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ラグラス

オーウェン達はラグラスを見て回る。王都の門をくぐるまでは風が強く非常に寒く感じられたが、王都の中は防護魔法のお陰か風もない分、幾分マシであった。市場や宿屋や役所の作りなどは別段ヴァルド王国と変わりはなく、人通りも多く活気もありテーマパークなどは無いがちょっとしたカジノなどの娯楽はしっかりある。店の品揃えも特に問題無く、一見何も不具合はなさそうである。オーウェン達は予定していた宿にチェックインを済ませ、部屋に荷物を置くと王城へと向かった。


王城の応接室に入って待つシャルロッテ達にドロシーが話しかける。

「建物の中なのに外と同じくらい寒くありませんか?」

「王都の外に比べればだいぶマシですけれど、それでもコートは手放せないですわ」

「ぶっちゃけぇ…寒いですぅ…」

「でも、ジーブル様もここに住んでいるヒト達も平気な顔をされてたし…身体がこの環境に慣れているってことかしら」

と、ドロシー達が話しているとドアが開き、めちゃくちゃ着込んだジーブルが震えながら出てきた。さっきまで一緒に居た使用人もいつの間にか防寒具を二重にも三重にも着込んでいる。


「やっぱ寒いんじゃねぇか…」

とツッコむナサニエルに「…やめろ」と言いながらオーウェンはジーブルに話しかけた。


「ジーブル様、王都を拝見させて頂きました」

「ぅむ、…それで感想は?」

「物流も人の数も特に問題は無く素晴らしい都市だと思うのですが…やはり少し寒いですね」

「…少しなんてもんじゃないわよ、すんごい寒いんだから」

とジーブルは呟くと、「へっくち」とこれまでのキャラ作りが無に帰すようなクシャミをした。


シャルロッテがジーブルに尋ねる。

「ジーブル様、暖炉やストーブのような設備は無いのですか?」

()()()()よ、そこに穴が空いてるでしょ?」

とジーブルが指差す方向を見ると、地面の所々に小さな穴がいくつも空いている。


ジーブルは話を続けた。

「そこからは地面を通して暖かい蒸気が流れ込むようになってるの。ここの地域はね、もともと火山性温泉がいくつも湧くような場所だから、地面から暖かい蒸気がいくつも噴き出していてね。ここは夏でも気温は17度くらいだから、元々それを利用できるような家の作りにするの。だから暖炉やストーブなんてそんなにいらなかったのよ」

「一種の地域熱供給というヤツですね」


〜〜〜地域熱供給とは、冷水や温水等を一箇所で管理し供給する仕組みである。供給先をまとめることで薪や石炭などの需要量を減らせるメリットがあるのだが、ラグラスではその供給先に地熱や温泉を利用しているため、環境保全の観点から見ても極めてクリーンなシステムで温度管理ができていた。〜〜〜


「でも、最近は蒸気も出なくなって、代わりに冷たい空気が流れ込んで来るようになってね。家の中が外と同じくらい寒くなっちゃてんの…へっくち」

「いつからこの状況ですか?」

「違和感があったのは春先くらいからかしら。徐々に温泉の量が減ってきて蒸気の出も悪くなっていたの。調査隊を作って周辺を調べて…異変に気付いたわ。付いてきて」

そう言うと、ジーブルはオーウェン達を引き連れて城の屋上へと移動した。


「あそこに煙が出ているのが見えるかしら?」

とジーブルが指差す。距離は王都から直線で3km程離れているだろうか、山肌に白い煙が立ち上がっている。


オーウェンは目を凝らしながら言った。

「あの煙は何でしょうか?」

「以前は無かったはずの洞窟があってね、中から凄い蒸気が出ているのよ。ウチの学者が言うには、地殻変動か何かで蒸気の流れが変わったんじゃないかって言うけど、噴火も地震も大きなものは起きてなくってね。秋口に一度調査隊を中に入れようとしたんだけど、大きな魔物(バリアント)が居たとかで逃げ出て来ちゃったの。ヴィルヘルム様に救援の手紙を出したのもその頃ね、『時間はかかるが、適切な人材を派遣する』って返事が来たけど…あれ、あなたの事でいいかしら?」

「直接命令を受けた訳ではありませんが、それぞれの国の課題を解決してくるよう言われています」

「じゃあ、きっとそうね。ヴィルヘルム様は遠回しな表現が好きな方だから。早速だけど、昼からの調査隊に合流してくれる?シャルロッテ王女達は城で待機させてね、一緒に行って何かあったらヴィルヘルム様に申し訳が立たないから」

「わかりました」


オーウェンの返事を待たずに「うー、さぶさぶ。また布団に(こも)らなきゃ」と言いながらジーブルは城へと戻っていく。


ナサニエルが笑いながら言った。

「思ったより随分可愛い女王様だな。あの時も急いで帰ったのは、威圧というより布団に(こも)りたいからだったのか」

「そのようだな、いずれにしろ早目に問題を解決しなければ。この寒さでは俺達も眠れん。もう一月もすれば雪が積もって凍死者も出かねんからな。ティンカーは、シャル様達と城に残ってくれ。ゴーシュは一緒について来てくれるか?」

「もちろんだよ、オーウェン」

そう言うと、ゴーシュとオーウェン達は身支度を始めた。

ーーーーーー


期待を寄せ集まった民衆に見送られながら、オーウェン達は洞窟へと向かう。直線距離で3km程だった洞窟付近は崖なども多く、実際には5km程の迂回路を進む必要があった。洞窟の前へと着くと内部からはもくもくと湯気が出ており、入り口の時点で既に暖かく感じられる。


調査隊指揮官で『白の(おおとり)』の騎士団長でもあるアナスタシア・ブロンが、オーウェン達に向かって言った。

「ここから先はかなり暑くなるわ、防寒具はここで脱いで行くこと。良いわね?ジーブル様からも聴いていると思うけど、中には魔物(バリアント)が多数居るから決してはぐれないように。それじゃあ行くわよ!」

洞窟の中をオーウェン達は道なりに進んでいく。途中、ゾンビやスケルトンなどのアンデッドも出てくるがオーウェン達は特に苦にする事もなく、それを処理しながら進んでいった。


アナスタシアは感心したように言う。

「少年達で構成される小さな騎士団って聴いてたから不安だったけど、腕はそこらの一般兵よりか全然良いようね。ヴァルドは人材に恵まれていて羨ましいわ」

「お褒めに預かり光栄です」

「あなたが、アウグスト騎士団長の息子さんね。大きな熊の魔物(バリアント)を倒したことは聞いているわ。でも、油断しないでね。ここにいる魔物(バリアント)は比じゃないくらい大きいから」

「姿を見たんですか?」

「えぇ、正確には顔の一部だけど。炎に包まれながらギラギラした目がこちらを見ていたのよ」


オーウェンとアナスタシアが話しながら進む。徐々に温度が上がり、サウナのような暑さになる。汗を拭いながらしばらく進むと、アナスタシアが止まるよう指示して壁の向こう側を指差す。オーウェン達が覗き込むと炎に包まれた大きなトカゲがのっしのっしと歩いていた。体高は1.5mくらいだが全長は尻尾の先まで入れると12m弱程度もある。


「なんだよ、アレ…デカ過ぎだろ」と呟くナサニエル達。


すると、ゴーシュがオーウェンの肩をツンツンと突いて言った。

「今日は一旦引いた方がいいよ、アレは簡単に倒せる敵じゃないから。倒すには準備が必要だからね」

「何か知っているのか?」

「うん、でもラグラスに戻って話すよ。これ以上ここに居てもリスクしかないから」


ゴーシュの真剣な表情を見てオーウェンはアナスタシアに王都へ戻る事を提案する。アナスタシアも了解して、オーウェン達は一旦洞窟を出る事とした。

ーーーーーー


王城に着くとゴーシュは説明を始める。

「アレは“サラマンダー”、火を(まと)ったトカゲだよ。寒い地方で度々目撃されるんだ」


〜〜〜ゴーシュによれば、サラマンダーは冬眠に失敗して魔物(バリアント)化した爬虫類の総称である。口から出す油に引火させて火を吹き、自らの身体を炎で覆っており巨体の割に素早い動きをする。氷魔法がよく効くと思われがちだが、それは体温が下がって行動が鈍くなるだけという事らしい。〜〜〜

オーウェンはふんふんと聴きながら言った。


「何か弱点とか無いのか?」

「普通に頭への打撃が効くよ。ただ普通は3〜4mくらいの大きさで、あれほどの規模のものは見た事無いんだ。それに素早いし、動くものには噛み付いて来るから正面から挑み続けるのは避けた方がいいね」

「だが、身体側は炎を(まと)ってるから近づけないだろ?」

「これを使うんだ」

そう言うとゴーシュは、ティンカーのカバンから瓶に詰められたオレンジがかった半透明のクリームを取り出した。オーウェンが匂いをスンスンと嗅ぎながら言う。


「酷い臭いだな。なんだ、これは?」

「耐火ジェル、水属性のスライムをベースにサラマンダーの体表を覆っている粘液を混ぜたものだよ。一応口に入っても問題ないけど、腐ったミカンみたいな味がするから気をつけてね」

その言葉を聞いて臭いに()せていたナサニエル達やアナスタシアがさらに嫌そうな顔をするが、オーウェンは気にせず続けた。


「耐火ジェルにサラマンダーの粘液を使っているのか?」

「そうだよ、サラマンダーは自身が燃えているわけじゃなくて粘液で弾かれた油を燃やして暖を取っているのさ。と言ってもサラマンダーの身体自体もかなり高温なんだけどね」

「…なるほどな」


そう言うと、オーウェンはナサニエル達の方へ向き直った。

「今回の魔物(バリアント)は大きい上に素早い。洞窟内ということもあって大人数は避けた方が良いだろう。どうしてもと言うなら止めはしないが…正直、お前達は入り口で待機した方が良いと思っている」


するとナサニエル達は、この臭いジェルを塗らずに済んだことにガッツポーズを決めつつ、残念そうなフリをして言う。

「いや〜、残念だな〜。サラマンダーと戦ってみたいのは山々だけど、オーウェンがそこまで言ってくれるんだから、俺たちは素直に入り口で待つことにするよ。いや〜、残念、残念」

「わかってくれて助かる」

「いやぁ、全然大丈夫だよ。…むしろ感謝してるのはこっちだから」


すると、ティンカーがオーウェンに提案した。

「それなら、前に教えたパーティ登録だけでもしておくといいよ。離れていてもお互いの状況がある程度わかるし、実際に戦うよりは当然少ないけど多少は経験値が入る仕組みになってるからね」



ティンカーのアドバイスを受けて、オーウェンは早速ステータス画面で皆をパーティに登録すると、皆に聞こえるようにハッキリと言った。

「よし、それでは早速明日向かうことにしよう。中に入るのは()()()()()()()()()()と俺とゴーシュの3()()だ」


オーウェンの決意に満ちた言葉が響き、その後に「…やっぱ、そうなるわよね」とアナスタシアの力ない言葉が響いた。


私の活動報告に、前提となる呂布さんの人柄のようなものを史実と交えて書いています。良かったら読んでみてくださいねー

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