転生
学校からの帰り道、ボケーッと空を眺めながら歩いていると、
「あんた!! 前!!」
「へ?」
ドカアアアアアン!!
トラックに轢かれて俺は死んだ。
◇◇◇◇
目を覚ますと見知らぬ平原にいた。
頭上には二つの太陽が輝き、ドラゴンが飛んでいた。
これってあれじゃね? あれだよな。あれに違いない!!
俺は興奮した。
これはあれだ! 異世界転生ってやつだ! ひゃっほーう!!
アニメの中みたいなことが実際に起きたことに心底喜んだ。
一応夢じゃないだろうかと頬をつねってみる。痛い。夢じゃない。
ということはやはりあるのだろうか。あれが。チート能力が。
「ファイヤーボール!!」
シーン。何も起こらない。
いや、待て待て。アニメを思い出せ。ほら、魔法にはイメージが大切だとかなんとか。
そうイメージだ!
頭の中想像する。まず、手のひらに魔力が集まるイメージを。そして、それが燃える火の玉に変わるイメージを。
そして、それを撃ち出す。
「ファイヤーボール!!」
手のひらから火の玉が射出された。
とてつもない勢いで飛んでいったそれは遠くの地面に当たり、爆ぜた。めっちゃ爆ぜた。大爆発だ。10mほどのクレーターができている。
「んんッーーー!!!!!」
俺は絶頂した。
これこれこれこれこれ!!!!
これぞチート能力!! ひゃほーう!!
つまらない高校生活にさらば! 奴隷のようなサラリーマン生活にさらば!! つまらない未来にさらば!!!
チート能力で俺は異世界を生きていく。自由に生きていくぜ!!
◇◇◇◇
とりあえず街を目指すことにした。
そこで情報収集だ。
「イヤー! 誰か!? 誰か!!」
街道を歩いていると後ろの方から女の子の声が聞こえてきた。
振り返れば、驢馬に乗った女の子が馬に乗った柄の悪い男四、五人に追われていた。
女の子と男たちの距離はみるみる縮まっていく。
「ハッハァァ!! 辱しめてやるぜ!!」
「ヒッヒィィ!! 誰か助けてー!!」
叫びながら女の子は必死に逃げている。
「フッフゥゥ!! 盗賊だああああ!!!」
盗賊に追われる人を助ける。異世界に来たらまず最初にすることだ。
俺は興奮していた。ヘッヘェェ!!ホッホォォ!!
「そこの方!! 助けてください!!」
俺に気づいた女の子が助けを求めてくる。
もちろんOKだ。
「いいよ。後ろに下がってて」
俺がそう言うと、女の子はとっても嬉しそうな顔になった。
「ありがとうございます!!」
感謝しながら女の子は俺の横を通り過ぎる。女の子と盗賊の間に割り込んだ形になった。
魔力を体に纏って身体強化をして盗賊を待ち構える。
先ほど、ファイヤーボールを発動してから街道に出るまでの間に、身体強化が使えることは検証済みだ。水魔法や雷魔法、瞬間移動なんかも検証済みだ。
空間収納は使えなかった!!!
「誰だか知らんが殺しちまえ!」
迷わず俺を邪魔物だと認定した盗賊が馬上から剣を振り下ろしてくる。
その剣を身体強化した拳で叩き折る。
そして驚いている敵の顔を殴って馬から吹き飛ばす。
一人が宙を舞っている間に高速で移動して、残り四人も反応する間も与えずに殴り飛ばした。
「グッヘェェェ!!!」
盗賊たちはダウンした。
俺はまた絶頂した。
「す、凄いです!」
女の子が驢馬から降りて駆け寄ってくる。
茶髪の素朴そうな感じの子だ。年は十五六だろう。
「ありがとうございます!」
ペコペコと頭を何度も下げている。一生懸命な感じがかわいらしい。
「本当にありがとうございました。少ないですけどこれを」
そう言うと、女の子は驢馬の背に乗っけてあった袋を渡してきた。中にはお金が入っていた。
「いや、いらないよ!?」
「いや、遠慮しなくてもいいですよ」
「いや、大丈夫だよ」
「命を助けていただいたんですから、これくらいはさせてください!」
「うーん、じゃあ一枚だけ」
そう言って銅貨を一枚取った。
「ありがとうございます!」
少女はお金が減ったのにとっても嬉しそうにお礼を言った。
「でも、これだけじゃ全然恩を返せてません。何か私にできることはないですか。何でも言ってください」
やる気に満ちた表情で言った。
「いや、いいよ。見返りを求めて助けてたんじゃないし」
「そうですか……」
少女はしゅんと落ち込んだ。
なんだか罪悪感がある。
「あ、じゃあ街の場所を教えてくれないかな」
そう言うと少女は見るからに嬉しそうになった。
「はい! 喜んで! どこの街ですか?」
「一番近くの街を教えてくれるかな」
「それなら私が向かうコルタですね。一緒に行きましょう。案内します」
「ありがとう」
先に歩きだした少女の後を追う。
「あっ! 待って」
盗賊のことを忘れていた。
「どうすればいいかな」
「街で兵士に引き渡せばいいと思います」
ということで俺は盗賊を少女が持っていた縄で縛って引きずりながら、少女と一緒にコルタという街へと歩きだした。
◇◇◇◇
歩きだしてすぐ少女が話かけてきた。
「私はアルルです。名前を伺ってもいいですか?」
彼女はアルルと言うらしい。
「俺は剛力丸金太郎だよ。よろしくね」
「ゴーリキマル・キンタロー。珍しい名前ですね。」
やはり日本人の名前は珍しいらしい。アルルは興味深そうだ。
「えーと、ゴ、ゴーリキマルさんは」
アルルは俺の名前を言うのが難しそうだ。
「長いからね。キンでいいよ」
「分かりました。キンさんですね。キンさんは遠くの方からきたんですか?」
「そうだね。遠くからきたね」
「マラーからですか?」
「たぶんもっと遠くかな」
「マラーより遠くですか、想像もつきません」
「あはは」
「こちらには何しに?」
「特に決まってないなあ、楽しめればいいかな」
「へえー、何だか楽しそうですね。旅人さんだったんですね」
「まあ、そんなとこ」
「そうなんですね」
そう言った後、アルルは少し考え込むようにして黙った。
その後で俺の顔をまっすぐ見つめた。真剣な顔だ。
「……あの、私も連れていってくださいませんか?」
「へ?」
「そ、その旅に一緒に連れていってほしいんです。戦いはできませんけど料理とかはできますから。……やはりご迷惑でしょうか」
アルルはそう言った。
予想外の頼みだ。
「いや、俺は迷惑じゃないけど。いきなり初対面の人についていくのはよくないんじゃない?」
「大丈夫です。キンさんは信用できます。そ、それにキンさんになら、さ、されても、大丈夫ですから。キ、キスくらいなら」
アルルは顔を赤くしながらそう言った。
え? 顔赤くなってない? 初対面なのに俺のことめっちゃ信用してない?
最後の方は小声で聞こえなかったけど、これ、俺に好意あるんじゃない?
俺は動転した。
え!? 初対面で俺に惚れる? 別にイケメンじゃないよ?
あ、でも盗賊から助けたしおかしくないのか!? ここ異世界だし?
いや、でも、どうだろう!?
いくか!? いくか!? いくってどうやって!? 俺のこと好きなんですか?って聞くの!?
いや、でも、違ってたらどうしよう!?
めっちゃ恥ずかしいよ!? 絶対ドン引いた目で見られるよ!? この後、街まで地獄になるよ!?
どうしよ!? どうしよ!?
ふぅーー。
混乱した俺は冷静になるために息をはく。
そして目を閉じて天を見る。。
「俺は一緒に行ってもいいんだけど、家族とか心配するんじゃないかな」
いけなかった! 勇気がなかった!
俺は好意を聞くことをせずに適当に話を繋げた。
アルルは顔を少し下に向けて、一瞬残念そうな表情になった。
やっぱいけたんじゃないかなあ!! もう遅いけど!!
「大丈夫です。両親はもういません」
「あ、そうなんだ、ごめんね」
「いえ、気にしないでください。両親が亡くなったのは小さい時ですから。その後叔父に引き取られたんです」
アルルは事情を説明し始めた。
「生活させてくれたことには感謝すべきだと思います。でないと死んでましたから。でも叔父の家族は私を凄いこき使ってくるんです!」
ぷりぷりと怒っている。
「家事や家畜の世話は全部私ですし、今日みたいに街に売りにいかされるんです。なのにご飯は毎日黒パンとスープのみです。塩豚を貰えるくらいには働いていると思うんです!」
「それは大変だね」
「だから連れていってくださいませんか。もうこんな生活たくさんです。もしかしたら誰か心配して探すかもしれませんけど、それは街の知り合いに事情を説明しとくので大丈夫だと思います」
「それなら問題はないね。これからよろしくね!」
「はい! よろしくお願いします! ありがとうございます!」
こうして俺は異世界に来た初日に一人目の仲間ができたのだった。