レベルアップ
翌日、オーウェンはナサニエル達を世界樹の前に集めた。祭司の格好をしたティンカーが仰々しくヴィルヘルムらと共に現れ、ナサニエル達の前に立って言った。
「今日は皆に洗礼式を行うよ!この地の守護者になった世界樹に祈りを捧げて加護を得るんだ」
「加護?…加護って何?」
「簡単に言えば、世界樹という神様の力を借りて強くなるんだよ」
「へぇ〜…」
ナサニエルは頷きながらも、胡散臭さを感じているのか訝しむような表情を見せた。ティンカーはさもありなんといった様子で話を進める。
「百聞は一見にしかずって言うしね、とりあえず見ててよ。オーウェン、こっちにきて」
そう言うとティンカーはオーウェンを方天画戟の下へと誘導した。
「昨日と同じように持ってみせてよ」
「…あぁ」
そう言うと、オーウェンがデッドリフトの要領で方天画戟を何とか持ち上げて見せる。顔を真っ赤にしながら苦しそうに持つオーウェンの姿を見てナサニエルが「だ、大丈夫か、オーウェン?」と声をかけていた。
ティンカーが話を続ける。
「ボクがオーウェンのために創ったこの新しい武器はおよそ500kgあってね、今のオーウェンでは持ち上げることしか出来ないんだ」
「…いや、“持ち上げることしか”じゃないでしょ?持ち上げただけで既にヤバいんだけど」
とナサニエルがツッコむが、ティンカーは聞こえないふりをして続けた。
「じゃあ、神の力を借りればどうなるか…見てみようか」
そう言うと、ティンカーはオーウェンに世界樹で創ったお守りを渡しながら、方天画戟が持ち上げられるまでステータス画面でレベルを上げるよう指示する。オーウェンが世界樹に祈るポーズを取りながらレベルを1つだけ上げると、途端に身体に不思議な感覚が流れた。
(この感覚は…なんだ?)
オーウェンが自分の身体を確かめるように見回しているとティンカーが言った。
「さぁ。もう一度持って見せてよ、オーウェン」
「あぁ」
オーウェンが再び方天画戟に挑む。すると、さきほどまではどうにか両手で持ち上げられるかどうかだった方天画戟が、片手でひょいと持ち上がった。そのあまりの軽さに、流石のオーウェンも感嘆の声を漏らす。
「驚いたな…むしろ前のものよりも軽く感じる」
「でしょ!皆、見たかい?これが神の力を借りるってことなんだ」
ティンカーがそう言うと、静まり返っていたナサニエル達が急に騒ぎ出した。
「すげぇッ!神樹の力ってすげぇよッ!」
「さっきまであんなに苦しそうだったのに…本当凄いわ」
「神樹様!世界樹様!僕にも…お、女の子にモテる力をお貸しくださいッ!」
などとコリン達が騒ぐ中、ティンカーがナサニエル達にお守りを1つずつ手渡していく。
オーウェン達が見守る中、ナサニエル達が世界樹に向かって祈りのポーズを取ると、その頭上に小さな三角の矢印が現れた。オーウェンが不思議そうにしていると、ティンカーがスッと横に来て言った。
「みんなオノド殿を神様と認めたようだね、矢印が見えたかい?それが神様を認識すると現れる「ターゲット」ってヤツだよ。選ぶと色が変わって相手の簡易ステータスが見えるようになる。まぁ、色んな情報を見るにはもっとレベル上げやスキルを持たないとダメだけどね」
「レベル上げやスキルで細かく見えるようになれば、それだけ有利になるのか」
「油断すれば逆に不利になる事もあるよ、数値を偽装するスキルを持った連中や魔物だって居るんだから。数字はあくまでも参考程度にしておかないと」
「なるほどな、覚えておこう」
「じゃあ、ボクはナサニエル達にステータスの説明をしてくるね。オーウェンは方天画戟の具合でも確かめておいてよ。ちなみにレベルは幾つくらい上げたの?」
「1つ上げて、レベル2だ」
「…ボクの工房にその重量クラスの武器を持ち込む冒険者はレベル80を超えるヒトばっかりだよ。スキルを考慮しないで話をするのはナンセンスだけど、単純に力だけならオーウェンはレベル80程度は超えてそうだね」
「…そう言えばスキルの話は聞いていなかったな」
「そっちは実戦の中で教えてあげる、まずは武器を馴染ませることだね」
「あぁ、わかった。ナサニエル達を頼んだぞ」
「オッケー、任せて」
ティンカーはそう言うと、ナサニエル達の方へと向かっていった。
オーウェンは王城に隣接された屋外鍛錬場へと1人向かい、方天画戟を振り回して自分の手に馴染ませる。
(…一見、不要にも見えた模様がグリップの役割をしているのか…前の柄よりも力が入りやすく掴み心地も良い。機能美まで備えたデザインとはこういうものを言うのか)
オーウェンは何気なく並んだ的の鎧に向かって方天画戟を振るう。すると、これまでとは比べ物にならない鋭い斬撃が飛び、ズドンという音と共に鎧だけでなくその後ろの木々まで深く抉れてしまった。
(…使い所を選ばないとな。仲間まで巻き込むようなことだけは絶対に避けねば)
オーウェンは方天画戟を何度も振りながら力具合を緩めたりして、陽が傾く頃には素早く振るっても斬撃を飛ばさないよう調整出来るようになっていた。
ーーー
一方、ナサニエル達は場所を変えてステータス画面の開き方をティンカーから教わり練習中なのだが…。やはり、ナサニエル達には難しかったようである。コリンやフレッドは赤マルを意識しすぎて変顔になり、アニー達はそれを見て笑い転げてしまい…なかなか練習が進まなかった。ナサニエルがふぅっと溜息を吐きながら言う。
「お前らさ…そうやってふざけてばっかりいると、オーウェンに置いてかれちまうぞ?」
「だってぇ、コリンの顔が必死すぎてヤバいんだもん」
「じゃあ目ぇ瞑ってやりゃ良いじゃん。目を閉じたって赤マルは見えるんだからよ」
そう言いながらナサニエルは目を閉じ、赤マルを押すイメージで実際に指を動かす。ぷにッという感触と共に自分のステータス画面が開いた。
「うっし!出来た!」
と言ってナサニエルが目を開くと目の前には顔を真っ赤にしたベアトリス、そしてその胸をぷにッ、ぷにッとしつこくクリックし続ける自分の手があった。ナサニエルが声を発するよりも速く、ベアトリスの平手が飛びナサニエルが部屋の隅へと吹き飛ばされる。叩かれた拍子にステータス画面も消えてしまい、ナサニエルは「そんなぁ〜」と言いながら突っ伏したまま涙を流していた。ゴーシュが背中に乗ったティンカーに話しかける。
「…みんな苦戦しているみたいだね」
「本来は、生まれた時から自然に慣れていくものだからね。オーウェンくらいだよ、言われてすぐ出来るのは」
「そっか、やっぱ殿…じゃなくてオーウェンって凄いね」
「昔からコツを掴むのは早かったからね、でも戦いの中で使うには、もっと慣れて貰わなくちゃ。それこそ他の作業しながら無意識で見たい項目を開けるくらいにね」
そう言うと、ティンカー達は奮闘するナサニエル達の部屋を後にした。
ーーーーー
ティンカー達が廊下を歩いていると、鍛錬場でシャワーを浴びたばかりのオーウェンがバスローブ姿で歩いてくる。ベルンハルトから聞いていた以上に美しいオーウェンの姿を見て、ティンカーがボソッと言った。
「チートだよ…今まで見てきたどの転生モノよりもチートだよ」
オーウェンは「何か言ったか?」というような表情をしながら話しかけてくる。
「ナサニエル達の訓練は終わったのか?」
「今も訓練中だよ。新しい方天画戟の調子はどうだった?」
「素晴らしい出来だった、鍛錬でこれほど昂ったのは初めてだ」
「喜んでもらえたようで良かったよ。そう言えば、オーウェン達はこれからヴァルド以外の国を回るんだよね?…ボク達もついていって良いのかな?」
ティンカーの質問に、オーウェンはフッと笑いながら言う。
「当然だ。やっと会えたんだ…離れる理由がないだろう?」
そのあまりに綺麗な笑顔と殺し文句に鼻血を出すゴーシュの背で、顔を真っ赤にしたティンカーはボソッと呟いた。
「…やっぱ、チートだ」




