成長の幅
ゴーシュが後ろに飛ぶようにしてサラマンダーと距離を取る。その側をオーウェンがゆっくりと通り過ぎてサラマンダーに向かっていくのだが、先程までのオーウェンとは何かが違う。ついさっきまで息が上がっていたはずのオーウェンだが、今はとても涼しい顔をしていて威圧感も無く、それでいて妙な緊迫感を纏っていた。サラマンダーは前へ出てきたオーウェンの雰囲気に圧倒されたのか、動きを止めると再び炎を吐いた。炎がオーウェンの身体を包み込もうという瞬間、一瞬でサラマンダーの頭上に跳躍したオーウェンが全力で方天画戟を振るう。風圧でサラマンダーの頭がひしゃげて、更に方天画戟が頭ごと地面を叩き割るとサラマンダーの身体はビクンッと震えてそれ以上は動かなくなった。ゴーシュが驚きを隠せずに呟く。
「たった一撃であの硬い鱗ごと頭と地面を叩き潰すなんて、信じられない。…オーウェン、今のレベルは?」
「…3だ」
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時は少しだけ戻りゴーシュがサラマンダーと戦っている頃、ナサニエル達は城へ着きアナスタシアを引き渡した所だった。ナサニエル達が「白の鳳」に救援を頼んでいると、ティンカーがナサニエル達の方へ来て言った。
「まぁ落ち着きなって、オーウェンはそんなにヤワじゃ無いんだから」
「ティンカーは、あのサラマンダーを見てないからそんな事言えるんだよ!」
「どうしよう、こうしている間にも…オーウェン達が…」
と言いながら不安がるナサニエル達を見て、ティンカーはため息を吐きながら言った。
「ステータス画面のパーティ状況…確認してないでしょ?」
「あ!そっか、これでオーウェン達の状況がわかるんだった!…生きてる、オーウェン達は生きてるよッ、ティンカー!」
「そうでなきゃ困るよ、ボクらは他にもっとやることがあるんだから。それよりほら、もう戦いが終わったみたいだよ?今、ボクにも経験値が入ってきた」
「あ、ホントだ!私達戦ってないのにレベルが2上げられるくらいの経験値が入ってきてる!」
などとオードリーが騒いでいると、コリンがふと気付いたように言った。
「…っていうか、ティンカーさんもパーティに入ってたんですね…、戦う予定もなかったのに…」
「それを言えば姫様も君達も同じだろ?こう言うのをレベリングって言うんだ、勉強になったね!それに、ボクはドワーフで商売人なんだ。ノーリスクで貰えるものをボクが貰わないわけないじゃない?」
ティンカーは悪びれる事なく言うと、鼻歌を歌いながら城の中へと消えていった。その後ろ姿を見てグレンが言う。
「なんかティンカーって後ろめたいとか悩みとか一切無さそうだよな」
「言ってる事もド正論過ぎて反論できないし」
「商売人って皆、あんな感じなのかな…」
などと言いながら、ナサニエル達はスキップするティンカーの後ろ姿を見送った。
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一方、オーウェンとゴーシュはサラマンダーの解体を行なっていた。魔石を取り出し、皮を剥ぎ、粘液を採取しているとゴーシュがふと周囲の蒸気が濃くなっている事に気付く。
「オーウェン、ここさっきより暑くなってない?」
「…確かにな、硫黄の臭いも強くなっている気がする」
などと、会話しながらサラマンダーを動かした瞬間、先程方天画戟で破壊した地面の割れ目から水蒸気が勢いよく飛び出してきてサラマンダーの肉があっという間に茹で上がった。
「あっぶな!?もしかして、さっきの衝撃で地形変えちゃったんじゃない?」
「そんなつもりは…」
と、オーウェンが言いかけた瞬間に部屋の至る所から水蒸気が噴き出てくる。
「オーウェン…ここに居るのは、とてもまずい気がする」
「奇遇だな、俺もそんな気がしてきた所だ」
「早く乗って、脱出するよ!」
そう言うと、ゴーシュはオーウェンを背に乗せ、全速力で出口へと向かい始めた。出口へと向かう途中、今しがた通り過ぎてきた通路のあちらこちらから水蒸気が勢いよく噴き出してくる。ゴーシュは「マズいよ、マズいよ!」と言いながらこれまで以上のスピードで出口を目指す。出口まで数mと迫った時、洞窟の奥の方からズドンという轟音が聞こえ、ゴゴゴゴと地面が小刻みに震え始めた。そしてオーウェン達が外へ飛び出て道の傍に避難した瞬間、洞窟の内部から蒸気と大きな岩が幾つも飛び出してくる。洞窟の入り口正面にあった森は一瞬にして消し飛び、トンネルはその衝撃で崩れて塞がれてしまった。ゴーシュが息を切らしながら言う。
「ハァハァ…もう少し判断が遅れていたら…ヤバかったね」
「あぁ…今までで1番身の危険を感じた」
などと話しながら、ふと2人とも自分達の格好に気付く。サラマンダーとの戦いで鎧はボロボロになり、あらゆる箇所が穴だらけでジェルまみれの身体に、いつの間にか降り始めた大雪まじりの風が当たってめちゃくちゃ寒い。ナサニエル達に預けていた着替えの入ったバッグも、先程の大爆発で跡形もなく消し飛んでしまい、オーウェン達はこの格好のまま5kmの雪道をラグラスまで戻らなければならない事を悟った。
「オーウェン…どうやらまだ油断できないね」
「あぁ。流石にサラマンダーを倒してこの格好で凍死は恥ずかしい、さっさと帰ろう」
そう言うとオーウェン達はラグラスに向かって引き続き全速力で走り続けた。
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オーウェン達がラグラスへ戻ると、至る所から蒸気が出て気温が上がったおかげだろうか、街には以前よりも活気が溢れていた。城へ向かうとジーブルとナサニエル達が出迎える。
「オーウェン、あのサラマンダーを倒したんだな!」
「あぁ、レベルを上げたおかげでなんとかな」
「街の至る所から蒸気が出始めて、既にラグラス中はお前達の話題で持ちきりになってるよ。一体どうやったんだ?」
「サラマンダーを倒した時に、勢い余って地面まで割ってしまってな。地形を変えてしまったようだ」
「…普通は勢い余ってもそんな事出来ねーよ。まぁいいや、温泉も湧き始めたんだってさ。入りに行こう!」
「そうだな、かなり冷えてしまった」
などと話していると、ジーブルがオーウェンに近づいてきて話す。
「アナスタシアが負傷したと聞いた時は…まさか倒せるとは思ってなかったわ」
「サラマンダーは強大な敵でした、ゴーシュのスキルや私のレベルアップが無ければ、正直危うかったと思います」
「そう、…とにかくお疲れ様。…色々と話したい事はあるけど、今日はゆっくり休みなさい」
「有り難うございます」
そう言うと、オーウェンとゴーシュはナサニエル達と共に王都の大浴場へ向かった。
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オーウェン達が大浴場に着くと、外からでも既に沢山の客で賑わっているのがわかった。大浴場が混浴であるにも関わらずシャルロッテ達やドロシーは入りたがっていたが、ベアトリスがの必死にの説得により渋々断念した。オーウェンとゴーシュが大浴場へと入ると臭いジェルと土埃に塗れていたせいか、周囲の人々は少し怪訝な顔で見つめていたが、やがてそれがオーウェン達と分かると周囲を囲むようにして話しかけてきた。
「ヴァルドからきた少年騎士団の方達でしたか、いやぁ、本当によくやってくれました!」
「馬のお兄ちゃんも騎士団の人なの?」
「貴方、身体大きいわね…」
などと皆が話しかけてくる中、オーウェン達は「あぁ、どうも」などと言いながら特に気にする様子も無く身体を流す。周囲はしばらくざわついていたが、汚れが落ちてオーウェンの顔がはっきり見えるようになると急に静かになった。オーウェンが大きな湯船へ向かうと自然と道が出来る。
「…皆どうしたんだ、急に余所余所しい気がするが?」
「久々だなぁ、このやり取り。最近はお風呂の回が少なかったから」
「なんの話だ?」
「…まぁメタ発言はこのくらいで。それより、レベルを1つ上げただけで地形変えられるってヤバいだろ。オレ達とオーウェンでは何か違いがあるのかな?」
とナサニエルが言うと、ティンカーがスィーと泳いできて言った。
「そう言えば、まだ詳しく話していなかったね。レベル上げの話」




