街
街に着いた。
街は外壁も建物も全て赤く、屋根は真っ白だった。
街の入口には馬車がいた。
「おおー!!」
中世っぽい風景に興奮した。
「あ、あんまりキョロキョロしないほうがいいかもしれません。衛兵に疑われちゃいます」
アルルに注意される。
うん、あんまり見ないようにしよう。街に入るまでは。
せっかくの変装が無駄になっちゃうからねと俺は考えた。
今、俺は盗賊の着ていた服を拝借して、それに着替えていた。
アルルが言うには、俺が着ていた高校の制服はやはり珍しいらしく、街に入るときにトラブルになるかもしれないとのことで事前に着替えたのだ。
服はアルルの荷袋に入れさせてもらっている。
「引きずっているのは何だ?」
街の入口に来ると、衛兵が尋ねてきた。
「盗賊です」
「……たしかに盗賊だな。お前が討ったのか?」
「はい、私が討ちました」
「分かった。報酬を渡そう」
衛兵の一人が駐屯所にお金を取りに行って帰ってくる。
「10万ナルだ」
衛兵はそう言って小袋を渡した。
中には金貨が五枚、大銀貨八枚、銀貨十枚が入っていた。
「大金ですー!」
アルルが驚いている。大金らしい。
こんな感じで盗賊を引き渡した俺たちは、意外にすんなりと街に入れてもらえた。
街の中は活気に溢れていて、軒先には露店が並び、窓には花や青や黄色やらの鮮やかな布が掛けられていた。
そしてエルフや獣人がいた。
「おおー!!!!」
街の外を目にした時よりも興奮した。
「珍しいですか?」
アルルが微笑ましそうに俺を見ている。
「そうだね。俺の故郷とは全然ちがうからね」
「そうですか。なら観光していきましょう。ちょうど私が売りに来た店もこの通りの先ですから」
「いいね。案内を頼むよ。ちょうどお金も入ったからアルルも好きな物を買ったらいいよ」
「え!? いいですよ! キンさんのお金ですから!」
「まあまあ、そう言わずに。案内してくれるお礼みたいなものだよ」
「そ、そうですか? なら遠慮せずにお願いしますね。ありがとうございます」
こうして俺たちは街の通りを観光しながら進んでいった。
うまいタレのかかった兎肉や香草のまぶされた川魚の串焼き、蜂蜜につけてから揚げたドーナツのようなお菓子や檸檬の風味の効いたフレンチトーストみたいなパンなど美味しいものを食べてまわった。
また木彫りの小さな御守りや綺麗な刺繍のスカーフなどを買ったりした。
緑色のスカーフをプレゼントするとアルルはとっても嬉しそうにしていた。
こんな風に観光を楽しみながら進んでいると、アルルの目的の店に着いた。
そこは街の人向けのパン屋だった。村で焼いたパンを売りに来たらしい。
パンを売った後は横の店で自分で刺繍した布を買ってもらうそうだ。
アルルは頑張り屋さんだ。
「ちょっと待っていてください」
アルルは軒先に繋いだ驢馬からパンの入った袋を持って店に入っていった。
邪魔になってはいけないので、俺は驢馬と一緒に軒先で待つことにした。
そうして驢馬の尻尾で遊びながらボーっとしていると、男の怒声が聞こえてきた。
「何をしている!! こんなことも出来ないのか!? 愚図が!!」
驚いて俺はそちらを見た。
通りの反対側の店の出口に怒声を発した男がいた。ちょっと身なりのいい小太りのおっさんだ。
そしておっさんの前には裸で四つん這いになった、たくましい肉体の男がいた。
裸の男!!!???
思わず二度見した。びっくりだ。
なぜ裸!? 四つん這い!?
訳が分からない。
よく見てみると、その男性には銀色の獣耳と尻尾が生えていた。首には太い首輪が着いている。
AVか!?
俺は混乱した。
俺が混乱しているうちに、おっさんはわざとジャンプして男に乗っかった。
「うっ!」
当然男は衝撃に耐えられずに肘を地面に着いて、体を沈ませる。
そうすると、またおっさんが怒鳴った。
「体を動かすなと何度言ったら分かるんだ!! 役立たず!!」
おっさんは男の頭を強く殴った。
男は苦痛に顔を歪ませる。
それでも男は、おっさんの早く行けという命令に大人しく従って、四つん這いで歩きだした。
その表情には悔しさが滲み出ていた。
それを見て、俺の怒りは沸騰。
身体強化をして瞬時におっさんの元に移動すると、全力で殴りかかった。
途中でおっさんの後ろに控えていた護衛の男が割り込んできたが、構わずに殴り、護衛ごとおっさんを吹き飛ばした。
数m飛んでいった。
「な、何をするんだああ!!!」
地面から素早く立ち上がったおっさんが怒鳴った。
護衛が間に入ったことでダメージは軽減されたようだ。
それでも歯は複数折れ、口まわりは血だらけだった。
そして護衛は気絶しているようだ。
「貴様! ワシを誰だと思っている! こんなことしてタダで済むと思うなよ!!」
「貴様こそなんて非道をしているんだ!!」
俺はおっさんに怒りをぶつける。
「何のことだ!」
おっさんは本当に何の事かさっぱり分からない様子で尋ねてきた。
それを見てさらに俺は怒りが湧いた。
「今、この男性に酷い事をしていただろう!!」
「は!? 何を言っている!? そいつは奴隷だぞ!!」
「奴隷だろうと何だろうと人にはやってはいけないことがあるだろうが!!」
「そいつは人ではないではないか!! 畜生ではないか!!」
おっさんのその言葉で再度ぶちギレた俺はおっさんの顔に拳をめり込ませていた。
「グヘラアアア!!!」
おっさんは数m吹っ飛んだ。
そして今度は起き上がってこなかった。
「貴様!!」
おっさんが倒されたのを見て、おっさんの護衛の残りの三人が一斉に襲いかかってきた。
そいつら全員におっさんと同じように鉄拳を食らわせ、吹っ飛ばした。
全員ダウンしたのを確認して男の方に向き直った。
そして裸だったので自分が羽織っていた外套を着せてやった。
「大丈夫ですか?」
「助けてくれたことには礼を言います。ありがとうございます。でも、もう私には構わずにお逃げください。すぐに衛兵が来るでしょうから」
「あなたはどうするんですか」
「私はどうすることもできません。この首輪がある以上逃げられませんから」
そう言って男は自らに嵌められている首輪を見せた。
主人に従うように強制させる魔法か何かが使われているのだろう。
奴隷の首輪ってやつだ。
「なら、その首輪を壊したら自由になりますか?」
「無理です。この首輪は鉄でできているので簡単には壊せません。それに無理に首輪を外そうとすれば爆発して奴隷を殺すようにできているのです」
男は悔しそうにそう言った。
「なら私が外してあげます」
「話を聞いていましたか!?」
「大丈夫です。鉄くらいなら簡単に壊せますから。怖かったら目をつぶっててください」
そう言って俺は首輪をつかむ。男は目をつぶった。
俺は身体強化をして首輪を力いっぱい握った。
首輪はぐしゃっと音を立てて簡単に壊れた。
すると突如首輪は赤く光りだした。
首輪の魔力が高まっているのが分かる。
見ていた人は爆発すると思って目を背ける。
だが爆発する前に瞬時に首輪を男から外し、空へと投げ捨てた。
その瞬間に首輪は空中で大きく爆ぜた。
「さあ、これで君は自由だ」
俺は驚いて目を見開いている男に向かって笑った。
「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
男は泣いて礼を言った。
ちょうどそんな時、店の扉が開いてアルルが戻ってきた。
「キンさん、何かあったんですか!?」
アルルは俺たちの様子を見て不思議がっている。
事情を説明する。
「そんなことがあったんですか!」
事情を聞いてアルルは驚いた。
それから男を見て、その手を取ると店の中へと戻っていった。
出てくると男は服を着ていた。
店主の持っていた服でも借りたのだろう。
「ありがとうアルル。助かったよ」
「いえ、これくらい当然です。」
アルルは笑顔で答えた。いい人だ。
「さて、これからどうしようか。故郷かどこかアテのあるところまで送ることもできるけど」
俺は男に聞いた。
「あ、そ、それなんですが」
男は歯切れ悪そうにした。
それからこう言った。
「私の仲間も助けてくれないでしょうか! 恩人に図々しいかもしれないですが!」
「仲間も奴隷になっているの!? もちろん助けるよ!!」
俺は二つ返事で答えた。
「いいんですか!? ありがとうございます!!」
男はまた俺に礼を言った。
「仲間はどこにいるの?」
「奴隷商のところに」
「よし、じゃあ今から行こうか」
こうして俺は奴隷商館に乗り込むことにした。
「アルルはどうする?付いてきたら犯罪者になっちゃうかもしれないけど。今なら引き返せるよ?」
乗り込む前にアルルに聞いた。
「もちろん付いていきますよ! キンさんのこと信じてますから」
アルルは即答した。
「よし、じゃあ行こう。えーと、名前何て言うの?」
俺は男に名前を聞いた。
「セレンです」
男が答える。
「セレンの仲間を救いに!」
おー!と俺は意気揚々と掛け声をかけ、奴隷商館に乗り込もうとした。
すると、
「待ってください! 私も助けてください」
と一人の女が騒動を眺めていた人だかりから飛び出してきた。
女は奴隷の首輪を着けていた。
「私も奴隷から解放してください。お願いします」
女は俺にそう頼み込んだ。
「いいよ」
俺はもちろんOKした。
すると、また、
「私も」
と今度は三人の奴隷が出てきて解放を頼んできた。
人間の男が一人、獣人の男が一人、獣人の女が一人だ。
どうやら街にはたくさん奴隷がいるらしい。
街の景色を見るのに気を取られていて気づかなかったようだ。
彼らの願いももちろんOKした。
そして俺は全員の首輪を外してやった。
祝砲のように四度大きな音が空に響いた。
その後、彼女らには頼るアテがあるようだったので、無一文では困るだろからとお金を渡して別れた。
彼女らは何度も礼をしながら去っていった。
こうして彼女らと別れた俺は今度こそ奴隷商館に向かうのだった。