旅立ち
ステータス画面を開く練習が始まって2週間、王都に入ってから数えると1ヶ月が過ぎようとしていた。ナサニエル達もついにレベルの概念を知り、皆7程度までレベル上げをしていた。ナサニエルがオーウェンに尋ねる。
「オーウェンはレベル2で方天画戟が持ち上げられるようになったんだよな?俺も試してみていいか?」
「やめといた方が良いと思うが…」
と言いかけたオーウェンの言葉を遮って、ティンカーが口を挟んでくる。
「良いんじゃない?試させる分には。それに今くらいだよ、挑戦出来るのも」
「…どういう意味だ?」
「まぁ見てなって。男子は集まって試してごらん」
ティンカーがそう言うと、ナサニエル達が集まって持ち上げようとする。
「…ッくはッ、全然無理じゃん。レベルの数字が上でも中身は違うってことか?」
「基本的にレベルの高い方が強いことが多いけど、中にはオーウェンみたいな規格外もいるから注意が必要になるのさ、勉強になったでしょ?ついでにもう一つ教えてあげよっか、今度は皆で持ち上げてごらん?」
ティンカーに促されて、ナサニエル達が「せーのッ」と掛け声を合わせて持ち上げると、ほんの少しだけ方天画戟が持ち上がる。ティンカーが少し驚いたような表情で言った。
「やるね〜、単純に考えて1人当たり125kgなのに凄いじゃん!」
「ま、まぁオレ達も伊達にオーウェンと一緒にいるわけじゃないからな」
と息を荒げながらも得意げなナサニエル達を見て、ティンカーはニヤリと笑う。
「じゃあ、オーウェン。今から方天画戟を全力で100回振るってみて」
「いいだろう」
オーウェンがブンブンと全力で方天画戟を振り回すと、強風が吹き荒れて木々の葉っぱが騒つく。ナサニエル達が「スッゲェ」と呆然とする中、あっという間に100回振り終えたオーウェンが息を乱すことなく「終わったぞ」と言いながら、方天画戟を地面に置いた。ティンカーがナサニエル達に言う。
「じゃあもう一度、男子皆で持ち上げてみよっか?」
「え?そんなのさっきと変わるわけないじゃん」
と言いながら、ナサニエル達は方天画戟を持ち上げようとするが今度は全く持ち上がらない。
「…アレ?…ッくッ…クソぉ、全然動かねぇ!…ハァハァ…な、なんで?」
「鍛治職人は武器に“特性”を付与する事が出来てね。これはボクがオーウェンの武器に付与した特性の1つ、『エネルギー強化』ってヤツだよ。詳しく話すとややこしいから省くけど、動いている物のエネルギーは重さと速さに依存しているんだ。この武器は所有者が物理的に限界に近い速度で振ったと判断すると、所有者の魔力を消費して一振り毎に200gずつ重くなっていくんだ。つまり今の重さは約520kgくらいで、1人当たり130kgくらいになってる。だからナサニエル達には持てなくなったんだよ」
「重くなったら振りにくくなるんじゃないの?」
とケイトが聞くと、ティンカーが答える。
「『エネルギー強化』は、熟練冒険者が自分のレベルを上げる指標にすることが多いんだ。武器が重くなってトップスピードで振り回せなくなったらまたレベルを上げるって感じでね。レベルアップだけを急ぐと身体の性能に思考が追いつかなくなる事があるからね。まぁ本来なら増える重さはもっと少なくするんだけど、レベル1上げただけでこれを軽々と持ち上げられるオーウェンだからね、これくらいがちょうどいいと思うよ。それに重量級の武器にこの特性は抜群に相性がいいのさ」
「なるほどね〜」
すると、黙っていたオーウェンが素朴な疑問を呈した。
「どこかに置きたい時はどうすれば良い?…このまま重くなり続けると床が抜けるぞ」
「そこは既に対策済みだよ、所有者の手を離れると浮遊魔法がかかって少しだけ浮遊した状態で止まるようにしてあるんだ」
「馬に乗る時はどうする?俺が担げば、俺を含めた全ての重量が馬の負担になってしまうが」
「…そこは考えてなかったや、ハハハ。…そのくらいのレベルの冒険者達は、馬に乗るヒトが少なかったんだよね〜…」
と苦笑いする側でゴーシュが言った。
「オーウェンは僕に乗れば良いよ。大人のケンタウロスは3tくらい余裕で運べるし、成長期の僕でも1.5tくらいの荷物なら問題なく運べるからさ」
「流石はケンタウロスだな、桁が違う」
ゴーシュの言葉を聞いて安心した様子のオーウェン。すると、ティンカーが不安そうに尋ねた。
「オーウェンがゴーシュに乗ったら、ボクは誰に乗るのさ?」
「安心しろ、俺の馬をお前にやる」
そう言うと、オーウェンは嬉しそうにゴーシュに飛び乗った。
ーーーーーー
翌日、旅立つ準備を整えたオーウェン達はいよいよヴァルド王国からプレリ王国へ向けて出発する。当初はティンカーにあまり良い印象を抱いていなかったヴィルヘルムも、この頃にはティンカーの事を認めるようになっていた。
「ティンカー、1年に1回は約束の物を頼むぞ?」
「えぇ、ヴィルヘルム様。しっかり納品させて頂きますよ」
去り際にヴィルヘルムと親しげに話すティンカーに、オーウェンが尋ねた。
「約束の物ってなんだ?」
「世界樹のお守りだよ。国の若い子達にも世界樹を大切にして欲しいからって1年に1回洗礼式をする事にしたんだってさ。流石に司祭はお断りしたから、次からはヴィルヘルム様が直々に子供達に渡す事になるけど」
「そうだったのか。ありがとな、ティンカー」
「お金に見合った仕事をしてるってだけさ、ボクは商売人だからね」
そう言いながらも満更でもない様子でティンカーは馬へ乗る。ヴィルヘルムがオーウェンに近寄ってきて言った。
「娘達を頼んだぞ、オーウェン?」
「この命にかえて、お守りする事をお約束致します」
そう言うと、オーウェンはゴーシュに飛び乗りナサニエル達の方へと向かう。ヴィルヘルムはオーウェン達の姿が見えなくなるまで、その背中をずっと見守っていた。
ーーーーーー
2日ほどでオーウェン達はプレリ王国との国境を越えた。それから数日間、オーウェン達は移動を続けているのだが、目の前にはだだっ広い草原と所々に木や岩がある景色が続いていた。
〜〜〜プレリ王国は草原の国である。人より動物の数が多いと言われるほど多くの羊や牛や馬が居るが、プレリのエルフ達は自分達が必要な分だけしか狩りを行わないため、その数は年々増え続けている。そのせいで何処にでも糞が落ちており、元々目立った観光地もないため観光客などからの外貨を得られる機会も無く、聖アールヴズ連合国でも最貧国となってしまった。放牧が主であるプレリ王国には村も首都も王城も無い。そもそも、城や道を舗装する金がない。そのため、オーウェン達は女王のフルール・ブリーズ・フォン・プレリがいる集落を非常にアバウトな地図に従いながら、大草原の中を探している真っ最中であった。〜〜〜
フレッドがくたびれた声でオーウェンに言う。
「おーい、いつになったら着くんだよ?自然に生えてる木や岩を目印にした地図なんかで辿り着けんのかよ…だいたいさぁ、どこいっても牛の糞臭いってどーゆーこと?人工物が無さすぎて落ち着かないんだけど」
「プレリに住むエルフは『足る事を知る』温厚な民族らしいからな、必要最低限の物だけ造ると聞く」
「道は?井戸は?糞の集積場は?『足る事を知る』っつーより『足りてない事に気づいてない』だけなんじゃねーの?」
「…あまり騒ぐと聞こえるぞ?」
「どこの誰にだよ!?」
すると何もないと思っていた空間が蜃気楼の様に歪み、フルールがオーウェン達を出迎えた。
「会議の時以来ね、オーウェン」
「ご無沙汰しております、フルール女王陛下」
「ウフフ、何も無くてビックリしたでしょ?」
「そんな事はありません、見渡す限りどこまでも続く大自然がとても魅力的でした」
「まぁ、お上手ね♡」
そう言うと、フルールに導かれてオーウェンの姿が大自然の中に消えていく。慌ててナサニエル達が追いかけると、先程まで見えていなかった集落が急に目の前に現れた。ナサニエルが驚いた顔で「どうなってんだ、これ?」と呟くとオーウェンは少し間を置いて言った。
「以前に授業でも教えたと思うが、フルール様は方術のエキスパートだ」




