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大森林

 一週間後の夕方、俺たちはウェラの大森林に着いた。

 小高い丘の上から見ると、地平線の先まで森が続いていて、中央に行くほど木が高く聳えている。

 セレンの話では中央に最も近い木々になると100mになるそうだ。

 そして、その中心には高さ1kmに達する巨大な木が生えているらしい。

 その木の上にエルフの信仰する神を祀った神殿が建てられているそうだ。


「よくぞ我が同胞を助けてくれました」


 森の境に出迎えてくれていた獣人やエルフが感謝を述べた。

 事前に奴隷から解放した亜人たちを連れていくと、セレンに伝えてもらっていたからだ。

 突然100名を越える人が来ると受け入れる方も大変だろうから。


 ちなみに人間は皆道中で別れ、ドワーフの女はウェラの大森林沿いに進めば、ドワーフの国に着くからということで、先刻別れたばかりだ。


 奴隷から解放された人たちは、それぞれの知り合いと涙を流して抱き合っている。


「宴の用意はできております。我らの恩人よ、ささ、こちらへ」


 そう言われて、俺やアルルはエルフに導かれて、木でできた籠に乗った。


「よろしく」


 エルフが木に語りかけると、枝がにゅっと伸びて籠を掴んで持ち上げた。

 そしてバケツリレーの要領で次から次へと隣の木に渡していった。

 まるで生きているかのような動きで、どんどん運んでいき、あっという間に森の中心に着いた。


 そこは美しい場所だった。

 100mまで伸びている木々の幹は艶やかな銀色で、頭上に大きく広がる葉は金色だった。

 そんな木の幹や枝を利用したエルフの住居が、根から10mあたりの所に多数あった。

 その住居も多彩な色の絹織物で飾られて美しい。

 そして前方には森の中心に聳える、エルフが信仰する聖樹がある。

 直径100mはあろう幹に、雲に隠れた頂上。

 見るもの全てを圧倒する雄大な大樹だ。

 幹にはしめ縄が巻かれて、その前には数多の宝石で飾られた祭壇があり、供物がたくさん供えられていた。


 ファンタジー小説に出てくるような風景だ。

 素晴らしい!!

 俺は絶頂した。


 祭壇の前の開けた場所には宴の準備がされている。

 美しい敷物が敷かれ、その上に鹿肉、猪肉、豚肉、牛肉、鴨肉、その他森で取れるあらゆる肉の料理が並べられ、肉だけでなく、魚に果物、野菜も森で取れる全てが並べられていた。

 その周りにエルフや獣人たちが集まって、今か今かと俺の到着を待ちわびていた。


「ゴーリキマル・キンタロー様がいらっしゃったぞ!!」


 案内してくれたエルフが言った。


「おお! ありがとうございます。キンタロー様」


「我が同胞をよくぞ!」


「ようこそお越しくださいました!」


 人々は口々に歓迎の言葉を述べた。

 そして俺とアルルが人々の輪に加わり、宴が始まった。


 多種多様な料理に舌鼓をうち、ここの黄金の木から取れる黄金の果実で作られた黄金の果物酒で喉を潤した。

 思い思いに騒いで、宴は大変賑やかだった。


 宴が始まってしばらくした頃、エルフたちが立ち上がった。

 そして周りのかがり火を消した。

 辺りが暗闇に包まれる。

 その中でエルフたちは輪になって踊り、歌い始めた。

 すると、辺りの木々がほのかに光だし、やがては幹は銀色に葉は金色に輝き始めた。

 美しかった。

 あまりの美しさに俺は涙を流した。


「気に入ってもらえましたか?」


 エルフがそう言いながら俺の手を取った。


「さあ、キンタロー様も一緒に踊りましょう」


 エルフに手を引かれて、俺やアルルや獣人たちもエルフの輪に加わる。

 そして、また踊りが始まった。

 先ほどの踊りと歌が厳かな物だったのに対して、今度は陽気で軽やかな踊りと歌だった。

 木々も枝葉をワシャワシャ揺らして楽しそうだった。


 そして一通り踊り終えると、また食事に戻った。

 エルフ、獣人、小人たちが交代で次々と余興を出し、楽しく宴会は進んだ。


 そうして時間を忘れるほど宴を楽しんでいた時、大きな地鳴りがした。

 次いで獣の唸り声のような、峡谷を抜ける風の音のような轟きがした。

 何だ!? と人々は辺りを見回す。

 するとエルフの長老が勢いよく立ち上がった。


「しまったあああ!! 忘れておったああ!!」


 長老は叫んだ。

 何を? と聞く前に長老がまた叫ぶ。


「皆!! 逃げるんじゃあああ!!」


 長老がそう言うのと同時に、人々は素早く逃げ出した。

 俺とアルルも何が起こったのか分からないが、とりあえず続く。


「何があったんですか!?」


 長老に聞く。


「忘れておったんじゃあ!」


「だから何を!?」


「アーベルスを忘れておった!!」


「誰!?」


「わ、わしたちは人間に我らの同胞が拐われ、奴隷として虐げられていることに、ついに我慢できなくなったんじゃ。それで聖樹の大精霊様にアーベルスを生贄として差し出して、この世に顕現してもらい、人間どもから我らの同胞を助けてもらおうと決めたんじゃ。今の地鳴りと唸り声は聖樹の大精霊様が顕現したからじゃ。こうなっては、もう誰にも止められん」


「何でそんな大事なことを忘れるんですか!?」


「友が帰ってきて嬉しくて浮かれておったんじゃああ!!!」


 おいおいと長老は涙を流し始めてしまった。

 そんな長老を地面から盛り上がった巨大な木の根が吹き飛ばした。

 長老は受け身を取って着地した。

 しかし安心はできない。

 いたる所から根が盛り上がって人々を吹き飛ばしていた。


 逃がさなければと思った俺は魔法を唱える。


「包め!運べ!雷龍!」


 唱えると人々を雷が包んだ。そして、まさしく雷のように激しく速く木々の間を抜けていった。

 一瞬で大森林が終わる森の端まで人々を連れていった。

 ここは!? と人々は一瞬で場所が変わったことに驚いている。


 そして俺は聖樹の方を見て驚愕した。

 高さ1kmはある聖樹が動いていた。

 枝を腕に、根を足にして歩いていた。

 辺りの木々をなぎ倒しながら、こちらに向かって進行している。


「あれは倒してしまってもいいんですか?」


 長老に聞く。


「まさか、あれを倒せるんですか」


 驚く長老。


「倒すだけならね」


「真でございますか! ぜひお願いします! あ! しかし、もし可能ならば聖樹もアーベルスも無事に生かしてくださるとありがたいのですが。我らウェラの大森林に住まう者は聖樹と共に生きているのですから」


「倒さずに済む方法を知っていますか?」


「生贄であるアーベルスを聖樹から引き離せれば、聖樹も止まるはずです」


「それなら簡単だ。多少の傷なら問題ないよね」


「お心遣い感謝します! ありがとうございます!」


「じゃあ、やるか! 全て凍れ! 大氷界!」


 気合いを入れた俺は魔法で聖樹を足元から半分ほどまでを凍りづけにした。

 聖樹は呻きながら必死に凍りを壊そうとするも中々壊れない。

 その間に探知魔法で聖樹に捕らわれているアーベルスを探す。


「見つけた!」


 俺は高速でアーベルスのいる場所まで飛んでいく。

 聖樹が巨大な枝葉の腕を振るってくるが、全て弾く。

 そして聖樹に着いた俺は、聖樹の幹に手を差し込んで無理矢理こじ開けていく。

 ミシミシと鳴って開いた先には、淡く緑に光る空間があった。

 その奥に木に絡め取られたアーベルスらしきエルフがいた。

 アーベルスを引き剥がす。

 生贄を取られまいと周囲の壁から無数の木の槍が飛んでくる。

 だが、もう遅い。

 アーベルスを取り返した俺は瞬時に瞬間移動でエルフたちのいる場所に飛んだ。


「おお! アーベルスは無事ですか!?」


「ああ、無事だよ」


「ありがとうございます! よくぞアーベルスを助けてくださりました!」


 長老が感謝を述べた。

 それから俺たちは聖樹の方を見た。

 聖樹は動きが止まっているようだった。

 そして、しばらくすると元の場所に戻っていった。

 ホッとした。


「おお! 戻るぞ!」


「よかった! 無事だわ!」


「ありがとうございます! キンタロー様!」


 人々は歓喜して、俺に感謝した。

 それから俺たちも元の場所に戻った。


 宴の会場は酷い有り様だった。

 あちこち地面がめくれて、大岩が転がっていた。

 けれど皆が力を合わせて、すぐに岩などが取り除かれて、地面が平らにされて、宴の席が整えられた。


 そうして、よし宴が始められるぞとなったところで亜人たちは皆聖樹を取り囲んで、幹に手を触れた。


「我らをお守りくださる聖樹の大精霊様、この度は我らのために顕現してくださったにも関わらず、我らは自らの愚かさゆえに御身に多大なご迷惑をお掛けしました。せめてもの償いとして我らの力をお捧げしたく存じます。どうか、これからも我らをお守りください」


 そうエルフの長老が言うと、皆の体が光りだして、その光りが聖樹へと伝わっていく。

 魔力を聖樹へと流しているのだった。

 魔力はどんどん聖樹へと満ちていき、やがては幹は銀色に葉は金色に輝きだした。

 皆は魔力をごっそりと持っていかれ、疲れきった様子だった。


 聖樹が枝葉をワシャワシャ揺らした。


「おお! 大精霊様がご機嫌を治されたぞ!!」


 人々は喜んだ。

 そして、これで宴ができるぞと言って、盛大に宴が始まったのだった。

 人々は魔力が枯渇して疲れきっているにも関わらず、食べて飲んで笑って遊んで、宴をこれでもかと楽しみ、仲間が帰ってきて聖樹も無事だった喜びを噛み締めて、七日七晩、宴を楽しんだのだった。


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