冒険者成敗! 母親救命!
「炎柱連火!」
俺が魔法を唱えると、地面からいくつも火の柱が立ち上がり兵士たちを包んで丸焦げにした。
俺がこの世界に来て一週間ほどが経っている。
その間に俺は三つの街で奴隷商館に押し入り、奴隷を解放していた。
そのおかげでウェラの大森林へと向かう旅の一行は五十七人にまでなっていた。
そして、これを見過ごせない国や街の兵士が五回俺を捕まえに来て、全て返り討ちにしていた。
今回の兵士で六回目だからもう慣れたものだ。
俺たちは何事もなかったように旅を再開した。
しばらく行くと新しい街が見えてきた。
「じゃ、待ってて」
そう言って俺はアルルと他の馬丁役の人五人と驢馬八頭を連れて、慣れた様子で瞬間移動を発動して街の人気のない路地に飛ぶ。
旅に必要な物資を調達するためだ。
訪れたことのない街の路地に瞬間移動できるのは探知魔法であらかじめ地形などを把握したからだ。
ちなみにロシオを除いた驢馬七頭は旅の仲間が増えたので三日ほど前に買った。この分ではすぐにまた買わないといけないだろう。
路地に飛んだ俺たちは外套を被ると、すぐに大通りに出て、パン屋やら肉屋やらで食料を調達する。それから破れた服や夜営テント用の布など必要な物を仕入れて行く。
俺たちはお尋ね者になっているので街の中に入ることができない。だから、こうして潜入して必要物資を調達しているのだ。
いつものように物資を仕入れ終えて帰ろうとした時、ふと気になる声が聞こえてきた。
「お願いです! お母さんを助けてください」
「あ? 助けてほしけりゃ依頼しろよ。そしたら助けてやるよ」
「そうだぜ坊主。冒険者がタダでやるわきゃねえだろ。最低でも五万持ってこい」
「アハハ、酷いねえ。この坊主がはらえるわけないじゃないか」
ある建物の前で七歳くらいの男の子が剣や槍を持った男女三人に頼みごとをしていた。
「あ、あのお金ならあります」
そう言って少年は握りこぶしを上に開いて差し出した。片手を下に添えて。
中にはお金が560ナルあった。
「なんだこりゃ」
三人の内の一人が呟く。
「依頼のお金です。た、足りないですか?」
「足りるわきゃねぇだろ! だれが五百っつった! 五万だ五万。五万ナルだ」
「俺たちゃ忙しいんだ。おままごとに付き合ってる暇はねえんだよ」
そう言うと男が少年を突き飛ばし、三人は歩きだした。
これを見ていた俺とアルルはすかさず少年の元に駆け寄る。
「大丈夫?」
アルルが少年に声を掛ける。
「ちょっとやりすぎなんじゃないの?」
俺は歩きだした三人に投げかける。
「あ?」
三人が振り向く。
「この子に謝りなよ。突き飛ばしたこと」
「はっ、そいつが舐めた口聞くのが悪いんだろ。それともあれか、俺らはタダ同然で命懸けろってのか」
「そうは言ってない。命の危険があることをタダでしろとは言わないよ。でも突き飛ばす必要はなかったでしょ、謝りなよ」
「お前喧嘩売ってるよな?」
男が額に血筋を浮かばせながら言う。
「売ってないよ。でもそっちが売るなら買うよ」
俺も相手の改めようとしない横暴な態度にイラついていたので、売り言葉に買い言葉で相手を挑発するようなことを言う。
「死ねや!」
男はぶち切れて、剣を抜いて襲いかかってくる。
俺はその剣を拳で打ち砕き、そのままの勢いで相手の顔面を殴り、地面に叩きつけた。
男は白目を剥いて倒れたままとなった。
「なっ! 一撃!? 私たちはAランクだぞ!?」
残りの二人が驚く。
「まだやるか? それともこの子に謝るか」
「ふざけるんじゃねぇ」
二人は俺に襲いかかってきた。
仲間がやられた現実を受け入れられないようだ。
俺は先ほどの奴と同じように顔面を殴り、気を失わせた。
しまったな、気を失わせたら謝らせることができないじゃないか。
ま、意識が戻ってから土下座させたらいいか。
そう思った俺は少年のほうを向き、しゃがんで目線を合わせる。
「俺の名前はキンタロウだ。君の名前は?」
「……あ、ロイトです」
「ロイトって言うのか。よろしくね」
警戒されないために、本題に入る前に自己紹介をする。
ロイトは目の前の騒動に呆気にとられていたようで、俺の質問に一拍遅れて答えた。
「それで、ロイトは困っていたようだけど何かあったのかな。よければ話してくれないかな」
「もしかしてお母さんを助けてくれるんですか!?」
「何かできることがあるなら、するつもりだよ。だから事情を教えてほしい」
「ありがとうございます!」
ロイトは涙ぐみながら礼を言った。
それから事情を説明してくれた。
「お母さんが病気なんです。お母さんは冒険者なんですけど、魔物に噛まれてしまって、その魔物が毒を持っていたらしくて、それで病気になって、すごく苦しそうで、医者が言うには治すためには一角狼の光る角がいるらしくて、そ、それが、なければあと三日で亡くなるって」
ロイトは母親を想って涙ぐみながら話した。
「一角狼がいる場所は分かる?」
「はい、この街の近くのダンジョンにいるそうです」
「分かった。俺がとってくるよ。今日中に取ってくれば間に合うよな」
「は、はい」
俺はロイトに約束した。
それから三人のチンピラ冒険者を叩き起こした。
「はっ、ここは? あ! すいませんでした! 二度と生意気な口を聞きません!」
冒険者たちは状況を把握するなり俺に謝った。
「俺にはいいよ。それよりロイトに謝ってよ」
俺はロイトを自分の前に連れてくる。
「はい、もちろんです。乱暴に突き飛ばしてすみませんでした」
冒険者たちは平謝りした。
「そ、それじゃ謝ったことだし、去ってもよろしいですかね?」
と言って冒険者たちはこの場から離れようとする。
「いや、ダメだ」
俺がそれを止める。
「ま、まだ何か?」
「ああ、お前たち一角狼について知っているか?」
「それはもちろん」
「じゃあ案内してくれ。俺は一角狼がどんなか知らないし、ダンジョンのことも全然知らないからな。教えてくれ」
「え!」
俺の頼みを聞いて冒険者たちは露骨に嫌そうな顔をする。
「嫌とは言わないよな」
脅して言うことを聞かせる。
その後、アルルたちには旅の仲間の所に戻ってもらい、待機しといてもらった。
それから三人の冒険者を先頭に立たせて、街から3㎞ほど離れた場所にあるダンジョンに向かった。
ダンジョンは森の中の洞窟の内部にあった。
冒険者たちの話によれば、洞窟などの空気が淀むところには魔力が溜まりやすいらしい。そして一定以上魔力が溜まると、その魔力が集まって魔物が生まれるそうだ。そうして魔物で溢れた洞窟をダンジョンと呼ぶらしい。
魔物から獲れる素材は大変貴重で、それを採取して売ることによって冒険者は生計を立てているそうだ。ロイトの母親を治すために必要な一角狼の角も、魔物が残す物の一種だ。
そして今回のダンジョンは十階層に分かれいて、一角狼は七階層にいるらしい。
ダンジョンに入る。
中は暗いので明かりの魔法で周囲十メートルくらい照らす。
チンピラ冒険者に聞いた話じゃ、このダンジョンには彼らより強い魔物はいないそうなので、どんどん進んでいく。
一階層は兎や鞠みたいな動物の魔物だった。二階はゴブリン、三階は狼や猿の魔物、四階も同じ、五階は動く木の魔物と人を丸飲みできそうな赤い蛇の魔物だった。
この蛇がロイトの母親を毒に侵した魔物だそうだ。
といっても俺の敵ではないので、足を止めずに一撃で粉砕して先に進む。
六階は火を吹く亀と気性の荒く巨大な牛の魔物だった。問題なし。
そして七階に着いた。
七階には目的の一角狼がいた。体高が人の身長ほどあり、頭に生えた角は青白く光っていて、先端は針のように鋭かった。
角を振るって襲ってくるのを避ける。
外れた角は易々と壁を切り裂いた。
中々に強いようだ。
といっても俺の敵ではない。
他の魔物と同じように身体強化した拳を顔面に叩き込む。
すると顔面は砕けて飛び散った。
素早く目的の、青白く光る角を回収する。
「これでいいんだよな?」
「あ、はい、そうです」
一応冒険者に確認する。
合っているそうだ。
「よし、じゃあすぐに帰るぞ。俺に捕まれ」
「え? あ、はい」
三人の冒険者は訳が分からずも、俺に逆らわずに黙って従った。
「転移!!」
掛け声と共に瞬間移動する。
そしてロイトの元に戻った。
「え!!?」
冒険者が驚いている。ロイトも通行人も驚いているが無視だ。
「持って帰ったぞ。早く治療しよう」
「あ、はい。分かりました。ありがとうございます」
我に帰ったロイトは戸惑いながらも一角狼の角を受け取り、家に走った。
ロイトは家の扉を乱暴に開ける。
「な、なんじゃ!」
看病していた医者のおじさんが驚く。
「先生! 角が手に入りました! 一角狼の角が! これで治せますよね!!?」
「な、本当か! ああ! 治せるぞ!」
ロイトが報告すると医者も喜んだ。
そして医者はロイトから角を受けとる。
そして、すぐにロイトの母親の方へと向くと、角を母親の腹部へと突き刺した。
突き刺した!!
うぐっと母親はうめき声を上げる。
「何をやっているんですか!!!」
ロイトが驚いて声を荒げる。俺も驚く。
「心配するな、これが治療じゃ。まあ見とれ」
医者がそう言うが全く信用できない。
「本当にそうなんだろうな!? 嘘だったらどうなるか」
俺は医者に凄む。
「も、もちろんじゃ。嘘じゃない」
医者は必死に否定する。
疑わしいが今はこの医者を信じるしかないので俺は黙って成り行きを見守ることにした。
見ていると角から母親の体に青白い光が伝わっているのが分かった。
そして、しばらくすると母親の青白かった顔に生気が戻ってきた。
「先生!!」
「ああ! もう大丈夫だ」
医者がそう言うとロイトはお母さん! と叫んで母親に抱きついて涙を流した。
「嘘じゃなかったんですね。疑ってすみませんでした。ありがとうございます」
俺も涙を流しながら医者に礼を言う。
「ああ、気にしてないよ。それよりも私の方こそ礼を言いたい。一角狼の角を取ってきてくれたのはあんたなんだろ。ありがとう」
医者も涙を流しながら俺に礼を言った。
人の命を真剣に救おうとする本当に良い医者らしい。
そのことに感動して俺はまた涙を流すのだった。
その後、しばらくしたら目覚めるだろうと言って医者は帰っていった。
「俺もそろそろ行くよ」
俺も帰ろうと立ち上がると
「本当にありがとうございました! あのこれを! 少ないですけど」
と言ってロイトは小袋を渡してきた。
中には銅貨が十枚ほど入っていた。
「これは君のだよ」
「でもキンさんは角を取ってきてくれました」
「受け取れないよ。俺は冒険者じゃないし依頼を受けたわけじゃないからね。勝手に角を取ってきただけさ」
「でも何かお礼させてください」
「なら約束してくれるかな。今後君の近くで困っている人がいたらできる範囲でいいから助けてあげるって」
「でも、それはキンさんには関係ないことじゃ」
「そうしてくれると俺が嬉しいんだ。悲しむ人は少しでも少ない方がいいからね」
「わ、分かりました。約束します。困っている人がいたら絶対に助けます」
「ありがとう。約束だ」
俺たちは指切りをした。
そしてロイトの家を後にした。
ロイトは玄関から、いつまでも涙を流しながら手を振っていた。
それから俺はアルルたちの元に戻ると、事の顛末を話して、また旅を続けた。
話を聞いたアルルはとても嬉しそうにしていた。