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レベルとスキル

ティンカーは腰にタオルを巻くとオーウェン達の前に立って説明を始めた。


「レベルの上がり方には、大きく分けて2つあるんだ。人族で多いのは自然上昇型、経験値が溜まると勝手にレベルが上がっていくタイプだね。そして亜人族に多いのはもう一つの選択上昇型、自分でステータス画面で上げなきゃいけないタイプだよ。タイプが分かれる理由には幾つか考察されているけど、有力な説は2つ。1つは住む地域によって経験値を多く得られる魔物の分布に差がある事、もう1つは元々の身体機能の差異によるものだね。例えば、人族の住む地域には経験値の多い魔物あまり分布していない。つまり、必然的にレベルを上げるまでに適切な時間がかかるから身体機能の向上に無理がない。そして、レベルが1上がっても元々の身体機能が亜人に比べて優れているわけでもないから、レベルが勝手に上がったところで少し動きが良くなった程度にしか感じないのさ」

「エルフやドワーフのような亜人は違うのか?」

とオーウェンが聞くと、ティンカーは深く頷いて言った。


「エルフやドワーフの生息域の近くには、高レベルの魔物が現れることが多いんだよ。低レベルのモンスターでは元々身体能力が高いエルフや知能の高いドワーフを狩ることが出来ないからね。加えて、亜人は元々の身体機能が高いためにレベルアップ毎に身体機能が急激に向上するんだ。ナサニエル達も自覚があるだろうけど、レベルを上げる毎に思考と身体の動きに多少ギャップが出てるでしょ?亜人が自分達で適度なレベルに調整出来るようになっているのは、急激なレベルアップで身体と精神のバランスを崩さないようにするためとも言われているのさ」

「なるほどなぁ…。でもじゃあ、オーウェンはどう説明出来るんだ?」

とナサニエルが言うと、ティンカーはフフフと思わせぶりに笑って言う。


「さっきまでのは一般的な話でね、本題はここからさ。皆は勇者って連中を知っているかい?」

「魔王を滅ぼす力を持った人族の事でしょ?」

とケイトが言うと、ティンカーはニコッと笑って言った。


「正解…と言ってあげたい所なんだけど、実はそれは結果論でね。実際は、レベルアップの上昇速度や、レベルアップによる身体機能向上の度合いが著しく高くなる特性を持った個体の事を言うんだ。つまり同じ量の魔物を倒しても彼らは速く強くなれるという事なんだよね」

「マジかよ、羨ましいな」

「それがそうでもないのさ…言っただろ?本来なら、レベルアップは身体と精神のバランスを崩さないように調整しなければならない。だけど彼らは人族だから、レベルは自然上昇型。つまり身体の成長に精神がついていけず、精神面に何らかの問題を抱えやすい、あるいは抱えている者が多いんだ。それこそ、周りが『魔王を倒す』という目標を与えてあげなければ簡単に道を踏み外してしまうほどにね」

「…なんか、そういうふうに聞くと可哀想だな」

「まぁね。で、勇者体質ってヤツは非常に稀だけど、亜人でも生まれてくる事がある。人族ほど有名じゃないのは自我が育っていない幼少期にバケモノじみた能力を発揮してしまって悪魔付きだのと言われて処分されてしまう事が多かったからみたいだけど、その時期を無事に乗り切った者は人族の勇者よりも比較的安全に、そして遥かに強くなれる」

「もしかして、オーウェンには…」

「そう、オーウェンにはこの勇者体質というものがあるんだ。もっとも、高レベルの『鑑定』と『解析』を同時に使いこなせるボクくらいにしか見えてないだろうけどね」

「…ようやくわかったぜ、オーウェンがレベル3でここまでやれる理由が」

「勇者体質の亜人とか…無敵でしょう」

と、ナサニエルやコリン達が納得した様子で頷く。ティンカーは続けて言った。


「でも比較的安全ってだけで、亜人にも急激な身体の変化に耐えられない可能性はある…勇者体質の中でもトップクラスの性能を持つオーウェンなら尚更ね。だからこそ、方天画戟には熟練冒険者が好む『エネルギー強化』を最初から付与して、オーウェンにレベルアップのタイミングを掴んでもらうようにしたんだ」

「なるほどね。それにしても、良くそこまで気が回るな」

「自分の作品は長く使われて欲しいからね、使う人の身体の事まで考えるのは職人や商人にとって当たり前のことなんだよ」

そう言うと、ティンカーは自慢気に鼻を啜って見せた。今度は、オーウェンがティンカーに質問をする。


「ティンカー…ゴーシュは一時的だが、あのサラマンダーを圧倒していた。レベル以外にも身体機能を向上させるものがあるのか?」

「あぁ、前にちょっとだけ話したスキルというヤツさ。大雑把に言えば、レベルや環境などのいくつかの条件にあわせて個々が得られる能力だよ。ゴーシュ、ちなみにスキルは何を使ったの?」

「僕が使ったのは『身体強化』、『剛力』、『俊足』の3つだよ」

「なるほど、どれも“基本スキル”だね。『身体強化』は一時的に自身の全身体能力値を底上げすることができて、『剛力』は腕力や脚力をさらに向上させる。『俊足』は動作速度を速くする効果があるね」

オーウェンはなるほどと言いながら質問を続ける。


「どうすればスキルを得られる?」

「“基本スキル”は種族の制限もないし、多少の個人差はあるけど一定のレベル帯になると取得できるようになるよ。身体強化はレベル9、剛力はレベル13、俊足はレベル16前後が目安だからオーウェンにはもう少し先の話かも知れないね。ナサニエル達はさっきレベリングで獲得した経験値でレベル9になれるから、身体強化を手に入れられる可能性があると思うよ」

「マジかよ!?身体強化を使えるようになったら、また俺達で方天画戟に挑戦してみよーぜ♪」

オーウェンより先にスキルが獲得出来ると得意気になるフレッドにオーウェンが言った。


「たぶん無理だと思うぞ、今の重さは800kgくらいだからな」

「…もうヒトが持っていい重さじゃなくね?」


予想外の重さを聞き、絶句するナサニエル達にティンカーが慰めの言葉をかける。

「まぁ、スキルで一時的に身体機能を向上出来るって言っても元々の基礎値が違いすぎるから、そこら辺は気にしても意味ないよ。それに、オーウェンの恩恵が有れば持ち上げられる可能性も全く無いわけじゃないしね」

「…恩恵って、レベリングのこと?」

「それも一種の恩恵だけど、ボクが言うのはスキルの事さ。レアスキルの中には、『勇者体質を持つ者に仲間として認識されている』事だったり、『勇者体質を持つ者と接触している』という事が発現条件の1つになるものもあるんだ。勇者パーティーで勇者以外の人族が同じように強くなるのもそう言う理由でね。まぁ、つまりボクらは発現する可能性が高いポジションにいるってことだよ」

「そんなスキルもあんのか、道理で人族ばっか強くなるわけだぜ。…って言うか、スキルとか知らずに良く生きてこれたな、エルフって」

「これまで地理的に他国と離れていたのが大きいんだろうね。陸は魔物の多い山と森で近付けないし、観光と物流に伴う人の流れが出来たのもつい最近だから。でも、人族の国でも徐々にエルフの国は認知されつつあるから、()()は必要だと思うよ。まぁそこら辺はヴィルヘルム国王に伝えておいたけどね」

「備えってどう言う事?」

アニーが聞くと、ティンカーは一息吐いて言った。


「戦争だよ。人族ってヤツは強欲な連中が多いからね、自分にないものを他人が持ってるとやる事は大体『殺す』か『奪う』か…あるいは」

「…あるいは?」

ナサニエルが唾を飲みながら聞くと、オーウェンが言った。


「その両方だ」

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