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降りかかる難題

ナサニエルが顔を引き攣らせて言った。


「ハハ…冗談だろ?」

「事実だよ、ドワーフの国周辺には攻められて(つい)えた亜人の集落がいくつもあるし、そこの亜人達が奴隷として売買されている国もあるんだよ。ドワーフの国も過去に紛争を仕掛けられた事があってね。周辺の同盟国からの圧力と取引を全て停止するという脅しでその時は乗り切ったみたいだけど、いまだにちょくちょくちょっかいを出されてるみたいだしね」

「ちょっと待てよ…今サラッと言ったけど人族の国は、奴隷が許されているのか?」

「むしろ許している国が多いかな。家や国を無くした民衆を同情から受け入れはするけど、自国民と同等の権利を与えるわけにはいかないと言い換えたらわかりやすくなるかもね。隣国の立場からすれば彼らは亡命したわけでもなく、流れ着いただけの余所者だから。まぁ逆に、そういう考えがあるから奴隷を捕まえようと集落狩りをする小悪党達も居なくならないんだけどね」

「なんか論理的には間違ってないんだろうけど、胸がムカムカするわ」

ケイトが率直に意見を言うと、ティンカーがフフっと笑って言った。


「それでいいんだよ、間違っていない事は必ずしも正しい事じゃないんだから」

ーーーーーー


大浴場を出たオーウェン達が宿へ戻ろうとしていると、ジーブルの使用人がオーウェン達に声をかけ、もう一度城へ出向く様に伝えてきた。


「問題は解決しただろうに、今度はなんだろうな?」

「さぁな、少なくともサラマンダーよりは後回しに出来た課題なんだろう」

などと話しながらオーウェン達は王城へと入った。応接室に入るとジーブルが幾つかの書類に目を通しながらオーウェン達の到着を待っていた。


「遅くなり申し訳ありません、ジーブル様」

「別にいいわ、急に頼んだのはこちらの方だし。大浴場の方はどうだったかしら?」

「堪能させて頂きました。このようなお湯に日々浸かる事が出来るとは羨ましい限りです」

「…そこよ」

「え?」

「ヴァルドの王都にも温泉はあるけど、この国の方が湯量も泉質も豊富でしょ?この国は湯治(とうじ)を目的にくる旅人達を中心にした観光業で成り立っていたのよ。でも、サラマンダーの件ですっかり客足が遠のいてしまったようでね…」

そういうと、ジーブルは手元にあった資料をオーウェン達の方へよこした。オーウェンが受け取るより先に、ティンカーがひょいと取り上げて目を通し始める。マイペースなティンカーの様子にどこか安心感に近い感情を感じつつ、オーウェンはジーブルに質問した。


「…何の資料ですか?」

「ここ数年の各月毎における収支報告書よ、今年は問題が発覚した春先から既に収入が落ち始めていてね。特にここ数ヶ月は酷い落ち込みを見せているの。雪も継続的に降り始めたし、これから客足が増えるとも思えなくてね。このままでは身体は温まっても、(ふところ)は寒い冬を迎えてしまうわ」

「そんな状況でも、冗談言える余裕はあるんすね…」

とグレンが突っ込むが、ジーブルは聞こえなかったかのように話を続けた。

「聞けばあなた達、プレリの財政難の改革を手伝ったようじゃない?詳しく話してちょうだい」

ジーブルがそう言うと、資料を読み込むティンカーに代わりゴーシュがプレリでの大規模農業経営について話しはじめた。ゴーシュが話を続けている間、ジーブルは表情を変えることなく淡々と話を聞いていた。


「…と、このように農業の自動化を図っている状況ですね」

「なるほどね…何か参考に出来るかと思って聞いてみたけど、プレリだからこそ出来た事だったみたいね。この国にはそんな広い土地もないし、冬は植物も減ってしまうから無理だわ」

「そうですね…」

などと話していると、資料を読み終えたティンカーがふぅっと溜息を吐いた。「どうだ?」とオーウェンが声をかけるとティンカーは横に首を振って言った。


「ダメだ…観光業以外で何か出来ないかって考えてみたけど、パッと思いつかないや。ジーブル様も言ってた通り広い平地はこの辺りに無いし、寒いし岩石も多くて農業とかには不向きと言わざるを得ないね。加工業にしても、そもそも原材料をネージュ王国に運ぶより近場で加工する方がよっぽど安上がりだしさ」

ティンカーがはっきりと言い切るとジーブルは表情こそ変えなかったものの、流石にこたえたのか無口になった。オーウェンがすかさずフォローに入る。


「ジーブル様、資料だけではわからないこともあります。私達もネージュ王国に来てまだ日が浅いですし、しばらく過ごせば他に何かアイデアが見つかるかもしれません」

「まぁ、それもそうね。サラマンダーの件は2日で片付けてくれたんだし、私も気が焦っていたのかもしれないわね。まだ半年近くあるんだし、ゆっくり考えてちょうだい」

そう言うと、ジーブルは部屋から出ていった。ジーブルが部屋から出た事を確認してオーウェンがティンカーに話す。


「かなり言いきったな、あのティンカーブランドの創始者でも今回の件は難題か?」

「ネージュ王国は地理的なハンディキャップが既にあるし、そもそも温泉や自然の地域熱供給が無ければ住める土地ですら無いんだ。観光業以外の経済基盤を作るなんて、そんな簡単に解決出来る問題じゃないよ」

「…そうか、お前がそこまで言い切るならそうなんだろうな」

「…大丈夫なの?しばらく考えてみるなんて、相手に期待させるような事言っちゃって?」

「浮かばなかった時はその時だ、仕方ないとしか言いようがない。だが、俺達には足掻く力がある。ならば時間が許す限り足掻き続けてやろうじゃないか」

オーウェンの不敵な笑みに、ティンカーはフフと笑って言った。


「確かに、キミをこの世界へと導いた人達はそういう所を期待してくれたんだもんね」

ーーーーーー


ジーブルとの話し合いから1週間経とうという頃…オーウェン達はすっかりアイデアに煮詰まって居た。あれから色んな案を出し合ったが、どれもネージュ王国でなくても良いという結論に至ってしまう。疲れ切ったナサニエル達を宿に残して、オーウェンとティンカーとゴーシュは3人で王都の大浴場へと向かった。湯に浸かりながら、ティンカーが呟いた。


「ふぅ…どうしたもんかね?」

「ナサニエル達にもかなり案を出してもらったが、どれも立地や気候の関係で却下になるな」

「疲れちゃったよ。…やっぱ無理な話かもしれないね」

「まぁこの地に長らく住んでいるヒト達でも、行き詰まる状況だからな」

「…軍議だと、いくらでも続けられたんだけどなぁ」

とティンカーが言うと、ゴーシュが笑って言った。


「確かに、殿(オーウェン)の寝所で話しこんでそのまま眠る事もいっぱいあったっけ」

「命がかかっていたからな、途中で投げ出すわけにもいかなかった」

「そうだね、あの時はこうやってよく煮詰まると殿(オーウェン)が酒を…」

とゴーシュが言いかけた途端、3人ともビクンと身体を震わせた。オーウェンが頭を抱えながら言った。


「…なぜ今まで思い浮かばなかったんだろうか?」

「…仕方ないよ。転生して一度も口にしていないし…何よりボク達は子供だからね」

「そう言えば、ゼウス様の所で飲ませてもらった…あのアンケートをやってくれていた国のお酒は美味しかったね。確か…ニホン酒だったっけ?」

「あぁ、最高だったな。他にも米焼酎だの麦焼酎だのイモ焼酎だの、どれもスッキリしてそれでいて奥深い味わいだった」

とオーウェンが懐かしんでいると、ティンカーはステータス画面がオーウェン達にも見えるようにして、色々と弄りながら言った。


「なになに…寒い地域で有害な菌の繁殖も防ぎながら、綺麗な雪解け水を使って造ってるって書いてあるよ」

「ティンカー…それは何だ?」

「元の世界の現代で流行っていた“インターネット”ってヤツだよ。世界中のあらゆる知識が日々更新されて、それを誰でも簡単に見ることが出来るって言う優れものなんだ」

「…別世界の情報をリアルタイムで得るなんてことが出来るのか?」

「別世界も何も、そもそもあの世界に“インターネット”という概念を送り込んだのは他ならぬゼウス様だからね」

「ゼウス様がか…道理で色んなネタを知ってる訳だ…」

「ボクがゼウス様と連絡を取るために神術を持続的に発動できる通信機を作ったでしょ、あれはモデムやルーターっていうインターネット接続機器に似た働きもしてくれるからね。何か必要な知識がある時はこうやって調べたりするんだ」

「それなら、初めっからそれを使ってくれればいいのに…」

とゴーシュが言うと、ティンカーが反論する。


「いくら簡易的に発動できるようになったと言っても、それなりに魔力を使うからそんな簡単にホイホイと使えないよ。それに…」

「それに?」

「アニメを観るだけでかなり疲れるんだ。転生して通信機を作るまで観られなかったアニメを今じっくり見直している所なんだから!」

「…」


自信満々にオタクな発言をするティンカーに、オーウェンとゴーシュは冷ややかな視線を送った。

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