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奴隷解放

 奴隷商館に着いた。

 大通りから少し奥に行った所にあるが、大きく立派な建物だった。


 とりあえずアルルとセレンを連れて中に入る。


「いらっしゃいませ」


 従業員が出迎えの挨拶をする。


「店主を呼んできてくれ」


「店主をですか?」


「ああ、購入を検討しているんだが、ここでは初めてだからね。店主と話してよい店か判断したくてね」


 でたらめな理由を話して店主を呼んでもらう。


「分かりました。今呼んできます」


 従業員はすぐに奥へと入った。

 少しして店主を連れて戻ってきた。


 店主は身なりの整った細身の初老の男だった。


「当店を初めてご利用とのこと。真に嬉しく思います。それでどのような奴隷をお望みで?」


「単刀直入に言いましょう。私たちは奴隷を買いに来たのではありません。奴隷を解放しに来たのです。奴隷を今すぐ自由にしてください。そして奴隷を売買するのを今後一切やめてください」


「はっはっはっ、冷やかしに来たのか。今すぐ帰るなら許してやろう」


 店主は笑いながらそう言ったが、目は全く笑っていなかった。


「奴隷を解放してくれるならすぐにも帰りましょう」


「貴様も奴隷にするぞ」


「やれるものなら」


「お前ら」


 店主がそう言うと奥からぞろぞろと屈強な男たちが出てきた。

 全員で七人いた。皆剣を抜いている。


「今すぐ剣を置くなら見逃してやるぞ」


 今にも切りかからんとする護衛の男たちに俺は言った。


「黙れ! お前らこいつに立場を分からせてやれ!」


 店主の命令で護衛の男たちが一斉に襲いかかってくる。


 俺は右手を高く挙げると


万雷(ばんらい)!!」


 叫びと共に振り下ろした。

 それと同時に複数の雷が轟き、護衛と店主を貫いた。


「ガハッ」


 丸焦げになった店主たちは意識を失い床に倒れ伏した。


「凄いです! キンさんは魔法も使えたんですね!」


 アルルが驚いた声をあげる。セレンも驚いている様子だ。


「魔法を使えるのって珍しいの?」


「魔法を使えるのは珍しくないですが、魔法と身体強化は大半はどちらかに適正が偏るので、キンさんみたいに両方を高いレベルで使いこなせる人は少ないです」


「そうなんだ」


「はい、そうです。だからキンさんは凄いです! はっ、それより奴隷を助けなくちゃ」


「そうだね。今残党がいないか確認するからね。サーチ!」


 そう言って俺は探知魔法を使った。

 この魔法は魔力を超音波みたいに流すことによってレーダーのように働かせる物だ。使えば効果範囲内の物や人物の形状や動きが分かるのだ。


 探知した結果、十四人の奴隷と三人の従業員がいるのが分かった。


「万雷!」


 魔法を唱えて従業員の意識を奪う。

 相手の場所が分かれば見えなくても魔法を当てることができるのだ。


「これで安全だ。奴隷になっている人たちを連れてこよう」


 と言って、アルルとセレンと一緒に奴隷たちを、捕らわれている部屋から応接間へと集めた。

 八人が獣人、三人がエルフ、二人が人間、一人が小人だった。


「セレン兄ちゃん!!」


 七歳くらいの男の子と四歳くらいの女の子が嬉し涙を流しながらセレンに抱きついている。

 他に三人の獣人の大人もセレンに礼を言っている。


 奴隷商館に赴く道中にセレンに聞いた話では、セレンが住む獣人の村の人が誘拐されたそうだ。

 それを村の戦士であるセレンが取り返しに来たが、無念にもセレンも捕まってしまったということだった。

 セレンの周りにいる彼らがその村の人なのだろう。

 セレンも嬉しそうだ。


 ただ、セレンの知り合い以外の人や獣人たちは疑いの目を俺たちに向けていた。

 奴隷から解放しに来たと説明したが、本当に解放してくれるのだろうかと半信半疑なのだろう。

 できるだけ早く安心させてあげたいので、俺は早速解放するための魔法を唱えた。


千立風刃(せんりつふうじん)


 魔法を唱えると奴隷たちの首輪が風でスパッと切られた。

 こうして首輪を着用者の肌から切り離す。

 壊れた首輪が赤く光りだす。

 首輪が爆発する前に二つ目の魔法を唱える。


「防御結界!」


 唱えると、奴隷たちの首輪を半透明の結界が覆った。

 その瞬間に首輪は爆発した。

 しかし誰も怪我することはなかった。

 結界が爆発を結界内に完全に抑え込んだからだった。


「首輪が取れた!」


「自由だ!」


「ようやく解放されたのか……」


「神よ!」


 首輪がなくなり、奴隷じゃなくなったと分かった人々は涙を流して喜んだ。


「さ、これであなたたちは自由です」


 俺がそう言うと、人々は口々に感謝の言葉を述べた。


「でも、ここからどうすればいいんでしょうか? 外に出てもすぐに騒ぎを聞きつけて来た衛兵に捕まってしまうのではないでしょうか」


 一人の老婆が不安そうに聞いてきた。


「それなら大丈夫です。私が瞬間移動魔法で皆さんをいっぺんに街の外まで連れていきますから。その後のことも心配いりませんよ。服は綺麗なのを渡しますし、お金もこの館に溜め込んであるものを皆さんに全てお配りしますから」


 安心させようと思って俺はそう言った。

 しかし人々はかえって不安そうになった。信じられないと言いたげな表情だ。

 あれ? どうして? と思っているとアルルが驚いた声をあげる。


「え!? キンさん瞬間移動、本当に使えるですか!?」


「そんな驚くことなの?」


「当然ですよ! 瞬間移動魔法はこの国の王族だけが使える固有魔法ですよ! ハッ! もしかしてキンさんは王族ですか!?」


 アルルが唐突にとんでもないことを言う。


「まことですか!」


「なんと! ご無礼をお許しください」


 人々もとたんに畏まる。


「違う、違う。俺が王族なわけないじゃん」


「そ、そうですか……」


 俺が否定すると人々は落胆した。

 まあ、酷い奴隷制度を認めている国を治めている人の中にもいい人がいると分かったら希望は湧くし、喜ぶだろう。それが違えば落胆するのも当然だ。

 とはいえ、なんだかやるせなかった。告白してもないのにフラれたような感じだ。


「では! 皆、隣の人と手を繋いでください。全員が繋がるように」


 まあ仕方ないと心を入れ換えた俺は、瞬間移動するための準備に移る。

 人々が数珠繋ぎになる。その人々の一人とセレンが繋ぎ、セレンとアルルが繋ぎ、アルルと俺が繋ぐ。


「全員繋がったね。じゃあいくよ」


 俺は街の外を思い浮かべる。なるべく鮮明にイメージする。

 瞬間移動は飛ぶ先が明確に想像できないと飛べないのだ。


「テレポート!」


 掛け声と共に皆の体が魔力で包まれ、次の瞬間にその場から消えた。

 そして街の外の平原に移動した。


「うわ、外だ!」


「本当に移動してる!」


 実際に瞬間移動して人々は驚いているようだ。



「じゃあ、ちょっと待ってて」


 俺は驚いている人たちをその場に残して、瞬間移動で奴隷商館に戻る。

 そして迷わずに奥の部屋へと行く。

 お金を回収するためだ。

 ちなみにお金のありかは探知魔法を使った時に把握済みだ。


 お金は1mほどの鍵付きの長方形の収納箱に入っている。

 鍵を壊して中を見ると、中は三つに仕切られていて、金貨銀貨銅貨が大量にしまわれていた。

 その中から金貨を五枚取り出し、自分の小袋に入れると、残りは瞬間移動魔法でアルルたちのもとへと送った。


 その後で俺は人気のない路地に飛んだ。

 そこからアルルがパンを売りに訪れた店の前まで歩く。

 そこにはアルルの飼う驢馬のロシオがまだ店先に繋がれていた。

 ほっ、よかったと安堵する。

 もしかしたら衛兵に連れていかれていたかもしれないからだ。


 店前の通りを衛兵たちが奴隷商館の方へと走っていく。

 幸いにも衛兵たちは奴隷商館で起きた騒ぎに対処するために、そちらに大急ぎで向かっているらしく、ロシオには目もくれていなかった。


 一旦ロシオはそのままにしておいて、俺は隣の服屋に入る。

 そこで奴隷だった人たちの分の服を買って、ロシオの上に積んでもらう。

 積み終わると俺は店員に礼を言って、瞬間移動でアルルたちの元へと戻った。


「ロシオ!! 無事だったんですね! ありがとうございます!」


 アルルはロシオに抱きついた。愛着があるのだろう。


 それから俺は元奴隷の人たちに服を配る。

 皆が服を着替え終わると今度は奴隷商人のお金を配る。

 セレンを含めて十五人にそれぞれ金貨十枚、銀貨三十七枚、銅貨四十二枚だ。


「こ、こんなにも。ありがとうございます」


 人々は感謝した。

 大勢の人に感謝されるとこそばゆい。


「さ、これであなたたちは完全に自由です。これからどうしますか? 故郷なりなんなり、私が護衛して連れていけますが」


 こそばゆいのでテキパキと次の行動に移る。


「いえ、助けていただいただけで十分でございます。ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」


 二人の人はアテがあるらしくそう言って去っていった。


「あなたたちはどうしますか?」


 残りの人たちに聞く。


「そ、それなんだが」


 セレンが気まずそうに話し出した。


「故郷のウェラの大森林まで、護衛をお願いしてもいいだろうか。本当は村の戦士である私が彼らを守らなければいけないのだろうが、実際には私も奴隷として捕まってしまった。彼らをこれから守れる自信がない。どうかお願いできないだろうか」


 セレンは頭を下げる。

 とても悔しそうだ。戦士であるのに守れる力がない自分をふがいないと思っているのだろう。


「もちろんいいですよ」


 当然俺は承諾した。


 こうして俺は彼らを護衛して、この国の東側に広がっているらしいウェラの大森林まで行くことにした。

 ちなみに彼らの中にはエルフや小人も入っている。

 彼らもウェラの大森林に住んでいるらしい。

 アルルが言うには、獣人やエルフ、小人は亜人と呼ばれていて、ほとんどの亜人が人間からの差別から身を守るためにウェラの大森林で暮らしているらしい。

 例外はドワーフで、彼らはとにかく物作りが好きで、特に金属をいじるのが好きなので金属がふんだんにある山に暮らしているらしい。


「じゃあ、ウェラの大森林目指して出発だー」


 意気揚々と俺は歩きだした。

 二人の人間、九人の獣人、三人のエルフ、一人の小人。計十五人での旅が始まった。

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