サラマンダー討伐
翌日、オーウェン達は再度洞窟へと向かう。替えの下着などを入れた荷物を、入り口で待つナサニエル達に預けて、オーウェンとゴーシュとアナスタシアは3人で洞窟の中へと入って行った。昨日の探索時に掃除したこともあってか、この日はほとんど魔物に出会うことはなかった。洞窟の中央付近でオーウェン達は鎧の内側も外側も含めて全身に耐火ジェルを塗りたくる。眼球以外の全てに耐火ジェルを塗り、オーウェン達は再び洞窟の奥へと足を進める。
サラマンダーの巣の手前まで来るとアナスタシアが言った。
「打ち合わせ通り、私とゴーシュはサラマンダーの動きを止める事に専念するわ。攻撃はオーウェンに任せるからね」
「わかりました」
ドーム状の巣の中へ3人が入るとサラマンダーはこちらに気付き、舌を出しながらゆっくりとした動きで近寄ってきた。炎の中でギョロギョロとうごめく大きな目に威圧され、アナスタシアが一瞬怯む。その隙を狙ってサラマンダーがアナスタシアめがけて大きく口を開けながら突進した。すかさずオーウェンが間に入るようにしながら方天画戟で横っ面を弾き飛ばすと、サラマンダーは軽くのけぞって動きを止めた。その隙にアナスタシアは体勢を立て直しサラマンダーの左側へ、ゴーシュは右側へと回り込む。
「助かったわ、オーウェン」
「思っていたよりも随分速い…、油断しないことです!」
「アナスタシアさん、尻尾にも気をつけてください!当たると一撃で立てなくなりますよ!」
ゴーシュの忠告を聞きアナスタシアが尻尾から距離を置く。
3人がサラマンダーを囲むように位置する中、アナスタシアとゴーシュが目を狙って矢を放つが、サラマンダーが小刻みに頭を動かすため中々当たらない。オーウェンも何度か攻撃を試みるが素早い前足の薙ぎ払いでいなされてしまい、中々近づく事ができずにいた。すると、サラマンダーが周囲に向かって火炎放射器のように炎を吐き、オーウェンがまともに炎に巻き込まれてしまう。
「オーウェン!?」
「…ッ、耐火ジェルのおかげで…問題ない!」
オーウェンは強がって見せるが、その肌は日焼けしたように赤みを帯びていた。
(早く目を射なければ!オーウェンに負担が集中してしまう!)
ゴーシュの集中力が研ぎ澄まされ、放った矢がようやく右目を貫いた。油を吐きながらサラマンダーがのたうち回り、周囲は火の海となる。オーウェンとゴーシュは瞬時に距離を取るように動いたが、転がるサラマンダーの尾が不意にアナスタシアの盾に当たり、吹っ飛ばされたアナスタシアは壁に打ち付けられて気絶してしまった。オーウェンとゴーシュが急いでアナスタシアの下へと駆けつける。
「…息はしている、岩にぶつかって気絶したようだな…。ゴーシュ、ヤツが立て直す前にアナスタシア騎士長をナサニエル達の所へ連れて行ってくれ」
「オーウェン1人じゃ危ないよ、僕達も一旦引こう!」
「追いかけられれば、ナサニエル達まで危険に晒す!俺がここで足止めをする、わかったら行け!」
「…すぐ戻ってくるから…持ち堪えてよね、オーウェン」
「…当然だ、俺を誰だと思っている」
アナスタシアを抱き抱えて、ゴーシュが出口へと走り出す。サラマンダーがすぐに追いかけ出したが、オーウェンは方天画戟で右前足を掬って地面へと倒れ込ませた。サラマンダーがゆっくりと起き上がり、今度はオーウェンへと向き直り咆哮して威圧する。オーウェンはふぅとひと息つくと、サラマンダーの目を真っ直ぐ見ながら言った。
「お前は冬眠に失敗して魔物になったようだが…安心しろ。今度は永遠に眠らせてやる」
ーーーーーー
一方ゴーシュはアナスタシアを抱えながら、全速力で出口へと向かう。入る時は30分くらいかかった道程も15分程で走破し、ゴーシュはナサニエル達の所へ辿り着いた。ナサニエルがゴーシュの足音を聞き出迎える。
「思ったより早かったn…どうした?」
「ハァハァ…アナスタシア騎士長が…サラマンダーの攻撃を受けて動けなくなった」
「…オーウェンは?」
「1人で時間稼ぎをしている、僕はこれから戻ってオーウェンと共に戦う。ナサニエル達は王都にアナスタシア騎士長を運んでそのまま待機してくれ」
すると、ケイトは不安そうな表情を浮かべて言った。
「あたしも行く…足手まといかもしれないけど、オーウェンを1人にしては帰れない!」
「そうだ、俺たちも行こうぜッ!」
「僕達にも何か出来る事があるはずですッ!」
などとフレッドやコリンが同調するが、ナサニエルが止める。
「…ゴーシュの言う通りにするぞ」
「どうして?オーウェンはたった1人で戦っているのよ!?」
「…オーウェンは時間稼ぎをしているとゴーシュは言った。俺達がアナスタシア騎士長を連れて帰る時間を必死に稼いでくれているんだ。…俺達がここに留まれば今度はオーウェンが撤退出来ない。わかったら、さっさと行くぞ」
ナサニエルの言葉を聞いて、ゴーシュは安心したように洞窟の奥へと駆けて行く。ケイト達は後ろ髪を引かれる思いだったが、渋々ナサニエルの指示に従った。
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ゴーシュが出て行ってまだ10分も経っていないが、オーウェンとサラマンダーは攻撃を繰り出しては防ぐことを既に300回近く繰り返していた。その後もトップスピードで振るい続けるうちに方天画戟の重さが徐々に増えていき、500回を超えたあたりからトップスピードではギリギリ振れないほどの重さになっていた。というのも、プレリを出発した時点で既に700kgあった方天画戟はこの戦いで800kgを超える重さとなり、レベル2のオーウェンに取ってはやや重く感じるようになっていたのである。
(…ティンカーが言っていたレベルの上げ時と言うのはこれか)
オーウェンはレベルを上げるためにサラマンダーから距離を取りステータス画面を開こうとするが、サラマンダーがしつこく間合いを詰めてくるため中々開く事ができない。
(ステータス画面を開くのにも慣れたつもりだったが、まだまだ無意識というわけにはいかないようだな)
などと考えていると、ゴーシュが勢いよく飛び込んで来て言った。
「オーウェン、大丈夫!?」
「ゴーシュか…ッ!思っていたよりも速かったな…ッ!」
「全速力で飛ばしてきたからね!」
「戻って来て早々で悪いが、少し手を貸せ…ッ!あれからずっと熱烈なアプローチを受け続けている…ッ!トカゲに興味はないとッ…言ってるんだがな!」
「冗談が言えるくらいの余裕は残ってるんだね、もっとゆっくり来れば良かったかな?」
「ハハ、そうすればお前への小言の時間が延びただけだ…。10秒で良い、任せたぞ…ッ」
「もっと、ゆっくり休んでも良いよ?」
そう言いながらゴーシュは背負っていた双剣を引き抜き、オーウェンと入れ替わるようにサラマンダーの前へと立ちはだかって言った。
「彼はちょっと疲れているみたいでね、でも安心してよ、僕も退屈させるつもりはないからッ!」
そう言うと、ゴーシュは凄まじい剣捌きでサラマンダーへと肉薄する。ゴーシュのレベルは18で、単純に力だけではオーウェンに遠く及ばないが、持っているいくつかのスキルを発動する事でサラマンダーを圧倒した。
〜〜〜「スキル」とは大雑把に言えば、レベルや環境などのいくつかの条件にあわせて個々が得られる能力で一時あるいは常時発動できるものである。例えば、“基本スキル”である「身体強化」は種族の制限がなく、一定のレベル帯になると取得できるものであり、一時的に自身の全身体能力値を底上げすることができる。また「収納」などの“レアスキル”は取得できる条件が不明なものが多く、数百名から数千名に1人くらいの割合でしか確認されていないものもある。他にも“職業スキル”だの“種族スキル”だの色々分類されており、同様の効果を持つ魔法に比べた利点・欠点などの話もあるのだが、ここでは割愛する。ちなみにゴーシュが現在使っているスキルは「身体強化」、「剛力」、「俊足」という、どれもレベル上げで得られる“基本スキル”である。〜〜〜
「身体強化」で全身体能力値を上昇させ、「剛力」で攻撃力を上げたゴーシュの一撃は重く、さらに「俊足」で複数の方向から双剣で多彩な攻撃を受けてサラマンダーはたじろいだが、どれも鱗に傷が付く程度のもので深傷を負わせるまでには至らない。スキルの効果が切れるまで、まだ時間的な余裕はあるがこれほどの戦闘は転生して以来経験していなかったため、次第にゴーシュの息が上がりはじめた。
「オーウェン…ッ!10秒どころか10分はとっくに経ってるんだけど…まだかなッ!?」
とゴーシュが聞くと、先程までとは一変してオーウェンの自信に満ち溢れた声が聞こえた。
「身体の感覚がようやく掴めてきた…さぁ、そろそろ終わらせてやろう」




