前が呼ばれた気がした。
ふと頭を上げるとそこには君が居て。頭を撫でてくれた。
「一緒に走ろう!」と叫んでみたけど。何か呟いてからまた眠っちゃった。
何だろう?
何を言ってるんだろう?
僕を抱きしめながら、何かを叫んでる。
どうしたのかな?
どことなく悲しんでいる気がする。
だから僕は、「大丈夫だよ」って叫んであげたけど。
抱きしめられる力が強くなるだけだった。
今日はいつもと違って君は起きていた。
だけど元気はない。
走ろうよなんてとても言えなくって。ただ一緒のベッドにいるだけだった。
僕はしびれを切らした。
だから叫んでみたんだ。「どうしたの?」って。
だけど君は布団にくるまっちゃって、何となくだけど。
一生走れないのかなって思った。
君はもう起きなくなったね。
段々君に繋がれてる箱が増えてきて。
僕はその箱の線を切らないために、君のベットに上がることを禁止されちゃった。
悲しいけど。大丈夫なところから君を待ってるよ。
段々、僕の体が大きくなってきました。
君の全体は布で見えないけど。
はみ出てきた腕の細さは忘れません。
君を待ち続けてどのくらい経ったんだろう?
人間じゃない僕にはわかりません。
だけど大丈夫だよ。
僕は君と走れる日をずっと待ってる。
目覚めたら、君の周りに大人たちが立ってて。
凄く悲しい声で叫んでました。
君の細い腕を大人が握っていて。
その時何だな、と。
もう、君の温かみを感じれなくなってます。
どうにかしてあげたいけど。僕じゃ何もできません。
僕は人間じゃない。人間の様に器用じゃないし。
君の様に優しくない。
ただ、大きくなった僕にできることは。
君の腕の中で、一緒に寝てあげることでした。
君の腕に頭を乗せて。君の胸に収まるように。
――小さな犬が、草原の夢を見た。
読み切り小説 「きみは優しい人」