脱出の方法
エルヴィスは肩を落として言った。
「3000年も経ってたなんて…皆病気になって…王は勿論、私以外誰も生き残ってないじゃないですか」
「そうですね…ちなみに病気とはどんなものだったんですか?」
「原因はわかりません…ただ皆300年程度で亡くなり始めたんです。症状は『足腰が痛い』だの『最近すぐ眠くなったと思うと朝早く起きてしまう』だのと色々です。それまでは500年近く生きるのがほとんどだったのに」
(それって老衰じゃ?それに…さすがに500年は長すぎじゃないか?)
とオーウェンは心の中で呟いたが、300年生きる自分達も他人の事は言えないなと思いなおし、言葉には出さなかった。エルヴィスはフゥっとため息を吐くと、踏ん切りがついたように言った。
「まぁ今更どうこう言っても、もう遅いですね。…さて、久しぶりにヒトと話すことが出来て楽しかったです。私はやる事もありませんし、また酒でも飲んで長い眠りにつくことにしましょうかね」
「エルヴィスさん、一つ相談したい事があるんですが」
「何です?」
と聞くエルヴィスに、オーウェンはこの迷宮に来た理由を簡潔に話した。エルヴィスがポリポリと頭蓋骨を掻きながら言う。
「なるほどね〜、財政難のネージュ王国の新しい産業として酒造業を…そして、この迷宮を酒蔵に使いたいと…」
「ええ。転移門からも近くて材料とかを搬入しやすいですし、立地としては好条件なんです」
「うー、協力してあげたいのは山々なんですがねぇ…私、ここから出られないじゃないですか。このナリだとビビられるでしょうし…魔素さえ有れば見た目も普通の古代エルフっぽく戻るんでしょうけど」
「私達が魔法を使って魔素を発生させるというのはどうでしょうか?」
そういうと、オーウェン達は皆であらゆる魔法を唱えてみるが、MPが空になりそうになってもエルヴィスの身体にはほとんど変化が無かった。エルヴィスが少し困ったような顔をしながら言う。
「良い案だと思いましたが、皆さんの魔力ではあまり回復は期待できそうにありませんね。考えてみれば古代エルフの中でもとびきり魔力の強い魔術師達の魔法で、やっとこの程度しか回復しないんですから…難しいでしょうね」
「そのようです」
「あぁ、外に出ることさえ出来れば自然から魔素を集める事が出来るはずですが…残念です」
そう言って落胆するエルヴィスを見てオーウェンはハッと何か思いついたような顔をした。
「エルヴィスさん…俺のモノになりませんか?」
オーウェンの急な発言に周りがざわつき、エルヴィスは恥じらう乙女のように両肩を抱いて踞ってみせた。
「オーウェン、いくらなんでも守備範囲広すぎだろ!?」
「そうだよ、オーウェン。『腐っても鯛』なんて言葉もあるけど、相手は腐敗を通り越してホネだよ!」
「アレですか、モテ過ぎて頭でもおかしくなったんですか!?」
などと、好き放題ツッコむナサニエル達をなだめてオーウェンは話し始める。
「落ち着け、お前達。何を勘違いしているのか知らないが、俺が言っているのはこれだ」
そういうと、オーウェンは腰にぶら下がっている収納魔法付きバッグを指差した。いち早く理解したゴーシュが「…あぁ、なるほどね」と呟くと、ナサニエル達はわからないといった表情で言った。
「どういう事だよ、ゴーシュ?」
「収納魔法付きバッグには生物は入れられない、逆に生物じゃなければ何でも収納出来るんだ。つまり、生き物と認識されていないエルヴィスさんをバッグに入れてしまえば外に連れ出す事が出来るんじゃないかってことさ。だよね、オーウェン?」
とゴーシュが聞くとオーウェンは深く頷いて言った。
「あぁ。だが、俺のバッグに入ったモノは俺の所有物になる。つまり、エルヴィスさんが所有しているモノがエルヴィスさんも含めて全て俺のモノとして上書きされる可能性があるという訳だ」
オーウェンの言葉を聞き、ナサニエル達はホッと胸を撫で下ろす。
「ビックリしたぜ、急にあんな事を言い出すから」
「毎回思うけど、オーウェンって思わせぶりな言葉が多いのよ」
「顔が綺麗だから、もはや何でも許されるって雰囲気ありますもんね」
などと好き勝手言うナサニエル達を余所にオーウェンはエルヴィスに話しかけた。
「どうですか、エルヴィスさん?俺のバッグに入れば外に出られるかもしれません、代わりにエルヴィスさんは俺の所有物になってしまいますが」
「ここから出られるんですか!?出られるのなら所有物だろうが何だろうが構いませんよ!さぁ、今すぐ私をオーウェンさんのモノにしてください!」
「わかりました」
そう言うとオーウェンはエルヴィスに手をかざす。エルヴィスの姿が光の粒になり消えると、オーウェンのステータス画面のアイテム欄に「!」マークでエルヴィスの名前、「命の泉」と名付けられた聖杯が加わった。さらにステータス欄にも「!」マークが付いている事に気付きオーウェンがタップすると、「迷宮の所有者」という称号が出現した。既に「迷宮の攻略者」と「迷宮の破壊者」という称号が並んでおり、その3つの称号の先に統合可能という文字が光っている。オーウェンがその文字をタップすると3つの称号が統合され、「迷宮の創造主」というものに変化した。
(つい押してしまったが、「迷宮の創造主」とはなんだ…わからん)
などとオーウェンが考えていると、心配そうにゴーシュが覗き込む。
「オーウェン、上手くいったの?」
「…あぁ、アイテム欄にエルヴィスさんの名前がある。とりあえず後は迷宮を出るだけだ」
そう言うと、オーウェン達は迷宮の扉へと引き返した。
ーーーーーー
迷宮の外に出たオーウェン達は、兵士達の目に付かない少し離れたところでエルヴィスをバッグから出した。エルヴィスは3000年ぶりの外の景色に深く息を吐いて言った。
「あぁ、魔素がとても心地良い。ありがとうございます、オーウェン…いや、我が主。これより、このエルヴィス・アーヴァインの全てを貴方に捧げましょう」
そう言うと、エルヴィスはスゥっと息を吸い込む。すると、周囲に吹雪いていた魔素がエルヴィスの身体へと集まり、エルヴィスの本来の姿が徐々に現れてきた。オーウェンとはまた違った目鼻立ちの整った優しそうな顔、細身だが長身で整った身体が徐々に現れるとナサニエルが「古代エルフが綺麗だったっていうのは本当だったんだな」と呟いた。オーウェンがエルヴィスに話しかける。
「エルヴィスさん…外に出られたのは良かったですが、やはり聖杯や迷宮の所有権も俺のモノになってしまったようです」
「いいんですよ、我が主。貴方に触れられたあの瞬間から、私の全てが貴方のモノですから。私の事もエルヴィスと呼んでください、我が主」
「わかりましt、いや…わかった、エルヴィス。これよりお前の全てをこの俺が預かろう」
とオーウェンとエルヴィスが固く握手を交わす。側で見ていたコリンが「イケメン同士の密な会話を聞くと変な想像をしてしまう風潮…ありますよね」と呟くと、ケイトやオードリーは無言で激しく首を縦に振った。
ーーーーーー
その後、オーウェン達はエルヴィスを連れて王城へと戻った。ジーブルとティンカーは急に現れたエルヴィスの顔を見て「え、誰?」と呟いてたがオーウェンがリストの人物である事を伝えると酷く驚いていた。
「3000年よ、3000年!酒飲んで3000年生き続けられるなんておかしいでしょ?」
と騒ぐジーブルの横でティンカーがオーウェンの出した「聖杯」をまじまじと眺めながら言った。
「もっと詳しく調べてみないとわからないけど、どうやらこの聖杯に溢れてくる酒には身体の組成が有機物から魔素に置き換わる術式が組まれているようだね。魔力値がべらぼうに高い古代エルフの魔術師だから成し遂げられた事だと思うよ、普通のヒトが飲めばホネさえ残らずに精霊のような存在になるだろうね」
「そんなにヤバいものだったのか、その聖杯…」
と驚くオーウェンにティンカーは付け加えた。
「コレに限らず神器には強大な力が込められているから、扱えばそれなりの反動が来ると思った方がいいよ」
「そうなのか、覚えておく。それと、ティンカー…コレは一体なんだ?」
そう言うと、オーウェンはティンカーに自分の称号一覧を見せた。
「んー、なになに『迷宮の創造主』って…これとんでもなく凄い称号なんだけど。どうやって手に入れたの?」
オーウェンが3つの称号を統一すると現れた事を伝えると、ティンカーは興奮したように言った。
「そう言えば、オーウェンはオノドリムを助けた迷宮を攻略ついでに破壊していたんだよね」
「別に意図して壊したわけじゃないが」
「いや、それでよかったんだよ!そのおかげでオーウェンは今迷宮を生み出すスキルを持ったんだから!」
「ん…どう言う事だ?」
と聞くオーウェンにティンカーは興奮覚めやらぬといった様子で言った。
「つまり、オーウェンが迷宮を作れるかもしれないって事だよ!」




