迷宮の種類
ティンカーはオーウェン達の視線に気付き、気恥ずかしそうに「んんッ」と咳払いすると話を続けた。
「と、とにかくインターネットはそう安易と使えないの!わかった?」
「まぁ、お前が開発したものにとやかく言うつもりはない。しかし、ニホン酒の作り方はインターネットじゃないと調べられないぞ」
「わかってるよ。寒冷地っていう条件と雪解け水はクリアしているんだけどね。問題は米と米麹ってヤツだ」
「…ネージュでは米を作れる土地がないもんね」
と落ち込むゴーシュに、ティンカーはチッチッチと指を振って収納バッグからいくつかの種籾を取り出した。
「種籾じゃないか、これ一体どうしたの?」
「ゼウス様の所で食べた白米の味が忘れられなくてね、研究しようと東方の商人から何種類か仕入れていたんだよ。ずっと前から育ててみたいって思ってたけど、これまでいい土地を見つけることが出来なかったのさ。プレリは気候的にも理想の土地だったからね、フルール様にお願いして植えてもらってるんだ」
「…って事は、プレリから米が手に入るってこと?」
「あぁ、しかも米はティンカーブランドが独占して仕入れる事にしてあるから、ネージュに安定して供給できると思うよ」
「でも、ジーブル様はこの話に乗ってくれるかな?こっちでは普及してない植物から取れる“米”なんて怪しいものを輸入しようだなんてさ」
不安そうにするゴーシュにオーウェンが言った。
「それは恐らく大丈夫だろう」
「どうしてそう言えるの?」
「フルール様の方術で転移門のある街まで最短で近付けたという事もそうだが、フルール様に近道を教えてもらったと伝えた時、ジーブル様はそれを聞いて俺達を信用すると言ってくれた。フルール様とジーブル様の間には何かしら信頼関係があるのだろう」
「…確かに、そうかも」
「まぁ、悩んでいてもしょうがないよ。こうなったら善は急げだ、早速ジーブル様に話に行こう」
ティンカーの一声に、オーウェン達は頷くと大浴場を後にし、ナサニエル達を連れて王城へと向かった。
ーーーーーー
「なるほどね。プレリから“米”というモノを仕入れれば、そのニホン酒というものがこの寒い地域でも作れるかもしれないのね」
「えぇ、取り敢えず麹の作り方から酒の作り方まで詳しくまとめた資料は既に手元にあります。ジーブル様が取り組んでみたいと仰ってくれるのなら、すぐにでもフルール様に米の状況を確認致しましょう」
「…期間はどのくらいで出来るのかしら?」
「麹を作るのに5日程度、ニホン酒造りまで含めると2ヶ月と少しと言った所でしょうか」
「迷っている時間は無さそうね…いいわ。進めてちょうだい。必要な資金と人員はすぐに用意するわ」
そう言うとフルールはティンカーから資料を受け取り、必要な書類をまとめるために部屋を出ていった。ナサニエルが驚いた顔をして言う。
「それにしても、良く酒造りなんて思いついたな。飲んだ事無いから想像すらつかなかったぜ」
「て← (危うく『転生前に飲んだ』と言うトコだった)…ティンカーブランドは色んな商品を扱うからね」
などとティンカーが誤魔化していると、ケイトが言った。
「でも、フルール様にどうやって確認を取るつもり?方術のせいで、来た道を逆向きには辿れないんだし」
「あぁ、それならコレを使うんだ」
ティンカーはそう言うと四角い端末を取り出した。
「なにそれ?」
「遠いトコに居る人と連絡を取る魔道具“マジックフォン”だよ。と言っても、フルール様にしか持たせてないから連絡を取れるのはフルール様だけだけど」
「すっげぇ!どうやって使うんだ!?」
と食い付くナサニエル達を抑えてティンカーは言った。
「申し訳無いけど、仕組みを教えるつもりもフルール様との会話を聞かせるつもりもないよ。プライベートだからね」
「うわぁ、ティンカーったらそんなにフルール様を独占したいのね!」
「ぐぬぬ、なんかティンカーさんがデキる良い男に見えてきてムカつきます!」
「…どう言う意味だよ、それ!?」
嫉妬の鬼と化したコリンにツッコみつつ、ティンカーは言った。
「とにかく、ボクはフルール様と話をしてくるよ。それにキミ達にもやってもらう事があるしね」
「俺達に出来ること?なんだそりゃ?」
フレッドが言うと、ティンカーはニコッと笑って言った。
「酒蔵造りさ」
ーーーーーー
ティンカーがフルールと連絡を取っている間、オーウェン達は酒蔵の予定地を探す。王都内は温泉の影響もあるせいかすっかり暖かく酒造りには不適のため、オーウェン達は防寒具を着て王都を出た。フレッドが両脇に手を挟みながら身体を震わせて言った。
「やっぱ寒ぃぃ…こんな寒さの中酒造りに出るってのはキツいわ。なるべく近場にしようぜ」
「そうだなぁ…転移門の近くなら原料も運びやすいし、出荷する時も楽なんじゃねぇか?」
そう言って転移門の側まで小走りしたナサニエルがぴたりと足を止める。
「なぁ、オーウェン…」
「何だ?」
「アレって迷宮の入り口じゃないのか?」
そう言ってナサニエルが指差した方には、転移門から約20m程度といったところか、そりたつ岸壁に2本の石柱に挟まれた堅牢な扉が見える。
「確かに、そのように見えるな」
オーウェン達はそう言うと、転移門付近にいた兵士に確認をとった。
〜〜〜兵士の話によれば、そもそもネージュ王国の興りはこの迷宮を攻略するために集まったエルフ達の集落という事である。迷宮で集めたレアアイテムを売る事で財を成したグラス家、つまりジーブルの先祖達は偶然にも温泉を発見した。グラス家はそのうち危険な迷宮攻略を自分達ですることなく、その権利を他のエルフ達に貸し与えて利益を得ると同時に傷ついた探求者を温泉で持てなす事で更に財を増やしていった。しかし迷宮の攻略が進むに連れて、出現する魔物も強くなったため次第に迷宮を攻略しようとする者は減り、迷宮の価値は薄れてしまったが温泉の方は既に有名になっていたため、現在のように温泉を中心とした観光がメインの国となったとの事だった。〜〜〜
兵士から話を聞き終わった後、ナサニエルがオーウェンに尋ねた。
「なぁ…この迷宮を攻略してその跡地を酒蔵に利用するって事は出来ないか?」
「どうだろうな、少なくともオノド殿がいた迷宮は攻略した途端に自壊した。この迷宮もそうなるんじゃないか?」
オーウェンがナサニエルの提案に懐疑的な意見をすると、ゴーシュが「可能性が無いわけじゃないと思うよ」と話に加わって来た。
「どういう事だ、ゴーシュ?」
「近年、冒険者達からの報告でどうやら迷宮は3つの種類に分けられる事がわかって来ているんだよね。1番多いのは、強い魔物が放つ魔力に惹きつけられた魔物達が集まって自然に出来る迷宮、《自然迷宮》ってヤツでね。自然迷宮には、そもそも扉が無いんだ。つまり、ここの迷宮は自然迷宮では無いって事だね」
「残りの2つは何だ?」
「扉を持つ迷宮2つのうち、1つは《魔創迷宮》と呼ばれる迷宮でね。魔剣だったり呪具だったり神に対抗する存在を安易に壊されないために魔族によって造られた迷宮なのさ。オノド殿が居た迷宮もこれに該当するんだと思うよ。特徴的なのは攻略後に速やかに迷宮を出ないと扉が崩れて外に出られなくなるってトコだね」
「なるほどな」
「そしてもう1つは、《神創迷宮》と呼ばれる迷宮だよ。魔王を弑するために作られたと言われる神器、それらを手にする力を持つものを選定するために神々によって造られた迷宮と言われているんだ。もっともこれまでの歴史の中で見つかった神器は片手で数えられる程度だけど、神創迷宮は攻略された後も残るし、魔物が出現する事が無いから攻略したヒトが住み着いたり神殿などに建て替えたりするんだよね」
「つまり、この迷宮が神創であれば酒蔵に利用出来る可能性があるということか?」
「そうだね」
オーウェンがすんなり理解するとゴーシュは満足そうにニコッと笑って頷いた。ナサニエルがゴーシュに話しかける。
「ゴーシュって迷宮に詳しいんだな」
「ティンカーの護衛役として働く際に、冒険者としての資格が必要でね。ギルド登録するときに居た古株さん達から色々話を聞かせてもらったんだよ」
「ん…ってことは、ゴーシュは冒険者のライセンス持ってんの?」
「そうだよ。だからこの国の迷宮に1人で潜る事は出来ないけど、探求者の護衛として付き従うことは出来るよ」
ゴーシュはそういうとオーウェンにグッと親指を立てて見せた。
「そうか、なら早速ジーブル様に掛け合ってこよう」
そう言うと、オーウェン達は王城へと引き返していった。




