金鷲
宴の二日後に俺とアルルはウェラの大森林を旅立つことにした。
森の境には多くの人が見送りに来てくれた。
ロシオの背中に荷物を積んで、いよいよ別れだとなった時に俺は思い出した。
「忘れるところだった。これを渡しておくよ」
そう言って俺は三本の剣をサッと魔法で作ると、エルフ、獣人、小人の長の三人に剣を一振ずつ渡した。
エルフには緑の剣、獣人には青の剣、小人には黄色の剣だ。
エルフの長が尋ねる。
「これは?」
「それはあなたたちの身を守るための剣です。それぞれ風、氷、雷を操れる剣です。危機が迫った時に毎回聖樹に生贄を差し出すのは悲しいことですから、代わりにそれで仲間を守ってください」
「よろしいのですか!?」
「ええ、試しに人のいない方へ振るってみてください」
促すと獣人の長が軽く剣を振るった。
すると剣から冷気が迸って、十メートルほどに渡って氷の壁を作った。
「これがあれば仲間を守れるでしょう?」
「もちろんでごさいます! ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
人々は口々に感謝の言葉を述べた。
「旅の安全を祈っております!」
「いつでもここに遊びに来てください!」
「何か力になれることがあれば何なりと頼ってください!」
人々は口々に別れの言葉を述べた。
こうして名残惜しさを感じながらも、俺とアルルはまだ見ぬ土地を目指して、ウェラの大森林を旅立ったのだった。
◇◇◇◇
ウェラの大森林を旅立った俺とアルルと驢馬のロシオは北へ北へと進んでいた。
ちなみに北へ行く理由は特にない。なんとなくだ。
そうして意気揚々と歩いていると、道の先に全身を鎧に包んだ赤髪の女騎士がいた。
ウェラの大森林を旅立って七時間経った頃のことである。
「お前が奴隷を解放してまわっている首謀者か」
女騎士はそう聞いてきた。
どこかで聞いたことのある台詞だ。
「そうだが?」
俺は前の時と同じように返した。
「私はクインタ王国の王女にして七獣騎士が一人、金鷲のイスガン・アリアネイルだ」
「レウドースから聞かなかったか? 俺たちに二度と手を出してくるなと忠告したはずだが?」
「レウドースは貴様が殺したのでは?」
「は?」
「レウドースはお前を倒しに行ってから戻って来ていない。お前が殺したんじゃないのか?」
衝撃の事実だ。俺はレウドースを殺したらしい。
いや、そんなことはないが。
「俺は殺していない。コテンパンにはしたが、ちゃんと五体満足で生かして帰したぞ」
「そうか、嘘は言っていなさそうだな。まあ生きてようが死んでようがどちらでもいいが」
「仲間じゃないのか」
「彼を仲間だと思ったことは一度もない」
イスガンはそう言った。
ひどいことを言う奴だ。
レウドースは糞みたいな奴だが、一応仲間だろうに。
それにしてもレウドースはどこに行ったのだろうか。
忠告が伝わっていないなら、生かして帰した意味がないじゃないか。
脅しすぎたからか?
まあ、いいや。過ぎたことだ。
目の前の女にもう一度忠告したらいいだろう。
「で、お前はどうするんだ? どうせ俺を倒しに来たんだろう?」
「いや、倒しにきたわけじゃない。ただ、試しに来ただけだ。お前の実力を」
「同じことだろ。さっさとかかってこい。俺の強さを教えてやるよ。あ、アルルは下がっててね。危ないから」
「はい、下がって応援してます」
こうして俺と女騎士の戦いが始まった。
といっても、すぐに決着は着いた。
イスガンのそばまで瞬時に行くと、レウドースにしたみたいに腹に鉄拳をくらわせて、雲の上までぶっ飛ばした。
そしてイスガンを追って、自分も瞬時に上空に行く。
上空に行ってみるとイスガンは血を吐いていたが意識はあり、レウドースよりは元気そうだった。
「レウドースよりはやるようだな。まあ大して変わらないけど」
そう言うと俺はすぐに次の魔法を唱える。
「出でよ! 雷光と雷鳴従えて 大地を燃やし海沸かす 雷の王 紫龍よ!」
唱えると頭上に瞬く間に黒雲が広がって紫電が迸る。
その雷雲から紫電でできた大きな大きな龍の頭が現れる。全長10kmはあろう巨大な龍だ。
イスガンは開いた口が塞がらない様子だ。
「さあ、くらえイスガン。全てを飲み込んで進め! 紫龍よ!」
「いやいやいや、待て待て待て。降参だ、降参だ! 降参するから許してくれ!」
俺が攻撃しようとするとイスガンが平謝りしだした。
「俺の実力を知りたいんじゃなかったのか?」
「いや、もう十分に知ったから! もういい!」
「今さら遠慮しなくていいさ、教えてあげるよ俺の実力を」
俺は構わずに紫龍をイスガンに向けて放った。
「うわ! わあああああ!! くっ!! 瞬間移動!!」
紫龍に飲み込まれる直前でイスガンは瞬間移動魔法で逃げた。
そういえば瞬間移動魔法はこの国の王族が使える魔法だとアルルたちが言っていたな。
仕留め損なったけど、まあいいか。
実力は分かったからもう手を出してこないだろう。
俺たちは旅を再開した。